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翌朝、目を覚ましたら、アンナがこっちを睨んでた。

おぉぅ……寝起きから睨まれたよ…。


「…おはよう、アンナ」


「おはよう、じゃない。いつまで寝てんのよ!起きなさいよ!」


「……アンナ、お母さんみたい…」


「うるさいわ!早くベッドから下りる!もー、朝食も冷めちゃってるわよ!」


アンナはベッドの向こうにある小さなテーブルの上を指差す。

そこにはお盆に載った朝食が置かれている。

うーん、美味しそう。

アンナの言うとおり、冷めて湯気は出てないけど、朝食のいい匂いはまだ部屋に残っている。


「…朝食は部屋で食べていいの?」


何度も言うが、我が家は成金田舎貴族。お金はあっても生活様式は平民と変わらないのだ。

我が家で部屋で食事するなんて風邪を引いた時くらいしかない。


「いいわよ。旦那様は朝から仕事で忙しいの。こんな時間に起きてきて一緒に食べる暇なんてないわよ」


確かに寝過ぎた。

この朝食を頂いてから、そう時間が経たないうちに昼食になってしまうだろう。

のそのそと身支度を整え、朝食に手をかける。

昨日はフルコースだったけど、朝食も豪華だ。

フルーツがいくつかと、パンと、ヨーグルト、サラダ、それに冷めたスープとオムレツ、ベーコン。飲み物は冷めたコーヒーとミルク。

お盆に盛られていた朝食は昨日と同じくとっても美味しい。

もしゃもしゃと朝食を咀嚼していると、アンナが呆れた、と呟いてため息をついてきた。

えー…なんでそんなため息つくかな。


「…なに?」


警戒しながらアンナに問うと、彼女は眉を吊り上げた。怖。


「なに?じゃない。あんた、昨日旦那様に何も言わなかったんだって?ばっかじゃないの?」


「…耳が早いなぁ…。ご飯が美味しくて…つい」


「ばか。…もー、知らないわよ?今からじゃ迎えが来る時にはもうパーティー始まってることになるんだからね!諦めて出席しなさいよ!」


…確かに。今からカイト様に夜会パーティの前に帰りたいと伝えても、それが私の両親に伝わる頃には今日の夜、遅ければ明日の早朝だろう。

我が家にはお抱えの馬車も御者もいないから、そこから迎えの馬車を用意してここまで来てもらうとなると、どんなに早くても明日の夜になってしまう筈だ。

馬だけならすぐに用意できるけれど、平民出身の父は馬に乗れないし、馬に乗れるダンは確か今、父の仕事の一部を任されて王都から更に離れた山の中にいる筈だ。タイミングが悪い。

王都には長男のサンと次男のレンがいるけど、二人とも仕事だから急には来れないだろう。

…うーん…やっぱりアンナの言うとおり、ムリだな…。

夜会用のドレス、どうしようかなぁ…。


「アンナ、私、夜会用のドレス持ってきてないんだけど…」


「はぁ!?あんた、何言ってんの!?」


うんうん、ですよねー!


「だって聞いてなかったし…必要ないと思ってたから」


荷物多くなるし。高級な宝飾品とか持ち歩くのも怖いし。


「…ほんと、何言ってんの…?あるじゃないのよ、そこに沢山…」


「………えぇ…?」


アンナこそ何を言ってるんだ?

アンナが片手で顔を覆って、壁際にあるクローゼットをもう片方の手で指差す。

ぴったりと閉ざされたその扉とアンナを交互に見ると、アンナは顎でその扉を示した。


「開けてみて」


言われた通り、クローゼットの扉に手をかける。

つるつるに磨きあげられた扉はキィと音をたてる。


「……うわぁ…」


中には色とりどりのドレスと、平素に着られる洋服、それに靴もバッグも、帽子まである。


「何コレ!?…スゴーい…!」


「それ、好きに着ていいんですって。旦那様からのプレゼントだそうよ」


「はぁ!?」


なんだって?プレゼント?なんで?どういうこと!?


「アンナ何言ってるの!?」


「だーかーら、それ、旦那様からあんたにプレゼント。その中のドレスで夜会パーティーに出席してほしいってこと」


「………えぇぇぇぇ?」


いやいやいや。これ、プレゼントの量じゃない。

おかしいおかしい。


「夜会用のドレス以外のもあるでしょ?それはここにいる間に着てくれて構わないんだそうよ。…ねぇ、今日どれにする?これなんか、いーんじゃない?」


アンナはさも当然といったようにクローゼットの中を物色している。

取り出したワンピースはパステルブルーの可愛らしいものだ。


「わぁ、可愛い……けど、そういうことじゃない!着替えの服は持ってきてるし!プレゼントって言われても…いらないよ!」


「じゃあ、明日のドレスどうするの?」


「うっ…」


それを言われると反論できない…!

確かにドレスは持ってないんだから、明日はこの中のドレスを借りなきゃいけないけど…。でもあくまでも、もらうんじゃなくて、借りる。

そこは譲りたくない…んだけど…。


「…ドレスは、借りることに…」


「一回袖を通したドレスを返却するってこと?…あのねぇ、そんなのありえないでしょ」


そう、この貴族社会では一度袖を通した洋服は基本的に誰かに譲ることはない。

勿論形見とかなら別だけど。

自分が着たものを誰かに譲る、ということはその洋服はもう価値のないもの、という認識なのだ。だから要らないものをあげることになり、非常に失礼な行為とされるのだ。

もったいない精神と貸し借りの概念は貴族にはない。

今回も一度袖を通したドレスを返却するとなると、非常に失礼にあたる。

気に入らないから返却する、と暗に示してしまうのだ。

そんなつもりじゃなくても。

あぁ、なんて面倒臭い…!

貸し借りの概念を植え付けてやりたい…!


「大体ねぇ、この部屋にあるものは全部あんた用に新しく準備されたものばっかりなのよ!?他に使う人間なんかいないんだから!もったいないじゃないの!」


もったいないなら買わなきゃ良かったじゃん…。


「……質にでも売る…?」


「馬鹿言ってんじゃないわよ!いいじゃない、大人しく貰っときなさいよ。どうせ、はした金よ」


そりゃー、確かに伯爵家からしたらそうかもしれないけど。


「…金額の問題じゃない」


「じゃあ、何なの?旦那様はあんたにこれを渡したい。で、あんたはこれが必要。需要と供給の一致よ!つべこべ言わず大人しく着な!」


ベシッとワンピースを私の顔に叩きつけ、アンナは腰に手をあてる。


「早くしないと赤バラのリリース様とカフェにも行けないわよ!ホラ!さっさと脱ぐ!着る!」


「…うぅっ……無念…」


何バカ言ってんの、とアンナがため息をつく声を聞きながら、私は渋々洋服を持ってフィッティングルームへ歩き出した。

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