勇者召喚と自己紹介
クトゥジェプロ王国。
自然溢れる美しい我等が祖国には偉大なる初代国王の時代から引き継がれる秘術が存在する。
それこそが勇者召喚である。
勇者召喚とは時空を越え異なる文明の世界より強力な力を持つ、あるいは人知を超越するだけの可能性を秘めた最大4人の勇者を聖なる門を通しお呼び魔法であると言われている。
我々の世界では一定の周期で魔王と呼ばれる存在が現れる。
伝承によれば、魔族が勇者召喚と似たように魔王を召喚し、魔王は己のテリトリーを作りそこから出ないのだという。
事実四大魔王と呼ばれる魔族にとって神々に等しい存在がおり、問題なのは魔王一体一体のテリトリーが広すぎる事。
ここまま魔王が増えては人間の土地が失くなってしまう。
故に対抗できるのは同じ力を持つ勇者しか存在しない。
人間が魚と泳ぎで勝負し負けた事を悔しがるだろうか?
人間が馬と競争して負けた事を悔しがるだろうか?
それくらい人間ではどうしようもないくらいな存在が魔王や勇者と呼ばれる存在である。
そして、我々は勇者召喚に成功した。
『おお!よくぞお越しくださいました選ばれし勇者様よ!』
城の一室に存在する魔方陣の上に若き男性2人と女性1人が門より現れた。
伝承によれば召喚された勇者達は言語が違う為言葉が通じないらしい。
魔法を使用し意思疏通を試みる。
『勇者……それにさっきの現象にこの魔方陣……まさか小説の……本当に実在したのか……いやいやいや、ありえないって……』
1番年長だろう黒髪の勇者、やけに細い、我々魔法使いと似たような体型で若干猫背な男は言葉には出さず高速で状況を整理している。
私が使っている魔法は相手に思考を伝える魔法であり、応用すれば魔力抵抗する気の無い者の思考を読み取る事ができる。
その後この男性は数式や理論を頭で模索し始め私の分野とはかけ離れてきたので他の者へ意識を向ける。
別に意識して無かった訳ではないが、魔法使いからして見てこの男が1番頭が良く優秀そうに思えていたからこそ意識していた。
『「おい貴様!ここは何処だ!何で私がここにいる!」』
この筋肉と顔だけで頭の足りなそうな赤髪の貴族っぽい男。
言いたい事は魔法により理解できているが伝承通り聞いた事のない言語だ。
そしてこの男、私から見て少し強いくらいの実力だというのに立場も分からず剣を抜こうと手をかけている。
本当に役に立つのだろうか?
『勇者召喚……?え?マジ?宝くじより確率低いのに?
今時珍しいダイナミック人拐い?ラッキー!
これで私は更なる高みへ……いやいや、油断は禁物だって先駆者達も言ってた、余計な事言わんとこ』
この黒髪の女性も見所があるが、この思考からして元々特殊な力を所持している事が理解できたのでこの者も使えるだろう。
訳のわからん単語も多かったが混乱してまともに考えられていないのだろうが、そんな状況でもここまで考えている事は高く評価できる。
『……ッ!?魔力干渉!?』
ブツッ……と何かが切れた音がした。
やはり一番侮れないのはこの娘のようだ。
向こうも理由など知りたいだろうし余計な事を問い質される前にこちらから話す。
『さて伝説の勇者様方、聞きたい事は沢山あるでしょうがまずは我々の事情をどうかお聞きください』
私は彼等に国の現状と魔王を倒してほしい事を簡単に話し、一応了承は得られた。
しかしやはりというか、女性の警戒心が飛び抜けて強い。
魔力が気付かれたのだから仕方ないだろうが、何の術までかは分かっていないのだろう。
とりあえず王の前に共に立ち、成功した報告の後に言語を覚えてもらいつつ戦闘訓練も受けてもらうという内容を話し、今は利害の一致という関係だけだがそれで十分だろう。
元々彼等には選択の余地など無いのだから。
『ささ、勇者様方。一先ず場所を……』
その時、ずっと浮いたままだった勇者の門が紫色の光を放つ。
そして……ズガンッ!!!と、門の近くの床が爆発し、1つの紫色をした突風が吹き抜けた。
『カエル……?』
突風を巻き起こした存在は紫色の光を纏うカエルだった。
そして手の平程度の大きさだったそのカエルが巨大化する。
「な……なんだアレは……」「あれが勇者……?」「馬鹿な……」
惨めにも弟子達は動揺を隠せず、私は内心舌打ちをしつつ目の前のカエルを警戒する。
「◯◯◯◯◯◯◯◯!」
「◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯?」
次に現れたのは1匹は獣人、1匹は竜人であった。
確かにその三匹は勇者の門から現れたのだが……百歩譲って二足歩行の獣が勇者なのは認めたとしてあのカエルが勇者……勇者なのか?
