町を目指してはいたんだけど…
馬車等が通れるよう雑に開拓されたであろう事が伺える林道。
林の出口がようやく視認できただろう距離まできた5人、この辺りまで来ればカルラの影響が弱まって来る距離なのか雪が少なく歩きやすい。
そこまで来てミューズが唐突に足を止め狼の耳へと手を当て集中する。
「……よし、こっち行こっか」
「ちょっと待て、道から外れるのか?」
私に声をかけたのはベルナドットだった。
「うん。こっちの方に人が住んでる場所があるんだってさ。
たぶん村か何かだろうしそっちの方が近いからそっち行こうかなって」
私が耳をすませたのはこの話を聞いたから。
『また人だ』『小さい人より賢いから捕まっちゃうかも』『もしかしたら岩のとこに戻るのかも』
と言った感じの内容を小動物の話し声からそれなりに近い位置に『人』が住む場所がある事がわかる。
動物の行動範囲なんて冒険者や行商人からしてみたらあまりにも狭い訳で、元々3日だった予定だけどもしかしたら半日でちゃんとした民家付近で休めるかもしれない。
ほらだって私達はともかくタツヤがね?
「そうなのか。地図だとどの辺になるんだ?」
「地図なんて持ってないけど?」
「は?」
「え?」
タツヤとエミリーの声が重なったんだけど……
「えっ?私そんなに変な事言った?」
「地図無いと迷うし距離もわかんないだろ!?」
「方角はわかるし場所も聞いてけばわかるから大丈夫だよ」
「いやこの先って獣道じゃない?どう考えても出会う確率の方が低いと思うんだけど本当に大丈夫?」
あ……このエミリーの気配、本当に不安がってる。
国に喧嘩売る時だって強気な姿勢は崩さなかったのに、これはもしかして私が思ってるより不味い事してるって認識なのかな?
エミリーならサモンして空を飛ぶ事くらいできそうなのに……駄目だ、私には何が不安なのかわかんないや。
「う~ん……ちょっと待って。もしかしたら種族的な観点で誤解が生じてるかもしれない。私は正直何がそんなに不安なのかわかんないんだけど……それに私だけじゃないかも、アイちゃんはわかる?」
「さあ?何を慌てているのか不思議であったからこそ見てて興味深かいモノを感じたのぅ」
「ほら2対3!1割の差なんて誤差でしょ!」
「主も変な所で慌てるのぅ。それが面白いのじゃが」
「ちょっと味方でしょ!?何で他人事なのさぁ!?」
「ククッ、他人事じゃからのぅ」
「くっ……」
ぐぬぬ……本当に楽しんでるアイちゃんめ。
しかし何が違うんだろう?何でそんな不安がるのかな?
最悪空飛べばどうだってなるじゃん。
何度でも言うけどエミリーたって何かしらサモンして空飛べるよね?
「なぁ、なんかミューズさん急に子供っぽくね?」
「ちょっと、失礼だよ」
「あぁ、気にしなくても良いと思うぞ?なんせ今のミューズが素じゃからな。あそこに居た時は守る対象が多かったのと、頼られるよう意識して立ち振る舞っていただけじゃからな。
主ら、今のミューズを初めて見たとして全てを任せられたかのぅ?」
皆黙り混んでしまう。
「まあ私は冒険者だから。冒険者は口が裂けても大人だなんて言えない自己中心的な存在だからね。
自分の中のルールが最優先で国が定めた法律なんてリスクと天秤に合わせて面倒でない範囲でだけ守ってさ、守るのがバカらしい内容なら捻り潰してきたからね」
「こやつこの感性で町1つ滅ぼしておるからのぅ」
「は?」
「滅ぼしてないよ!ちょっとすり替えただけだってば!」
「すり替えた?……あぁ、責任者を変えて町の名前を変えたって所かな?
