18
バルコニーへエスコートされ、二人きりになった途端、思わずため息がでた。
「疲れたかな?…さっきのことは気にしなくていいからね」
気遣うようにカイト様は優しく笑う。星空の下、金髪碧眼の美青年の微笑みはきらきらと眩しいくらいだ。
「でも、やっぱり略奪だと思う方が多いようですね。…理不尽な気もしますが」
やってないのに…。無実の罪だよ。
「ではその一部でも真実にしてはどうですか?」
「…というと?」
「略奪ではないですが、俺との婚約は事実にしてもいいのでは?」
「…何度もそう言って下さいますね。………ずっと聞きたかったのですが、私と結婚することで何かメリットがあるんですか?」
初めて会った時からこの人は私と結婚したいと言っている。それは、嬉しいところでもあるんだけど。
でも何故なのか、理由がわからない。
伯爵であるカイト様と子爵の娘の私とでは、レイ様の言う通り全く釣り合いが取れない。
正直、逆の立場なら私はカイト様に求婚はしないと思う。
なのに、この人は私を妻に望んでくれる。
その理由を知らないと、私はこの結婚を考えることはできない。
カイト様を見つめると、彼もじっと私を見つめ返す。
見つめ合うこと、暫し。
先に動いたのはカイト様だった。
「…ここでする話ではないかな。…部屋に移動しても?」
「わかりました」
頷くとカイト様はにこりと笑ってバルコニーからホールへ戻り、私を自室へとエスコートしてくれた。
カイト様の自室へ入るのは初めてだ。
白色と茶色を基調にした室内にアクセントカラーのような紺色の一面壁が映える。
地味じゃないけど、下品に派手じゃない、素敵な部屋だ。
その部屋の紺色のソファーへ座ると、その横にカイト様も腰を下ろした。
「…俺が君を知ったのは2年前のことなんだ」
2年前。つまり、16才の時か。
………ん?会ったことないよね?
「…お会いしたことは…なかったように思うのですが…」
こんなイケメン見たら覚えてる筈。
でも記憶にないってことは会ってないと思うんだけどな…。
「そうだね。直接会ったのはこの前のヘーゼルの屋敷が初めてだよ」
うん?じゃあ、なんで知ってるの?
顔に出ていたようで、カイト様は続ける。
「…2年前、エマの家の領地に避暑に行ったことがある。その時エマを見た」
「…見ただけですか?」
話しかけたりとかは…?しなかったんだよね?だって私は知らないんだし。でも…なんだろう、違和感があるなぁー。
だって今までの感じからしたら、直ぐに話しかけたりしそうなんだけどな。初対面で求婚したくらい直情的な人なんだし。
「本当はその時に話しかけるつもりだったんだ」
あ、やっぱり。うん、その勢いの良い感じ、カイト様っぽい。
「エマ、2年前商店で姓無しだった子供を庇っただろう?」
「……え!?あの時いらしたんですか!?」
私が姓無しの子供を庇ったのは一度だけだ。あの時の子供は今、我が家の下働きの小僧になっている。
商店で揉めたことは直ぐに家族に伝わり、帰ってから母親にめちゃくちゃ怒られた。
『あの店主は大人しく引き下がってくれたから良かったけれど、そうじゃなかったらどうなっていたか、よく考えなさい』とそれはもう…家族全員が引く程、母親はぶちギレだった。
母親の心配は有難いし、納得もできたけど、そのあと暫く外出禁止令が出されたのには辟易もした。
そんなあんまり思い出したくない出来事なのだけど。
「あのあと、母にとても怒られました。危険なことはしないようにきつく言われて、外出禁止令まで出されました」
「…母君の気持ちもわかるね。でも、その姿を見て、俺は君を好きになった」




