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黙秘を貫くモネはその12歳という年齢から、修道院へと送られることになった。
厳しいと噂されるその修道院で彼女が今後どうなるのか、それはわからない。
それでも何かしら良い影響があればと思う。
一方でバットは魔力有無による選民思想が仇となり、収監されることになった。
収監される日、バットは俺を見て薄く笑った。
バットの取り調べの際、モネ同様同席したものの、こちらはモネ以上に喋らなかった。
ずっと黙ったままのバットを眺め、出会った時を思い出す。
傷をおった獣のように、周囲を威嚇し決してその心情を悟らせなかった幼い子供。
全てに憎悪し、諦めた顔。
その顔は取調室に座る時も一緒だった。
「…何かできることは?」
尋ねればバットはゆっくりとこちらを向いた。それから一音一音、噛んで含めるように呟いた。
「…何も」
何もない。それは明確な拒絶だった。
それからは完全黙秘を決め込み、結局犯した罪と周囲からの情報のみで罪状は決定した。
「もっと何かできることがあったと思う」
燦々と太陽の光が入る応接間で紅茶を啜るリリースとヘーゼル、そしてエマがコトリとティーカップを置いた。
「そうかもしれません。でも、もう過ぎたことです」
「そうだそうだ。もう事件は解決したんだぞ。お前、まだグチグチ、ジメジメ考えてんのか?」
エマはきっぱりと言い切り、リリースは嫌そうに顔をしかめた。
それからリリースはこの話は終わりとでも言うようにイチゴタルトにぶすりとフォークを突き刺したのだった。
◇◇◇
モーガン伯爵邸の庭は広く、ちょっとしたドッグランくらいなら簡単にできてしまいそうだ。
その広い庭は春の装いも美しく、整えられた花達は日光を浴びて輝いているよう。
綺麗な花を見れば、心も軽くなる。
先程まで応接間でリリース様とヘーゼル様と一緒にケーキと紅茶を楽しんでいた私は今カイト様に連れられて庭に出ている。
美しい景色に浮き足立つ私を眺めてカイト様は嬉しそうに笑った。
「…エマ、こっちへ」
花壇を眺めていると、カイト様が手を引く。
さりげなく手を繋いで、カイト様は白いベンチへと案内してくれる。
ベンチはバラの垣根を背後にしていて屋敷の窓からは見えないようにしてある。
逢い引きの為に作られたようなベンチだ。
そのベンチに隣り合って座り、カイト様は私の手を再び握り直した。
「どうしたんですか?」
心なしか緊張しているようなカイト様に向かって首を捻る。
握られた手に力が込もっているのを不思議に思いながらカイト様を見ると、困ったように笑う顔がある。
「…少しは吹っ切れましたか?」
血の繋がった姪と一緒に学んだ兄弟弟子。
取調室ではあるけれど、少しでも話せたことが何か気持ちを切り替えるものになっただろうか。
因みにこの取調室に同席というのはかなりイレギュラーらしく、騎士団勤めのレンが上に掛け合い、どうにか許可をもらったと聞いている。レンのことだから多少オーバーに言っているところもあるとは思うけれど。
「そうだね。完全に吹っ切ることはできないけど。…また二人には会いに行こうと思ってるんだ」
こちらの反応を伺うように言うカイト様に私は笑った。
カイト様はやっぱり優しい。
自分と敵対する立場だった二人のことを切り捨てることができないのだ。
そしてそれを私に隠すこともできない。
何もかもを一人で背負って、それを隠しきることができない、情けなくも優しい人。
そして私はその情けないところが嫌いではない。
それは抱えている荷物を半分持つことができるから。
私はカイト様を安心させるように微笑んだ。
「勿論です。その時は私もついていきます。二人に会う為でなく、カイト様を支える為に」
だって私達は夫婦になるのだから。
嬉しいことも辛いことも共有していきたい。
きっとそれが私の理想。
「…ずっと一緒です」
恥ずかしいことを言っている自覚はあるけれど。
照れたまま笑う私の手をカイト様はもう一度強く握り、それから、肩を引き寄せた。
温かな体温が私を包み、なされるがまま私は心地好い時間に胸をときめかせた。
季節は春。
柔らかな風が肌に心地好く、穏やかな日々。
そんな中の今日という日は特別な何かがあるわけではないけれど。
触れた手を感じながら、私はきっと今日という日を忘れない。
春風がさあっ、と吹いて花が舞う。
つられるように私達は互いを見つめ、ゆっくりと唇を重ねた。
終わり
最後までお読みいただいて、ありがとうございました!