いやでも、何て言うか、凄く大胆だね?」
『貴女も昔似たような事やってるんですよ~』
エミリーの背後に突然出現した半透明なオリヴィアが言いたい事だけ言って消えた。
「なんじゃ、主もミューズと変わらんではないか」
「何の事?」
オリヴィアの声が聞こえてるのは私とアイちゃんだけみたい。
エミリーの契約聖霊な訳だけど聞こえないのは単純に実力不足だよね。
「あと5年もすれば聞くくらいはできるんじゃないかな?」
「いや、早すぎじゃろ?500年はかかると思うが」
「あのねアイちゃん、ドラゴンスパンで考えちゃ駄目だよ?」
「ん?……そう言えばそうじゃったな」
エミリーってオリヴィアを含めて契約者達の力を使う事が影響してるのかキメラみたいに複数の集合体みたいな力を感じて大きく見えるんだよね。
よく見るとエミリー事態は人という種族にしては強いかな?ってくらいなんだけど私とも契約してるから益々大きくみえてさ、アイちゃんからしたらもう他のドラゴンと何ら遜色無いんじゃないかな?
「ふむ、どうしてもエミリーは同じタイプの生命体と思えてしまって感覚がズレるのぅ……しかし良い忠告であったの。素直に受け入れるとしよう。感謝する」
「どういたしまして」
「感謝の礼としてもう少し楽しむ予定だったがネタばらしと行こうかの。
先程ミューズは種族的観点で誤解が生じていると言っとったが、正にその通りじゃ。
というよりこやつは人どころが獣、魚、鳥、ゴブリン、はたまた虫ですら言葉を理解してしまうからの。
妾達の感性とズレているのは当然じゃ」
「えっ!?」
あっ、あ~なるほどね!
伝えなくちゃいけない情報と受け入れなくちゃいけない情報が多過ぎてすっかり忘れてたよ。
だって私からしてみたら当然な事過ぎるし普通に町で生活する分には一切役に立たない能力だよ本当に。
「実際に言葉はわかる訳じゃないよ。波長が合わさって何を伝えたいのか流れ込んでくるって感じ。
逆に私が伝えたい事も強制的に伝わる」
「自動翻訳機みたいな感じ……なのか?」
「あぁ、コレだっけ?これ便利だよね」
私は耳に取り付けたエミリーが活躍している世界である魔界産アクセサリーに触れながら聞く。
私の耳の形状の問題で形は違えど皆同じ物を耳に付けている。
魔界の魔術じゃない謎技術で伝えたい事が自動で翻訳され会話ができる。
これはエミリーの事務所の経費で落とした物だから安価らし いんだけど、高価な物になると周辺の地形を認識し行きたい所へナビゲートしてくれたり、認識した地形を印刷した地図を一瞬で生成したりできるみたい。
他にもいろいろあって便利すぎて怖くなる。
魔界ヤバイって、コレは勝てない。
「まあそんな訳で私がいる限り大丈夫だよ。
野盗だろうが何だろうが私に不意打ちを成功させたのはセリス様しか居ないから」
「セリス様?」
「あんな化物基準にならんじゃろ」
え~……セリス様優しくて良い人なのに……
まあ化物なのは否定しないよ。
あんな馬鹿げた力は人の世にあっちゃいけないって。
「いやまあ化物みたいな力ってのは否定しないけど大好きな恩人をそう言われるのは気持ちよくないよ?」
「すまぬ、わかってはいるがどうしても怖くての」
「それもわかってるからそれ以上言わなければ良いよ」
上には上がいる。
手の届く範囲にその存在が居るなら受け入れられる。
けれどその存在が途方もなく遠く、とてもではないが手もつけられない力を持ち、ドラゴンという強者であるアイちゃんが人間目線でドラゴンを見た時の立場に立たされた時、その存在を化物と呼んで同じ生命体であるという事を拒絶するのは当然の事だもの。
自分の理解の範疇を越えた存在に恐怖して拒絶するのは知的生命体として当然であって私みたいに安定を棄てて未知へ飛び込み理解しようとする方が少数だもん。
「何か居るな……」
私を先頭に人の手が入っていない道を進み続けて30分くらいだろう頃ベルナドットがそう口にした。
「うん。このまま進めばたぶんゴブリンの集団に会う事になると思う。もしくはドワーフかそれと似た背丈の何かの集団?
