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事件の日から三週間と4日目の今日、私のところにお客様がやって来た。
王都からはるばる、リリース様とヘーゼル様がいらっしゃったのだ。
この田舎に似合わない、洗練されたお二人は、我が家の古臭い応接室で紅茶を啜りながら、持ってきた荷物を指差した。
「それ、カイトの家にあったエマの荷物」
「……わざわざすみません」
「それはいい。それより、お前ら、どうなってんだ?」
「………どう、とは?」
え、状況聞いてないの?
っていうか、どうなってるか聞きたいのはこっちも一緒なんですけどね。
カイト様から婚約破棄の提案の手紙をもらった後、私は直接話したいと返事を書いたのだ。
けれど、未だにカイト様からは了承の返事も、拒否の返事もなく、完全なる放置。
自然消滅を狙ってるんですか?と、聞きたいものの、催促の手紙なんて送っても無意味なことはわかっている。
今までのカイト様だったら、きっとこんな風に無視したりしない。
それは多分、私のことを大事に思ってくれていたからだ。
でも何の反応もない今、彼は私をどう思っているのだろう。
……嫌いになってしまっただろうか。
知らずため息を溢すと、リリース様が嫌そうに顔をしかめた。
「どいつもこいつも、うじうじしやがって…」
心底ウザいと思っているのがわかる。
「……すみません…」
思わず謝るとリリース様は盛大な舌打ちをした。
苛つかせてるのはわかるけど、もう少し隠してほしい…。オブラートに包んで…。
「リリース、もう少し優しくしてやれば?」
「はん!偽善者め。そんな目的で来てないだろうが!」
「…まぁな。エマ、カイトと連絡は取れてるか?」
「…いいえ」
取れてません。無視されてます。
が、何でそんなこと?
ヘーゼル様は小さな声で『やっぱりな』と呟いた。
やっぱり?
「…あの、カイト様に何か…?」
何かあったんだろうか。
不安が顔に現れていたのであろう私にヘーゼル様は困ったようにため息をついた。
「実は、カイトがな…部屋から出てこないんだ」
…………はい?
「……えっと…それは、引きこもり、的な…?」
「的なんじゃない。完全なる引きこもりだ」
リリース様が吐き捨てるように言うと、ヘーゼル様は深いため息をついた。
いや、なんで?何で急に引きこもってるの?
「あのバカ、仕事のボイコットだけじゃ満足できないらしい。食事も殆ど手をつけてないそうだ」
「僧侶にでもなる気か、あいつは」
リリース様は何を思い出したのか、憎々しげに口をへの字に曲げた。
ああ、綺麗なお顔が台無し…。
「あの…カイト様は大丈夫でしょうか?」
そんな状態で元気なんだろうか。
体を壊さないか心配だ。
「知るか」
私の質問にリリース様の返答は非常に素っ気ないものだ。
取り付く島もなさそうな様子に思わず声が漏れる。
「そんな…」
「リリース、エマに当たるな。エマ、単刀直入に聞くが、カイトと縁を切りたいか?」
は?……カイト様と、縁を切る?
「…それは…どういう意味で…?」
「言葉通りだ。あいつと縁を切って今後二度と会うことはないようにしたいか?」
「んん?…そんなこと思っていませんけど」
なんで急に?唐突すぎない?
知り合って時間は短いけれど、私はカイト様を知った。
そしてカイト様と一緒に過ごした日は楽しかった。
こんな風にフェードアウトしたくないし、これからだって会いたいと思っている。
「あんな目にあったのに?」
「あれはカイト様のせいではないと思いますが」
「いや。あれはカイトのせいだ」
えぇ?そんなことなくない?ていうか、決めつけ過ぎでは?
ヘーゼル様は戸惑ったままの私を見て、小さなため息を溢した。
「…何も聞いてないんだな。エマ、どうして自分が狙われたかわかるか?」
「それは…犯人にカイト様への執着があったから?私が弱点になるからでしょうか?」
「そうだ。ではカイトへの執着とは何だ?」
…わからない。それは私も既に考えたことだけど、ワカメ男にでも聞かない限りわからないと思っていた。
カイト様はその理由を知っているのだろうか。
だとしたらその理由こそが、彼が誰にも会わず、食事すら放棄する理由だろうか。
「本当はカイト本人が話すべきだとは思うが、聞いてほしい。俺が知っている過去を話す」




