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お試しお付き合いの期間は一月。その間私はカイト様のお屋敷に滞在することになった。
初めは2、3日の予定だった滞在が伸びに伸びたものだ。こうなるとカイト様が用意してくれたクローゼットの中身が有難い。今日はブルーのストライプ柄ワンピースに、カイト様がくれた盗聴機改め通信ネックレスを合わせてみた。このネックレス、深いブルーの石がついていてこのワンピースによく似合うのだ。せっかくなのでアンナに言われた通り、遠慮なく使わせてもらうことにした。
そして、夜会の次の日私は両親に一月の滞在とお試しお付き合いをする旨の手紙を送った。
で、本日。その話を早々に聞きつけたサンによって呼び出されたカフェで、私の目の前でカイト様とサンは火花を散らしている。
「…お試しで付き合うなんて…常識外れにも程がありますね」
「そうですね。俺としてもそんなことせずに、今すぐ結婚してしまいたいんですが」
いやいやいや。話飛び過ぎじゃない?
「けっ…結婚なんて!冗談じゃない!早すぎる!」
「ですからまずはお試しでお付き合いすることに致しました」
「おかしいだろ!何故そうなるんだ!」
確かに!そうだよね、結婚する前に付き合うならお試しでなくてもいいんだよね。お試しとか言わず、普通に付き合えば良かった。
「ご心配なさらなくても、ちゃんと一月後には結婚しますから」
「違う!お試しでお付き合いも意味がわからないが、そもそも結婚なんて…!俺の…俺の可愛いエマが……!」
うっ…とサンは机の上で拳を握りしめる。
相変わらずのシスコンだ。
「そうは言ってもいつか結婚するんですよ。それなら、俺のところが一番良いと思いませんか?」
えー…いや、お前もすごい自信だな。
「俺はこれでも伯爵ですし、それに王都住まいですよ」
「……は?」
王都関係ある?
同じことを思ったサンが眉を寄せる。
カイト様はにっこりと笑った。
「我が家にいた方がご実家より近い距離でしょう?今より頻繁に会えるのでは?」
あ、悪魔の囁き…!
サンはその事実に愕然としている。
「………いや、いやいや。でも…距離が近くても頻繁に会えるわけでは…」
「そうですか?休日のちょっとした空き時間にこうしてお茶もできるし、仕事終わりにディナーも行けるようになりますよ?今までは出来なかったと思いますけど」
「……そうは言っても…」
うんうん、サンだって忙しいんだし。そうそう会えないんじゃない?
「今でさえ、お忙しくてなかなか里帰りもできないと聞いています。それなら、エマが俺と結婚した方が会う機会も増えると思いませんか?」
「………………モーガン伯爵。エマを宜しくお願いします」
あっ、落ちた!
悪魔の囁きに負けた!
「それはもちろん。一生大事にします」
「エマ!これでいつでも会えるな!お兄ちゃまは嬉しい!沢山お出掛けしような!」
えぇー…現金過ぎないかい?
てゆーか、サンが認めたらこの結婚はもうほぼ進むのと同義じゃん…!
この反対勢力さえ言いくるめる手際の良さ…!伯爵って怖!
「…まだ結婚するとは決まってないから」
憮然と言い返すとサンはにこりと笑った。
「そんな事言わずに早々に結婚したらいい」
手のひらを返すとはこのことだ。
さっきまでの『結婚認めない』宣言はどこに行った?
別にカイト様が嫌いなわけではないんだけど。
なんか癪だなぁ!
「…結婚するかどうかは私が決めるの!サンやお父さんに言われたからって納得しなきゃ結婚しないんだから!」
バン、と机を叩いて宣言すると私は立ち上がった。
「エマ、どこに行くんだ?」
「御手洗いよ!言わせないで!サンのバカ!」
店内だというのに、他のお客が振り返る程度の声量を出した私は一目散におトイレへと駆け込んだのだった。
この行動がこの後、大変な事態を引き起こすとは、多分誰も想像してなかっただろう。