ま、どっちにしても説得は任せてよ。駄目なら責任持って無力化するし」
「おぉ、ゴブリンか。ガチファンタジー感でてきたな」
「そうだね。野生のゴブリンかぁ~。生で見るの動物園以外じゃ初めてだしレアでしょ」
「ファッ!?動物園!?」
「動物園?」
タツヤが過剰に反応したのに対し私、アイちゃん、ベルナドットは動物園という物そのものを知らなくて顔を見合った。
「あ、えっとね、『世界生物生態調査兼生物保護基幹』っていう組織が魔界で運営しててね、私が言ってるのは正確には動物園じゃなくて『魔界生命進化歴史館』って場所なんだけどそこでゴブリンの他にもいろんな生き物がみれてね……」
って感じに私達がわかってない事を理解して説明してくれた。
敵性生物ですら飼い慣らし娯楽とする魔界の存在に一瞬だけだったけどゾワッとかなりの悪寒が走った。
私がゴブリンの立場に立ったならゴブリンよりも賢いぶんより従順に従うと思う。
「………ぁ」
怖いな……
エミリーの説明の中で純粋な恐怖の感想が頭に過ってつい口に仕掛けたけど誰にも悟られず止められた自分を誉めてあげたい。
何で怖いと思ったか。
その答えはわかってる。
私があまりにも魔界の事を知らないからだ。
魔界の文化の一部を知って、想像にすら及ぶことのできない飛躍しすぎた技術力を体験して、気付かないうちに生殺与奪を完全に握られるんじゃないかって感じてしまう。
「(これは……近いうちに魔界に連れてってもらわないといけないね……)」
私はいつだって自分の目で見て感じた事だけを信じて生きてきた。
誰かに言われたからそれが絶対だなんて思わない。
でなければ恐ろしい太古の怪物であるアイちゃんと親友になってないし、冷酷無慈悲な虐殺の覇王とか星を破滅へ導いた魔神とまで呼ばれたセリス様を恩人として慕ったりしない。
エミリーは信じられるけど魔界を信じられるかは別問題だよ。
「ねえエミリー」
「ん?何?」
「その、いつか私も魔界に連れてってくれないかな?」
……失敗した。今の私の声色は僅かではあったけど震えていた。
キョトンとしたエミリーの顔が怖い。何を言ってるのかわからないという気配だけどこの流れは間違いなく探りを入れにくる。
親しいとか親しくないとかじゃなくて、それが当然だろうから。
元の世界に帰らなくて良いのかとか、何故今行こうと思ったのかとか……
「是非!一緒に行こ!」
「………へ?」
エミリーの両手に右手を捕まれ食い付くように言ってきた。
「なっ!ずるいぞ!妾も!」
「もちろん!私の試合を是非特等席で見てほしいからね!」
「………」
隠す気のないエミリーの魔力の波長を感じ取って理解した。
「(あ、これ完全に価値観の違いだ……)」
エミリーは今の話しの全てを当然の事と疑ってない。
私の世界でも義務教育が存在する国と存在しない国が存在して価値観の違いがあまりにもあり、『知っていて当然』という事を前提に話し合いがすれ違う。
「ふ、フフッ、そっか。じゃあ楽しみにしてる。私はいつでも良いからエミリーに合わせるからさ、宿とか行ったら軽いスケジュールとか立てよっか」
理解して変な笑いが出た。
つまり私は義務教育を受けてなかったから文字が読めなくてエミリーは文字が読めるってだけ。
動物園もそうだけしエミリーのケータイもそう。
エミリーにとって恐れる事のない、文字を読むのと同程度に知ってて当然の事。
「そうだね。1年くらい旅する予定だけどいろいろ話し合おっか。……って、今思ったけど先輩達にも相談してないや。
先駆者達の意見も聞いた方が良いよね?うん」
「経験者から話を聞くのは有用だよね……っと、ゴブリンさんだね」
進行方向右斜め、若干登り坂になっている位置で弓とかでの応戦になったら同格相手の場合こちらが不利な地形でゴブリン達と遭遇。
「『こんにちはー!!!狩りの帰りですかー!?』」
