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「あの、先程のお話は本気ですか?」
あのよく分からない理由のプロポーズ、本気ですか?
夢のお告げて、本気でそんな理由で結婚するの…?
っていうか、そんな理由じゃyesなんて言わないよ…!
「本気ですとも。貴女のような美しい人と結婚できるなんて…夢のようです…!」
…え、何その決定事項みたいな言い方…。
っていうか、まだ結婚するって言ってないし。
「…あの…先程のお話ですが、まだお受け…」
「ああ、そうですよね!お父上にもお許しを頂かなくてはいけませんね」
「えっ…いや、そうじゃなくて」
まだお受けしてませんて…言おうと…。
「早速明日、アンデルセン子爵殿にご連絡を致します」
ひぃ!なんだこの人!?
まだ承諾してないのに!
人の話全然聞いてない!
「ま、待って下さい!私はまだ結婚の承諾をしておりません!」
「………………え?」
いや、『え?』って何?
まだ承諾してないじゃん!
何その衝撃の事実、みたいな顔…。
「…ですから、まだ結婚するとは言っておりません」
噛んで含めるようにゆっくりと伝えたつもりだ。
これで理解してくれたかな?
「……では婚約ということにしておきましょうか」
………いやいやいや。
そういうことじゃない。
人の話聞けよ。
「…結婚も婚約もお受けできません」
「…………え?何故?」
そんなびっくりした顔されても…。
っていうか、なんでそんな自信に溢れてるんだろう…?イケメンだから?絶対振られることはないと思ってるってこと?
……なんか…ちょっと…いや、大分いけすかないな…。
「…私とモーガン伯爵様とでは階級に差もありますし、何より私は貴方をよく知りません」
子爵と伯爵じゃ生活に差がありすぎて話なんて合わない、筈。
そもそも結婚するのに今日会ったばかりの人となんて、そんな恐ろしいことしたくない。
ないと思うけど、もしモラハラDV夫とかだったら困るじゃないか!
…まぁ、この世界じゃ、よく知らない者同士が家の為に結婚するとかいうことがあるらしい。時代錯誤な現実だ。
でもそれは私のような田舎の子爵令嬢では珍しい。大体私のような貴族階級が低い娘は同じような田舎の、縁も所縁もある馴染み深い、そこそこの男性と結婚するのだ。
勿論、その当事者同士が納得して結婚する。
田舎貴族の結婚は庶民とそう変わらないものなのだ。
だが、今目の前にいる男性にとっての結婚は違う。
そこにはほぼ、何かしらの思惑があり、損得勘定と利害関係が発生する筈だ。
そういう常識なのだ。愛だの恋だの言ってる場合ではないと思うのだけど。
「…私と結婚することでモーガン伯爵家に利があるとは思えませんが」
ため息をつきながら言えば、目の前の彼は悲しそうに肩を落とした。
「…わかりました」
わかってくれたか!
そうだよね!やっぱり私とモーガン伯爵様じゃ釣り合わないよね!
これで結婚も婚約もなしで…
「…では、まず俺を知ってほしい。今度どこか一緒に出掛けよう」
「………………えぇ…?」
「良かった!じゃあ、日はまた改めて連絡させてもらうよ」
いや、今の『えぇ』は肯定じゃなくて…思わず漏れたうめき声だよ…。
「…いや、あの…」
否定しようとした私の言葉は勢いよく開いたドアの音に掻き消された。
バーン、とけたたましい音の後、続いたのはよく知る声だった。