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 「…その話と先日の事件がどう関わってくるのですか?」


 カイト様が姓無し制度廃止の活動をしていたとは知らなかった。

 でも、だからこそカイト様は私を選んだということはわかった。


 カイト様はモモへの罪悪感を少しでも減らしたかったのだ。


 だから姓無しの少年を庇った私を選んだ。

 それはすんなりと私の胸に収まり、何の違和感も感じさせない。

 カイト様に好きだと言われた時よりも納得できる。

 カイト様が好きだというのだからそれも嘘ではないと思うけれど、それだけではない何かがきっとあったのだ。


 ただ、今の話が私の誘拐事件とどう関わりがあるのか。

 ヘーゼル様は一度頷いて続けた。


 「あの事件の黒幕はモモの娘だ」


 「………娘?風邪を拗らせて亡くなったのでは?」


 「そうだ。だがその前にモモは一人娘を産んでいる。それが今回の首謀者だろう」


 え?情報が多すぎて…ちょっとよくわからない。

 そもそも首謀者っていうのは、どういうこと?あのワカメ男は確かに誰かに指示された感じではあった。

 でもそれでモモの娘なる人物を首謀者にするってことは、何か証拠がある?

 そもそも、そのモモの娘って実在してる?

 仮に今までの全ての疑問がyesだとして、騎士団にいるレンは知ってる?

 知ってるなら教えないのも不思議だし、知らないなら、その話、まず騎士団に言うべきでは?

 ていうか、そもそも、モモの娘とカイト様に接点がある?

 疑問符が渦巻く私へリリース様が更に補助説明をしてくれた。


 「モモの娘、名前はモネっていうんだけど。モネはどういう経緯か今隣国の伯爵の養女になってる。その伯爵が、ちょっとモーガン家と因縁のある男でさ。カイトとも仲悪いんだけど」


 また情報増えたじゃん…!

 頭の処理が追い付かないわ!

 

 「ええと…つまり、そのモネさんはカイト様のことを嫌ってるということですか?だから私を誘拐した?」


 なんでそこで私が誘拐されるのか甚だ謎だ。

 

 「そういうことだな」


 「なぜ?」


 肯定するヘーゼル様に思わず丁寧語も無しで聞き返してしまった。多分鏡があったらさぞ盛大に眉間に皺を寄せている自分と会えるだろう。


 「エマがカイトの婚約者だと知ったからだろう。カイト本人を攻撃するより簡単だし効果もある、そう思ってのことだろう」


 「…なるほど。そして、それは向こうの思う通りだったわけですね」


 実際カイト様は私との婚約破棄を申し入れ、自室に引きこもってしまった。

 

 「そうだ。騎士団には伝えてあるから早晩動きはあるだろうが、それを待たずに今カイトと縁を切れば、これ以上危険な目には合わない。どうする?」


 ああ、それで先程の質問なのか。

 あの質問は私が思ってたより重い質問なんだ。

 私はゆっくりと息を吐いた。

 

 「縁を切るつもりはありません。…カイト様に会いたいのですが…」


 私がそう言ってもカイト様は会ってくれない。引きこもっているんだから、当たり前ではあるけれど。


 「そうか。そう言ってくれると助かる」


 「元々、エマにはカイトに会って貰おうと思ってたんだ。エマならあいつも反応するだろ。…エマのこと、利用するつもりで来た。悪いな」


 リリース様はばつの悪そうな顔で言う。

 そんなこと、言わなきゃわかんないのに。

 正直な人なんだと思う。そこが良いところだけど。

 余分なことだし、余計なお世話だとは思うけど、リリース様はそんな正直で貴族社会、生き抜けるのかな?

 まあ、それは置いといて。


 「カイト様に会いたいのは私の都合です。リリース様が気になさることではありません」


 控えめに笑うとリリース様は眉を下げて笑った。


 「ありがとう」


 「いいえ。…それで、いつカイト様の元へ行くのですか?今からでは遅くなってしまいますが…」


 話をしている間に時間は午後になってしまっている。

 今から行っても王都に着く頃には夜になってしまうだろう。

 

 「…宜しければ、我が家にお泊まり下さい。こんな田舎ですし、家も小さいですけれど」


 「そう言って貰えると助かる。宿は取ってあるんだが、案外ボロくてな。貴婦人の宿泊には向いていないだろう」


 ヘーゼル様はリリース様を顎で示す。…まあ、田舎の宿屋ですから、程度が知れてますよね。

 リリース様はヘーゼル様の気遣いに嫌そうに顔をしかめてはいたけれど、文句を言う程ではないようだった。


 それから私はリリース様とヘーゼル様の滞在を母に告げ、それを聞いた母は二人に会いに私の自室へとやってきた。


 

 

 「遠路遥々、よくお越し下さいました。田舎の家ですので大したおもてなしもできませんが、どうぞごゆっくりお過ごし下さい」


 にっこりと母は笑う。

 サンと同じ金色の髪はふわふわと波打っていて、母の動きに合わせて揺れる。

 背も低く、童顔の母は増えてきた口許の皺を隠すように広げた扇を顔の前で掲げている。


 「娘が大変お世話になっております。世間知らずな子ですけれど、どうぞよしなにしてくださいませ」


 「こちらこそ世話になっている。アンデルセン子爵夫人、突然で申し訳ないが、一晩世話になる」


 年齢としては大分年下のヘーゼル様だが、家格としては我が家よりも高い。だから敬語を使う必要はないし、それはカイト様も一緒だ。カイト様が父にあった時敬語を使ってくれたのは今思うと、彼の気遣いに他ならない。


 「明日また王都に戻られると聞いております。モーガン伯爵様にもどうぞ宜しくお伝え下さいませ」


 そういうと母はくるりと私を振り返る。そして一言だけ。


 「しっかりおやり」


 今まで母はカイト様との婚約の話に賛成も反対もしていなかった。急な婚約破棄の申し入れにも一切触れなかった母はこの時初めてカイト様との一件について私に言ったのだ。

 けれど、母は私の返事を聞くことなく部屋の前でヘーゼル様とリリース様に一礼して去って行った。


 しっかり、とは何を指すのか…?

 賛成も反対もしない母は私に婚約して欲しいのか、そうじゃないのか、それはわからない。

 が、恐らく母は私の決めたことには反対しないだろう。

 つまりは、『自分で納得のいく結果を出せ』、母の言いたいことはそれだけだ。

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