波長を調整し魂に直接私の言葉を理解させる。
『お、俺達の言葉がわかるのか!?』
ゴブリン達は私達を認識し混乱し話し合い、自分達が私の言葉を理解できている事に気付きリーダーだろう一人が大声で返してくれた。
「『わかりますよー!』」
正確には言葉はわかんない。伝えたい事がわかるだけなんだけど誤差だよ誤差。
だって私もゴブリン語話してる訳じゃなくて波長合わせて伝えてるだけだし。
そんな私が放つ言葉の波長が伝わりゴブリン達が僅かに安堵する様子を見せ、お互いに話し合い再び声を返してくれる。
『俺達に敵対する意思は無い!殺さないでくれ!』
そう言いながら持ってた武器を捨てながら側に寄ってきた。
うん、こっちには私だけじゃなくてアイちゃんも居るもんね。
人間相手じゃこうならないけど、ゴブリンは野生生物程とは言わなくとも手練れの戦士並みには危機察知能力が高いからねぇ。
それでも人の前に姿を出して戦おうとするのは危険度や勝算、現在の空腹具合なんかを天秤に合わせて出したゴブリンなりの生への執着だから私は彼らをバカになんてしない。
その辺わかってない人間がなんと多いことだろうか。
「『殺しなんてしませんよ!それより収穫どうでしたか!?体冷えてませんか!?白湯ですけど暖かいものでも飲みませんか!?』」
『お、お湯を貰えるのか!?』
敵対の意志が無いと知らせるためゆっくりとした足取りだったゴブリン達だけど私の言葉に一人が駆け出すと他の人達も我先にと駆け出してくる。
数は12人。全く驚異じゃないしゴブリンなら優しくできる。
この場所で出会ったのが人間でこの数ってなったら優しくできないし先手必勝で殺してたかもね。
だってこんな場所にいる12人の人間ってなったら高確率で盗賊だよ?
生存本能じゃなくて悪意に満ちた人間は大抵麻薬使用者みたいに魂が歪んでいて、ごく稀に自分が悪だなんて思ってない汚れの無い綺麗な魂をしている殺人を正義と勘違いした邪悪なんかいたりするけどやっぱり危険というかなんというか……
まあそんなゲスどもなんかより生きる事に正直な彼らの方が100倍共感できるし優しくしてあげようと思えよる。
ましてやこの寒さはアイちゃんのせいだってなったら尚更ね。
「『少し臭いかもしれないけどこの毛皮も使って』」
『なぜ……そこまでする?』
いくら知能の低い彼等でも動物よりは賢い。
そもそも言語が存在してちゃんと文明もあるからね。
「『私はどんな相手の言葉がわかるから。敵意が有るか無いかで決める。敵なら例え同種でも殺すし有益そうならあなた達にだって優しくする』」
『俺達が有益?』
「『うん。現地人程その地域に詳しい人なんてそうそう居ないし』」
私の世界の経験則的にゴブリンって言う時点でかなり有益。
ゴブリンは人間とかとモンスターの縄張りの縫い目にポツンと住む事が多くて、その縫い目ってのが知的生命体が遥か昔に放置した土地、つまり遺跡であったりする事がわりとあってその価値はどれだけ高いことか。
話も通じるし、知能が低いからできる事は限られるけど仲良くしとけばいろいろと手伝ってくれたりするし良いことずくめだよ。
むしろ知能が低いからこそ余計な疑いかけずに手軽に注文できるのも私の中でのゴブリン株が高い原因だよね。
敵性種族の中でゴブリンは屈指の良い種族だよ。
「あ、アイちゃん一応言っとくけどうっかりで凍らせたり踏み潰しちゃだめだよ」
「こやつらの前で言って良いのか?」
「駄目だからわからないようにしてる」
「生きた伝説と呼ばれるだけあって本当に便利じゃのぉ~」
「伝説って?」
「それがの「いやいやいや。世界一の冒険者ではあるけどさ、そもそも私みたいに人間社会捨てて冒険する本物なんてごく僅かにだから。
伝説って言うのも功績ばかり目立ってるだけで要するにただの世捨て人ってだけだから」
別にばらされても問題ないんだけど恥ずかしいじゃん。
