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44話 俺たちの罪

 圭太はたじろいだ。お年寄りからの頼みというのは、どうしたって断りにくい。

 だけど、一体どうすればあのバケモノ――珠代さんの魂を救えるのだろう?

 果たして自分たちにそんなことができるのか?


「何度通っても、おれの前には出て来てくれんかった。だけんども、あんたらの前に珠代姉ちゃんは出て来た。あんたらには何か、珠代姉ちゃんと通じ合うものがあるんじゃないかね。あんたらなら、きっと珠代姉ちゃんを救ってやれる」

 奥野が顔を上げる。目が合う前に、圭太は急いで視線を下げた。


「わかったよ、ばあちゃん」

 祥吾が答える。

「俺たちが珠代さんを救い出すよ」

 穏やかさの中に、強い決意を感じる声だった。


「そうかい、ありがとねえ……」


「安心して、せっちゃん。俺たちに任せてね」

 望が片目をつぶってみせる。

 こんな安請け合いして大丈夫なのだろうか。圭太は不安になった。


 何か進展があれば知らせに来ると約束して、奥野の家を出る。

 帰り道、早速圭太は尋ねた。

「珠代さんを救うって、具体的にはどうするんだよ」


「それはもちろん――」

 祥吾は平然と答えた。

「きちんと会って、話をするつもりだよ」


「は、話って? 会うの? またあのバケモノに?」

「奥野のばあちゃんの話を聞いて、考えたんだ。どうして俺たちは呪われたのか。俺たちの何がまずかったのか。あの日、俺たちはバケモノを見て逃げたんだよ」

「うん。逃げなかったら殺されていたかもしれないしね」

「だけど、どうしてそう思った? あのとき俺たちははっきりと宣言されたか? お前たちを殺してやると、バケモノは――」

 と、そこで祥吾は苦い顔をし、言葉を切った。


「何? 急に黙って」

 望が首を傾げる。


「いや、やっぱりバケモノなんて言い方しちゃいけないよなと思って」

 祥吾は言い直した。

「お前たちを殺してやると、珠代さんは宣言したか?」


 圭太は目をみはった。

「……してない」


「そうだよな」

 祥吾が顎を引く。

「珠代さんの姿を見て、俺たちが勝手にそう思った。勝手に珠代さんを恐れたんだ」


 圭太と望は、そろって項垂れた。自分たちの犯した罪がなんだったのか、今になってわかった。


「あのとき、珠代さんは俺たちに何かを伝えたかったのかもしれない。だけど俺たちは珠代さんと向き合おうとせず、逃げ出した。バケモノと言って、彼女を罵った」


「珠代姉ちゃん、きっと悲しかったよな……」

 ぽつりと、望がつぶやいた。


 祥吾が言う。

「珠代さんは騙されて生贄になった。これってすげえ理不尽な話だよな。やりきれない思いを抱えたまま、珠代さんの魂は今もまだ視影に縛り付けられている。もしそうなら、誰かがちゃんと珠代さんの言葉を受け止めてやらないといけないんだと思う。珠代さんの中の怨みや憎しみに、向き合ってあげないと。本当は四年前に、俺たちがそうしてやるべきだったんじゃないかな」


「……もしも珠代さんを救えたなら、俺たちの呪いは解ける?」

 圭太は少し心配になった。本来の目的を見失いはじめているんじゃないか。

 自分たちの目指すゴールは、呪いを解くことだ。

 もちろん珠代には同情する。だけどいくら可哀想だからって、たまたま出会って、ほんの一言二言失言しただけの自分たちを呪っていいはずがない。

 珠代の身に降りかかった出来事は理不尽だが、自分たちの今の状況だって、同じように理不尽だ。


「俺たちが珠代さんに向き合うことで、彼女が抱く憎しみや恨みを和らげられたなら、呪いは消えると思う」

「見込みあり?」

「と、信じたいね。現状、そう仮定して動く以外に手立てがないわけだし」


 祥吾に言われて、圭太はひとまず納得した顔でうなずいた。

 珠代の魂を救うことで起きうる変化に、今は期待するしかない。


「あれえ?」

 そこで望が調子はずれの声を上げた。

「ちょっと待って、わっかんねえ。まず前提として、珠代姉ちゃんはバケモノじゃなく、この世に恨みを抱く幽霊――悪霊って考えていいの?」


「俺はそう考えてる」

 祥吾が迷いなく答えるのを見て、圭太もそれらしい顔でうなずいておく。本当は望同様、よくわかっていない。


「じゃあ俺たちがやろうしてるのは、バケモノ退治じゃなくて、除霊ってこと? え、除霊って素人の俺たちにできるもんなの?」

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