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美しいドレスを身につけた女性達が目の前に立ちはだかっている。
うん、これは校舎裏に呼び出しの図に似ている。てゆーか、ほぼそうなのでは?
勿論校舎裏じゃないけど。
「…貴女、どうやってあの方々に取り入ったの?」
…取り入ってはいない。
そもそもなんでこんな事に…。
モーガン伯爵邸で本日夜会が開かれている。
なんでもカイト様のお父様、つまり前伯爵の3回忌だそうで、亡くなられてから毎年この夜会は開かれているらしい。
モーガン伯爵邸で開かれる数少ない夜会とあってお呼ばれした女性達はカイト様を狙っている人も多い、とリリース様が先程教えてくれた。
そして、だからこそ気を付けるように言われたのに…。
あれよあれよと言う間にホールの隅まで連れて来られてしまった。
目の前には四人の令嬢達。
社交界デビューしたばかりの私では全員の名前はわからないけれど、その中の一人はアーモンド伯爵家の次女、レイ様だ。
我が儘で高慢、らしい。
話すのはこれが初めてだから本当かどうかはわからない。
でもこの四人を仕切っているのは彼女で間違いなさそうだ。
「貴女とモーガン伯爵が婚約するとはどういうことですの?そもそもリリース嬢が婚約されていたのではなくって?略奪ですの?」
はいきた!色々間違ってる!まず、まだ婚約してないよー。
リリース様とカイト様も婚約してませんでしたー!
よって略奪でもありませーん!
と、内心で反論するも口に出たのはこの一言だった。
「あ、えっと…違います」
「何がですの?」
全部がだよ。口を開こうとした私より早くレイ様が話し出す。
「貴女、たかだか子爵家の娘なのになんだか生意気ですわ!成金貴族のくせに!」
なんか生意気て…言語能力皆無か。何でそう思うのか言語化して…。
「なんだか生意気とは、どういうことでしょう…?」
レイ様は反論されると思っていなかったのか、一歩後退した。
「具体的にどこですか?」
後退されて間が空いた分、レイ様に距離を詰める。レイ様は更に一歩後退した。
「態度ですか?」
言いながら更に一歩レイ様に近寄る。ぐいぐい迫ってしまっているけれど、レイ様が下がるんだから仕方ない。
そう、これは仕方なくだ。
ちょっと迫れば迫るだけ後退するのが面白くてやっているわけではない。
そしてレイ様はまた後退する。
「それとも言動…?」
私、そんなに喋ってないけどね。
レイ様はひっ、と小さな悲鳴を上げた。
そんなビビった顔しなくてもいいじゃん。
レイ様が話しかけて来たのに…!
「そ、そういうところですわ!」
「……?そういうところとは…?具体的におっしゃっていただけますか?」
「だ、だからっ…つまり……えぇと…」
「どうぞご遠慮なさらずに」
「ひぃっ…」
ずいずいと迫ったのが悪かったのか彼女はずりずりと後退りする。なんでだ。私なんかそんなに圧強くないでしょうに。
「そっ…そんな風に迫ったって無駄ですわ!所詮田舎の成金貴族なのですから!わ、私以外にも不満を抱えている方がいるのですよ!」
「…はぁ…そうですか…。因みに不満とは?どういった内容でございますか?」
「そんなのご自分でお考えあそばせ!私…もう行きますわ!ご機嫌よう!」
言い終わると同時にレイ様は身を翻す。ぞろぞろと三人のお付きを従えて彼女はホールの中央へと進んでいった。
なんか私が苛めたみたいになってるけど、とりあえず、目の前の嵐は過ぎた。だけど、その嵐は別の目当てへと飛んでいったに過ぎなかった。
カイト様の元へ向かおうとした私が見たのは、先程のレイ様とお付きの令嬢達がカイト様本人に詰めよっているところだった。
どうやらレイ様が直談判しているらしい。
「…ですから、あのような田舎の成金貴族の彼女とモーガン伯爵様とでは全てに対して釣り合いが取れませんわ!」
…相当不満なんだろうなー…。まぁ確かにリリース様の後が私じゃ、不満の一つ二つ出るよねー…。
「…そうですか。確かにそうかもしれません」
……え?そこ同意するとこ?
今のは、仮にも婚約者予定の私を庇うとこじゃない?
カイト様は私に気付いているのかいないのか、彼の後ろから人混みに紛れて見ている私を振り返ることもない。
「…彼女は慈悲深く、公平です。身分や階級で人を見下したりしない。一人の男として人間として、彼女に相応しくありたいと常々思っているのですよ」
「…っ!そ、それではまるで、カイト様が相応しくないようですわ」
「おや、釣り合いが取れないと仰ったのはアーモンド伯爵令嬢ではございませんか。…早々に前言撤回していただけるように努力致しますので」
カイト様はぺこりと会釈をして此方に振り向いた。
バッチリ目があった私に微笑むと此方に足を向けてきた。
庇って貰えたことに私は安堵してカイト様につられてにっこりと微笑んだのだった。