そういう話は本人の居ないところでしてほしいよね。
『本当に感謝する、強きもの達よ』
お湯を配り火を起こし暖を取らせたりしてたら彼らのリーダーっぽいのが代表してお礼を言ってくる。
「『うん、気にしないで。
結果的に利用する形になっちゃったし』」
まったく、余計な事しようとさえしなければ放っといてあげても良かったのに。
『……利用?』
「『待った、ここは私に任せて』」
彼は私の言葉にかなり警戒した様子で聞いてきたけどそんな事よりエミリーを止めた。
エミリーならスマートに制圧できるだろうけど目撃者をわざと生かしたりとかそういう残酷な事をするには純粋すぎる。
もし純粋なだけじゃなくて無邪気さも兼ね備えてたらやらせても良かったんだけどね。
無邪気さ故の残酷さというモノは本当に底知れないから。
「………よっ、ほっ」
時間が引き延ばされる感覚っていうのか、速いものをよく見ようとすると時の流れがゆっくり感じて実際に私意外の全てが遅くなる。
私はその遅くなった世界を普通に歩き、けっこう遠くから飛んできた矢を迎えに行って、飛んでくる矢の勢いに抗わずくるりと軌道を変えつつとびっきりの魔力を込めて投げ返す。
2本飛んで来たからそれを2回行い的確に喉へと命中させた。
「ほう、叩き落とすくらいなら俺でもできるが投げ返すか……なんだあれ?」
ベルナドットが疑問を浮かべるのと悲鳴が上がるのはほぼ同時だった。
初めから1人残すよていだったが矢が足りなくて逃した1人は悲鳴を上げ情けなく逃げていく。
おそらく殺しのプロだろう彼がそんな情けない悲鳴を上げた事に怪訝に思っただろうエミリーが目を凝らしてそれに気付いた。
「ちょ、ちょっとあれ、魔疫症候群だよね?」
「『うん。……うん?魔石病の事魔界じゃ魔疫症候群っていうのかな?まあどちらにしても修行不足』」
魔石病。これは魔力が普通よりも多く籠った食べ物を数年単位で食べ続ける事で発祥する病気で、体の一部が魔石化して徐々に面積を増やしていって完全な魔石になってしまうというもの。
ま、修行不足とは言ったけど私の魔力は並み大抵じゃないし今回は生かして返すのは一人で良いから狙撃してきた相手には確実に死んでもらったよ。
「『死体のままじゃ殆ど使い道無いし魔石にしたけど何に使おっか。
君は寒くない?暖かくなる魔法具でも作ろっか?』」
「誰に話しておるんじゃ?」
あ~……アイちゃんには何も無い所に話しかけてるように見えるのか。
呆れられちゃってるけどちゃんと居るんだから仕方ないじゃん。
「………参ったな、これは勝てない。降伏する」
「えっ!?」「うおぉっ!?」
エミリーとタツヤが驚きの声を上げ、タツヤに関してはエアライダーから落ちちゃったよ。
「ぷぷ、タツヤ流石にダサイ」
「いや、誰だよコイツ!?」
「コイツ……?さっきからお主ら何をやっとるんじゃ?」
「あぁ、アイちゃんは気付けないのも当然か。魔力全然感じないもんね」
私達の中に当然のように紛れてた女とも男とも見える特徴の薄い男の人。
この人実は私達が町を出てからずっと私達の中で行動してて、私からしたらバレバレで、ベルナドットは辛うじて違和感を感じていたけど正体までは掴めていない様子だった。
エミリーは敵意や殺気には敏感だけど見られる事に慣れすぎてるのか観察されてる事に関しては警戒心薄いよね。
「何故わかったのかな?僕の秘術である『消失』は完璧だったはずだけど」
確かに魔力も臭いどころか音もしなかったけどさ……
「『そこに魂があるのに消失っておかしくない?』」
「魂……なるほど、輪廻とかそういったレベルの話ですか……」
一瞬信じられないって気配を魂から感じたけどあっという間に呑み込んだのかな?平常に戻っている。
私がベルナドットの炎の精霊とか魔界の技術を理解しきれてないけど受け入れているのと同じように「そういうものか」って感じに考えず受け入れたのかな?