これには流石に予想外であった。
勇者は最大4人では無かったのか?
6人……それもまだ門は消えていない……ええい!そんな事は後回しだ!
・
『よ……よくぞお越しくださいました。勇者……様?』
おや、聞いたことのない言語だね。
まあ魂から何を伝えたいか読み取れるから分かるけど。
「ん?なに言っとるじゃこやつ?」
「そっか、アイちゃんは分からないか」
……って、ん?今の呪い?
呪いかけるにしてももっと丁寧にしなよ。
この部屋に20人も魔法使いが居て全員でかけてくるって……
隠す努力はしてるけどお粗末。それに弱すぎ。
ほんのちょっとイラッとしたけど別に良いかな。
アイちゃんなんて呪いをかけてきた事すら気付かず無効化してる。流石生きた大災害だね。
とりあえず結界を張って結界内なら皆言語が通じるようにした。
「何の真似です!?」
「ふっ……!」
何の真似ですだって!何の真似って君らが言うの!?
あまりの事に笑っちゃったよ!
「し……失礼……ふふっ」
……ふぅ、いきなり魔法使ったから警戒されるのも当然だよね。
でもこっちの方が100倍手っ取り早いし気にしない!
「今のは言語が分かるようになる結界だけどそんな事より自己紹介!
私はミューズ!ただちょっと腕自慢な冒険者だよ!
こっちは相棒のグラスオス」
荷馬車に退かれたカエルみたいに砕けた床に張っついてるグラスオスを剥がして見せたけど反応が薄いなぁ。
両生類とか爬虫類苦手なのかな?
カエルを爬虫類と勘違いしてる人って本当に多くて失礼だよね。
爬虫類に謝りなさい!
「……のうミューズ。こやつら魔石が無いぞ」
え?そんな訳……
「……本当だ。え?どうやって生きてるの?」
「分からん」
この部屋の人達全員、私達と違って体内に魔石が入ってない。
心臓の音はするけど少なくとも哺乳類は心臓だけで生きられる存在なんて居るわけ無い。
まあ……異世界みたいだしそんな世界もある……のかな?
考えれば考えるほど不思議だよ。
「あの……勇者様の世界ではそうかもしれませんが、この世界……勇者様方からしてみれば異世界ではそうなのです」
今結論付けたばかりな事を態々説明してくれたよ。
せっかくだし知らなかった事にしてあげよ。
正直いきなり異世界に拉致された時点で喧嘩売られてる気がするけどさ、私はそこまで子供でもないからね。大人でもないけど。
「そうなのか~、ありがと~。
でもま、良いや。君達も私と同じで別の世界から門に吸い込まれて来たのかな?
あ、せっかくだから私の大好きなキャンディーをあげよう」
「ありがとう……」
三人にキャンディーを渡す。
何で分かったかって顔されたけど服装とかこの場の雰囲気とか見れば分かるって。
移動する途中だったって事で凄く簡単な説明だけされて移動する事になって、移動しながらアイちゃんに今聞いた内容を話した。
アイちゃんみたいに長生きしたドラゴンって魔力の低い人を生き物として認識できない奴が多くて、弱いやつの言葉じゃちょっと風が騒がしいのと同じで気にも止められないんだよね。
ただ、勇者の三人は魔石が無かったりなんか不思議な魔力纏ってたりで私からしても珍しくてアイちゃんも感心を持ててるみたい。
それな訳でアイちゃんに説明してみたけど……
「のう、異世界というのは主に進められた小説で読んだ事あるが、それ本気で言っておるのか?」
なんか本気で心配されたんだけど。
「言うもなにもセリス様が異世界の人だったし、私も10年だけ向こうの世界を旅させてもらった事あるから今更世界が2個や3個や4個、100個あるって言われても驚かないよ。
私はね、もしかしたら夜空に浮かぶ星星の数だけ世界はあるんじゃないかって思っているくらいだもん」
「そうなのか?そんなには無いと思うがぁ~……しかし、セリス様とはあの強大な魔法使いであろう?
