51話 追加戦士
圭太は祥吾の意図に気づいた。
呪いだ、生贄だなどと突拍子もないことを言われても、普通は信じない。だから事故が起きたことにして、現実的な色合いを強めたのだろう。
祥吾の狙い通り、辺見は少し納得してくれたようだった。
「大伯母さんは随分前に亡くなっていて、君たちは視影の山の中で、大伯母さんの霊を見たということか」
そう言ってから、悔しそうに唸る。
「オカルトは苦手なんだけど、ここまでの流れをまとめて考えてみると、もうこれはうなずくしかないよなあ」
「俺たちの話、信じてくれるんですか?」
「ああ、信じよう」
辺見はきっぱりと言った。
「確かに、目の不自由な大伯母さんがひとりで行方をくらませられるわけないよな。てことはやはり、何らかの事故が起き、隠ぺい工作があったと考えたほうが筋が通る」
話が一段落したとみて、圭太は気になっていたことを尋ねた。
「辺見さんは、これからどうするんですか?」
辺見は病床にある祖母の願いを叶えるため、大伯母の行方を捜しに来た。その死が確定的となった今、どう折り合いつけるつもりなのだろう。
祖母の元へ帰り、今日までにつかんだ事実を聞かせるのだろうか。残念ながらあなたの姉は、六十八年も前に亡くなっていたと。だから姉に会わせてやることはできないと。弱った祖母にありのままを告げるのだろうか。
先程聞いた話では、何か証拠を示さない限り、辺見の祖母は姉の死を受け入れないだろうということだったが……?
「君たちは大伯母さんを供養してくれるんだろう?」
辺見に問い返され、圭太はうなずく。
「俺も一緒に供養させてくれないか」と辺見は申し出た。
「大伯母さんには会ったことがない。でも、確かに俺の大伯母さんなんだ。祖母の姉ちゃんなんだから、俺にとっても大事な人だ。俺も大伯母さんをきちんと供養してから帰りたい」
「そうですよね。辺見さんも一緒のほうが、珠代さんも喜んでくれるでしょうし」
いいよな? 同意を求めるように、圭太は祥吾と望を見た。二人がうなずき返してくる。
「決まりっすね」
「ありがとう」
それで、供養とは具体的にどうやって? と問われ、今度は祥吾が答えた。
「視影の山に行きます。そこで珠代さんのために祈ります」
「わかった。いつだ?」
「それが、少し問題があって……」
そこで辺見に、隆平と明充の存在を明かした。二人も一緒に供養へ行きたいが、それが難しい状況にあることを伝える。
「なるべく早く問題を解決して、視影行きを実現させたいんですけど……」
「俺も祖母の病状を考えると、あんまり悠長にはしていられないんだよな」
「なんか、すみません、俺らの都合で」
いいよと一応は首を振ってくれたが、辺見の反応は芳しくない。
「せめて何か、大伯母さんの形見のようなものでも見つかってくれればなあ」
祖母に何も持ち帰ってやれないことを悔やんだ。
そのとき、これまで蚊帳の外だった万里子が声を発した。
「骨……」
「え?」
「大伯母さんの死が隠ぺいされたなら、普通に埋葬はされなかったはず。遺体を隠すのにちょうどいい場所なんて都合よく見つからない。でも、山の中なら――」
万里子は俯き、ひとり言のように、ぶつぶつとつぶやきはじめた。
「今も、山のどこかに埋まっているんじゃないのかな……」
「おーい、どうしたの曽根ちゃん?」
望が心配そうに万里子の顔を覗きこんだ。
突然、万里子が顔を上げる。
「そうだ、みんなで珠代さんの遺骨を探してあげるのはどうかしら?」