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「まずは自己紹介だな。俺はヘーゼル・レーニン。こちらはリリース・マグダリアン。俺達はそこの朴念人の友人なんだが」


レーニン伯爵子息様はモーガン伯爵様を顎で示す。

私は頷いて先を促した。


「あいつが君に求婚したっていうのを聞いて、俺達はそれに便乗しようと思ってるんだ。…俺とリリースは血の繋がっていない伯母と甥の関係なんだが、同時に恋人でもある」


「えっ!?」


思わずモーガン伯爵子息様とリリース様を見比べる。

二人とも堂々として恥ずかしがる様子もないけれど、かといっていちゃこらして甘ーい空気ということもない。さも当たり前といった様子だ。

二人の様子も驚きだけれど、それよりもその関係の方が驚きだ。


「…お二人は血の繋がらない伯母と甥……」


確かリリース様は今年20才、レーニン伯爵子息様はモーガン伯爵様と同い年だから27才の筈。


「リリース様が伯母…」


この美女が。伯母。

え、なにそれ…?めっちゃ贅沢な伯母じゃん…。


「そっちに食いつくか…。まぁ、そうなんだ。私の母の再婚相手がヘーゼルの爺さんだったからさぁ。立場で言えば伯母だよな」


「そうなのですか。…でも、それではモーガン伯爵様とのお噂は…」


「だから嘘なんだって!まー、わざと流した噂でもあるんだけどさ。…私の虫除けに、カイトとヘーゼルが協力してくれたんだ」


照れたようにリリース様は頬をかく。遠目で見ていた時は確かに大人しそうな美人だと思ったけど、こうやって素を見てみると印象が違う。でも素の彼女へも好感が持てる。

明け透けな言い方も嫌味がなくて心地好い。


「…そんなわけで、私とカイトは何の関係もないから」


「わかりました。リリース様」


「だから『様』はいらないって。さっきも言ったけど私は親の再婚で貴族になっただけで、元は平民なんだって!本当は一番身分も低いし」


ふーっとリリース様はため息をつく。そのリリース様の肩をレーニン伯爵子息様が小突いた。


「今その話はいい。…それより、俺とリリースが婚約すると発表しなかったら、世間はどう見ると思う?」


レーニン伯爵子息様は足を組み換え、ごくごく自然にリリース様の肩に腕を回す。

おお…急なイチャイチャ…。

でも、確かにモーガン伯爵様の婚約者候補筆頭と呼ばれていたリリース様を切り捨てて、ぽっと出の田舎貴族の娘と婚約したとなったら…。

それは、見ようによっては略奪愛に…見えなくもない。

いや、むしろそう見える。


「……私が略奪したように見えます…よね?」


恐る恐る3人を見ると、彼らはこくりと頷いた。

えぇぇぇぇー!してない!してないのに!


「そうなったら、物凄く大変な事になるのでは…?」


社交界での総スカン…。

あ、ちょっと考えただけでも寒気が…。

ただでさえ、デビューしたてで知り合いも少ないのに!

えげつない陰口を叩かれるのも嫌だけど、何よりその状況をサンが知ったら…。

あぁ…想像するのも嫌だ。

サンが大暴れして益々孤立する自分の姿が見える…。


でも待って。私まだ婚約してないじゃん!そうだよ!断ればいいんだよ!


「…モーガン伯爵様、やっぱりこのお話はなかったことに…」


「今更遅いだろ。…こいつがあの場で婚約を申込んだ時点で大分詰んでるって。もし仮に婚約しない事になったら、お前はこいつを弄んだ悪女くらいに言われるよ?」


リリース様がモーガン伯爵様を指差す。


「……な、何にもしてないのに…」


がくりと膝の力が抜ける。その場に座り込んでがっくりと首を下げると目の前に立派な装飾の袖から伸びた大きな手が差し出された。


「心配入りません。本当に婚約すれば悪女なんて言われませんよ」


にっこりと美麗な顔でモーガン伯爵様が微笑む。


…あ、あんたのせいだよ!この悪魔…!


「ヘーゼルとリリースが婚約を発表すれば尚、安心でしょう?」


何その、さも名案みたいな顔…。

ムカつくなぁー!


「まぁ、そういう風に噂になるくらいなら私達とも円満な関係の方が陰口も減るだろうし、いいかと思ってさ。それで今日ここに呼んで貰ったんだけど」


あぁ、そういうこと。それで今日皆さんとお会いしてるわけですね…。


「…モーガン伯爵様、事前にご説明して頂きたかったです…」


「モーガン伯爵なんて呼ばずに、俺のこともカイトと呼んでくれないか?」


私の苦情はスルー!

今呼び方とか、どうでもいい…!

本当に人の話聞いてない…!


「…私の立場ではお名前でお呼びするなど出来ません」


苦情スルーされたのがムカつくから言っているわけではない。断じて違う。

何度も言うけど、私はこのお三方とは階級が違うのだ。

貴族にははっきりと言う人はいないけど、階級があって、自分の階級より上の方々を呼び捨てになんてしたら、それはもう…!

非常識だと言われるのだ。

姓無し制度は廃止されても身分制度はまだ残っている。そして貴族の中ではそれぞれの階級は暗黙の了解。そもそも本当は階級なんてないのだけど、皆、確実に階級を意識している。


「言いたい事はわかるが…。円満な関係を周囲に示す為に、名前で呼ぶのは一定の効果があるのはわかるだろう?」


レーニン伯爵子息様もこの案には賛成のようで、確かに名前で呼んだら親しげに見える。納得できる言い分だ。


「それは…そうかもしれませんが…」


「そうだろう!だから是非とも、俺のことも名前で呼んでほしいんだ!」


そんな食いぎみでいい募らなくてもいいと思うんだけど…。

モーガン伯爵様はぐいぐいと顔を近づけてくるから、ちょっと、否、大分怖い。

さぁさぁさぁ!と、促してくるモーガン伯爵様の襟首をリリース様が引っ張った。


「ぐぇっ…」


不意討ちだったのだろう、モーガン伯爵様は苦しそうな呻き声を洩らし、怨めしげにリリース様を振り返った。


「カイト、近い!見ろ、この引きまくった顔を!」


ビシッとリリース様は私を指差す。

そんな顔に出てたかな…?

リリース様は私を見つめた。


「私達はエマに悪意がある訳じゃない。ちょっと呼び方を強制的に勧めてるけど…その…私はエマと仲良くなれたらいいと思ってるからさ」


…………きゅん!

リリース様は照れたように頬をかいて、ニカッと笑った。

………つ、ん、で、れ!

きっとこのギャップにレーニン伯爵子息様もやられたに違いない。

そして私もやられた。思わず頷いた私は、急いで付け足した。


「…でも、『様』だけはつけさせて下さいね!」


なんかそこじゃない気もするけど、リリース様の笑顔が可愛かったので良しとする。

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