12
荷物の整理をしながら事情を、勿論リリース様とヘーゼル様がお付き合いされているのはふせて、説明するとアンナはふぅーん、とつまらなそうに声をあげた。
「なーんだ。略奪したわけじゃないのね。…ゴシップじゃないなんて…つっまんないわぁ…」
「でも、やっぱりそう見えるよね……あぁ……困ったなぁ…」
ふぅ、と深いため息をつくとアンナはカラカラと笑った。
「御愁傷様。まー、せいぜい旦那様に守ってもらったら?」
「………守る?」
守られるようなこと、ある?
そんな恐ろしい事件の前触れじゃあるまいし…
「そりゃ、男の甲斐性でしょ?あんた、これからありもしない噂流されるわよー」
「え?そうなの…?」
「そうよ。王都の女はゴシップが好きなのよ。貴族の華やかな笑顔の裏でドロドロの愛憎劇………しびれるわぁ…!」
……面白がってるじゃん。
っていうか
「…なんでそんな事知ってるの…?」
アンナ貴族じゃないよね。
ただのメイドなのに…。
「だって、あたしゴシップ好きなんだもん。…あ、そうだ。あんた、あたしの事バラさないでよね。あたし、王都で洗練された女になって金持ちと結婚するんだから!邪魔したら承知しないわよ」
「…えぇ?なにそれ…?」
ありがちな野望だなぁ…
「まー、その分ここにいる間は協力するから。…明後日の夜会、一緒に参加するんでしょ?」
………ん?
明後日?なんだって?
やかい…ヤカイ…夜、会…?
「……なんのこと?」
眉間に皺が寄っているのが自分でもわかる。不信な顔をしているだろう私にアンナは首を傾げた。
「……は?あんたこそなに言ってんの?…だって明後日、ここで夜会があるから来たんでしょ?」
「…………聞いてないけど…。夜会って…パーティーの?」
「そりゃ、夜会パーティーでしょ。…聞いてないの?」
アンナは気の毒そうな視線を寄越す。こくりと頷くと、アンナは嫌そうな顔をしてみせた。
「旦那様に聞いてないのね?……ないわぁ…なんて駄目な男…」
「あ、でも…その前に私が帰るなら関係ないよね」
「え?帰んないでしょ?だって私、あんたは暫くここに滞在するって聞いてるわよ?それで執事長にも確認したら『暫くというのは、多分短くて一週間、長くて1ヶ月以上』だって聞いたもん」
えぇぇぇぇ?
いや、確かに暫く滞在して構わないとは言われたけど…
でもそれはこっちの都合でいつ帰ってもいい、って意味じゃないの?
何で一週間はいることになってるの?
っていうか、じゃあ、夜会出るの?
なんの準備もしてないけど…?
あ、夜会用のパーティードレスも持ってきてない…
「……大丈夫?……あたしもう一回聞いてこようか?」
フリーズした私を覗き込み、アンナは首を傾げた。
…なんか昔を思い出すなぁ…
アンナって確かにいじめっ子だし、言葉キツいし怖いんだけど、でもお人好しでお節介なとこ、あるんだよなぁー…
だから憎めないというか…いじめっ子の割りに人望があったんだよね…
「…アンナ、変わらないねぇ…」
しみじみと呟くとアンナは嫌そうに顔をしかめた。
「あんた、人の話聞いてた?…その答えがズレてるところ、あんたも変わってないわよ。それで、どうするの?あたし聞いてきた方がいい?」
「…ううん、自分で聞く」
言いたいこともあるし。
そういつまでも黙って言うこと聞いてなんていないんだから!
「わかった。じゃあ、そろそろご飯の準備もできてるだろうし、行きましょ。ダイニングまで案内するわ」
アンナは扉を開けて顎で廊下を示す。
…よし!絶対文句言ってやる!
ダイニングにつくと、カイト様は既に席について待っていた。
伯爵を待たせるなんて失礼なことをしちゃったと思うけど、それとこれとは話が別。
きっちり文句は聞いてもらわないと。
「…カイト様!お話が…」
「アンデルセン子爵令嬢様、お席はこちらでございます」
え?食い込んでくるじゃん…
私の話をぶった切ったのは、執事のハケンさんだ。
いや、椅子引いて待っててくれてるけど…その前に私は言いたいことが…
「その前に…」
「お座り下さいませ。夕食の準備は整っております」
……圧がすごいな…
またしても私の言葉を遮り、ハケンさんは椅子を示す。
出鼻、完全に挫かれた…
渋々椅子に座ると、好好爺はベルを鳴らす。
その音を合図に食事が運ばれ始めた。
夕食はフルコースだった…。
結婚式か!ってくらい豪華なヤツだった…。
田舎で育ってきた私の家の夕食は平民のものとほぼ変わらない。
フルコースなんて食べたのは、前世で結婚式に参列した時くらい。
正直………めっちゃ美味しかった。
美味しくて一口食べたら、文句もぶっ飛んだ。
完食しちゃってお腹一杯だ!
そう、結局文句は言えなかった。
あの美味しい料理を前に、文句なんて…!出てこない!
料理を完食し、流れるままにあてがわれた客室に案内され、シャワーを浴びたら、あとはもう…ベッドにダイブ一択でしょう!
私はその夜、満腹で気分良くそうそうに瞼を下ろしたのだった。