あれほどの強者の世界となると危険そうじゃのぉ~」
セリス様の気配感じて尻尾巻いて逃げようとしたくらいだもんね。
天を貫く柱が迫ってくるって泣きながら言ってて可愛かった。
いやまあ、あれは天をも貫く神の如く魔力を持つセリス様がおかしいんだけど。
「昔はそうだったみたいだけど今じゃ平和でのどかな世界だったよ?」
「そうなのか?じゃが奴もこの力が無ければ生き残れなかったとか言ってなかったか?」
「世界が崩壊してまた新たな世界としてできて平和になったの」
「すまん、何を言ったか理解できんかった」
「世界が崩壊して何万と時間が過ぎて新たな生命が誕生したの」
「ふむ……なるほど、わからん」
という感じに話していて、話しに入ろうとはしなかったけれど他の三人とも興味深げにが聞き耳をたてていた。
皆シャイなのかな?私なら面白そうな話題だし入るのに。
そんなこんなで移動を終え大きな長机のある部屋についた。
王との対面をする予定だったらしいけど、主に私の格好が不味いからね。
さっきまで海に浸っていて魔法で綺麗にしたとは言ってもね。
だからまた後日らしい。
変わりにその部屋で召喚に関しての説明をしてもらったけど、どうやら4体と新たに召喚されるだろう1体の魔王と呼ばれる存在を倒してほしいらしい。
言語を覚えてもらうとか、衣食住とかサポート云々って話が出てきたから魔王とかどうだっていいけど、返事だけは元気良くしておいた。
元気でいた方が何かと楽しいからね。
堅苦しい話が終わってなんとなく場の空気も重くなったけど……
「はいはーい!自己紹介しよう!自己紹介!
だってその予定って元々言語が通じない前提で組み上げた予定だよね?だったら私が居れば解決じゃん!だから自己紹介!
皆バラバラな世界から来たんでしょ?魂を見れば分かるよ。
だから皆知ってて当然って思わないで自己紹介してくれると嬉しいな!」
元気だけなら誰にも負ける気は無いから持ち前の明るさを全面に出す。
「という訳でまずアイちゃんから!」
「妾かや?言い出したミューズがするべきじゃろ」
「私は1番最後!この中で1番長そうじゃん!」
「ふむ……それもそうじゃな。赤き英雄様は語ること多そうじゃし」
「もー!英雄なんて名乗った覚えは無いってば!」
私達のやり取りに少し場も和やかになったね。
流を掴んで皆の雰囲気もちゃんと自己紹介してくれそうな感じになった。
ふっふっふ、私って昔から場の空気作るの得意なんだよね。
「英雄?」
「はいそれ後で話すね!じゃあアイちゃん行ってみよう!」
「いつにも増してテンション高いの~……
コホン、妾はハイネ山脈という年中氷に覆われた山に住まうアイスドラゴン。名はカルラじゃ。
ドラゴンは基本長生きした方が強く、妾は古代竜と呼ばれる存在でありこの姿はイデアに干渉し妾がドラゴニュートだった場合の姿になっているだけじゃな。
趣味はミューズに進められてから読むようになった小説くらいかのぅ?
昔からミューズは律儀な奴での、考え事したくて山の一角に居させてくれと頼んできたのが初めての出会いじゃな。
それから話し相手になっておったら自然と仲良くなったの」
「あっれ~?『何かを得たいならそれ相応の力を見せよ!』とか言ってフロストブレス撃ってきたの誰だっけ?あっれ~???」
「そんな事もあったかの?」
「あ~り~ま~し~たーッ!!!」
「それはすまなかったのう……思い付くのはこれくらいかの」
アイちゃんにグイグイ距離を詰め、ほっぺつついていつもより面倒くさいし感じに抗議する。
とにかく私とアイちゃんの仲の良さを見せ付ければ皆話しやすくなるでしょ。
少なくとも私という人柄は随分と表に出してるし。
「それじゃ次!そこの珍しい黒髪のお兄さん!」
「俺か?俺は山口達哉。29歳独身東大卒の自宅警備員だ」
「東大出身なのに無職!?」
女の子が反応した。
同じ黒髪だしもしかして二人は同じ世界の住人なのかもね。
って、さっきも内心思ってたけどこの女の子凄い格好してるね。
痴女なのかな?
ラフ過ぎてだらしない感じのシャツにスカートなんだけどあんな丈が短くて肌出してハレンチ……って言いたいけど、この子の世界では普通なのかな?
というかこの子なんか全体的にだらしない。
せっかく髪が長くて美人なのに、ふわふわに見えなくもないけどボサボサって感じだし。
ミューズの推察は当たっておりミューズの世界が女性が足を出す事は下品とされてるからで彼女からしたら珍しくもない。
しかしだらしなさはミューズが感じた通り普通ではない。
実は彼女こう見えてもう4日は風呂に入っていない。
ついでに身長なんかも説明すると、ミューズがギリギリ150無いくらい、カルラが170くらい、黒髪のお兄さんのタツヤは175センチくらい、女の子は160センチくらい、赤い髪の男の人は180センチくらいとなっている。
「俺にあった仕事が無いんだから仕方ない。
一応レビュー上げたりして金は得てるし、何より俺はロックンローラでメタラーだ。
持ってきたのだってギターだぞ」
レビュー、ロックンローラ、メタラー、ギター。
この一瞬で分からない言葉がこれだけ出てきたぞ。
この後二人も居るんだ大変だ。
「はいはーい!ギターって何!?良かったら見せて!」
「何ッ!?ギター知らないって人生の8割は損してるぞ!?