「『次私が聞いて良い?』」
「本来僕は敗者、質問をする権利なとなかったのに答えてくれた事に多大な感謝をします。どうぞお好きなだけお聞きください」
「『それじゃ遠慮なく。まず名前は?』」
「さぁ?何でしょう?元々売り物の奴隷だったので名前なんてありませんでしたし、仕事で使い捨てた名前は100から数えてませんし、強いて言えばネームレスと言うあだ名で無法地帯で有名になりましたね」
「ネ……」
ネームレスって私のを量産しようとした奴と同じ偽名じゃん。
あんな狂人と同じとか無条件で警戒の度合いが1つ2つくらい上がるって。
「『……じゃあ名無し。職業は何?何でゴブリンと話してた私達を襲わないの?何で、そんなに楽しそうなの?』」
まあ理由はだいたいわかってるけど確認は必要だよね。
さっきの奴らは殺す事は慣れてるけど素人で、名無しは完全なプロ。つまり殺し屋だね。
ゴブリン、異形の怪物は邪悪な魔の産物であり根絶やしにしなくてはならないというのがこの国、宗教の教えの1つで私もアイちゃんも敵なんだけどある程度多めに見られてたのは召喚された勇者だったから。
様子見で一応勇者という事にしていたが異形の怪物と会話をしてる決定的場面を目撃したならもう完全な敵っていうのがこの国の考えなんだろうね。
それで最後の楽しそうってのもわかるな。
その気持ち私も良くわかる。
だから両手を上げて降参のポーズをしていた名無しに近付きにっこりと見上げた。
「……顔に出ていたかな?僕もまだまだだね」
「顔には出てないよ?魂が教えてくれてるだけたからさ」
「ふふ、そうか。そうだったね。君は魂を見えるんだ。
そうか、僕の知らない技術が世界にはあるのか。これじゃ今後口が裂けても世界一の殺し屋だなんて名乗れない」
「全世界一って名乗ってないならセーフなんじゃ……ない………?」
え……ちょっと待って………
「ミューズ?」
「アイちゃん、真面目なお願いなんだけど今すぐ私達を背中に乗せて遠くまで飛んでくれない?地形が変わる」
「え……何ご『了解した。4秒後問答無用で飛び立つ。早く乗れ』
ついさっきはタツヤを乗せるくらいなら殺すとまで言ってたアイちゃんが私の危機感を感じ取りドラゴンの姿へと姿を変えノータイムで了承してくれた。
ただゴブリン達には悪いことしたな。可哀想にアイちゃんの巨体にビックリして悲鳴を上げながら逃げ出しちゃったよ。
「うおぉっ!?」
「エミリー急いで!」
近くにいたタツヤとベルナドットの両脇に抱えてアイちゃんの背に飛び乗り、遅れてエミリーと名無しがほぼ同時に乗る。
『行くぞ!』
アイちゃんの一回の羽ばたきで森を抜け山の高さまで出てその光景が嫌でも目に映る。
『ミュウゥゥゥズウウゥゥゥゥッ!!!』
それは巨大な水の竜巻だった。
まるで卵の殻のようにヒビが入り、次の瞬間には羽化するかのように竜巻が城から飛び出し、その竜巻の中にはアイちゃんの巨体よりも2回り以上大きな鯨いて、私の名を叫んだ。