……って、そもそもギターすら無い世界って事か?
ちょっと待ってろ今聞かせてやる!」
そうやって男性が引きずっていた車輪の付いた入れ物と、背負っていたケースから色々取り出し準備を始めて……
「あ……コンセントが無い……アンプが使えない………」
「アンプ?コンセント?」
「あぁ、このコンセントってのに電気入れて使えるようになるんだが刺す所が無くて……くそ………」
よっぽど私に見せたかったのか凄く悔しそうだけど、要するに電気が出せれば良いって事だよね?
「ちょっとそのコンセントっての貸して」
「あぁ、構わないが……」
「要するに電気を起こせば良いんだよね?
これくらいでどう?」
「………は?どうやってんだそれ?」
「魔法」
「魔法が使えるのか……異世界転移があるんだからあるか……
よし!今から俺のデスメタで天国へ送ってやるぜクソどもッ!!!」
「え?」
なんか女の子が気付いちゃいけない感じの反応したけどもう遅かった。
次の瞬間、私はいろんな意味で異世界を知った。
「人生初の最高にクールで刺激的な演奏を聞いた気分はどう?」
「ドラゴンが本気で縄張り争いしている時の咆哮の応酬を思い出した」
先に良いところ言うと、可能性が見えた。
メチャクチャに演奏しているように見えたけど実際は細かなテクニックを要しているように見えて独特な感性を貫いていて、文字通り異世界を貫いているように感じた。
悪く言えばうるさい。
もっっっっの凄くうるさくてまだ耳に残ってる気がする。
途中で防音の結界張ったから良かったけど絶対大騒ぎになってたって。
「でも嫌では無かったよ。
私も音楽は好きだし、ギターだっけ?それ見た目は似てるけどバイオリンと全然違ってね、音楽の可能性を感じたね。
聞かせてくれたお礼に私も演奏するね!」
という訳でバイオリンでさっきの演奏を真似してみたんだけど……
「う~ん……当然だけど楽器が違うとここまで違うんだね。
なんかコレじゃないって感じ」
「当然のようにアレンジ入れてたし指の動きがもう人間じゃねぇなこれ……」
「そりゃ私はワービーストだからね!
タツヤありがとう!それじゃ次タツヤと同じ世界から来たみたいな女の子!」
「女の子って、この子の方が歳上じゃないの?」
「私400歳越えだけど?」
「えっ?」「は?」「パネェ……」
「ちなみに最年長は妾じゃな。
じゃがこの場で年齢などたいした問題では無いのう」
「お話し中失礼します」
……と、このタイミングで食事ができたからって運んできた。
豚に似てるけれど骨格が少し違う何かの丸焼きがドンッと置かれて皆に切り分け配ってくれる。
私が興味津々に色々質問するけれど嫌な顔せず質問に答えてくれて確実に皆に情報が行き届く……って言うのは結果論なんだけどね。
単純に私が知りたかっただけだよ!
この並べられた食材の話を聞く中で出てきたレベルって単語とか、タツヤが漏らしたRPGって単語も聞いた事無い。
いや、レベルって言うのは分かるよ?
でも私が知っているレベルって言葉の使うタイミングが全く違うもん。
レベル20くらいって何?
話の流的に冒険者ランクみたいなモノかもしれないし、知的好奇心が刺激されっぱなしだよ。
「それじゃ自己紹介続きしよう」
「やっぱり必要だよね……私は石井エミリー、17歳。
母親がイギリス人で日本人とのハーフで、青い瞳が特徴的って言われてるけど生粋の日本人で日本語しか話せないよ。
職業はリアリティープロゲーマーでカードゲームをメインにしてるから当然ジョブは創造者。
生まれ付きの保有能力はイメージ拡大」
「待て、それゲームの話か?」
「何が?それより達哉さん自分の能力言ってなくない?
見せてもらって良い?私も見せるし。
コホン……その身を機械にしようと忠義を忘れぬ我が絶対なる下部、我が道を塞ぐ絶望をその科学の光盾にて凪ぎ払え!
サモン!マテリアルナイツ・シルヴィア!」
そう言って見せてくれて思わず「おぉ!」って言っちゃった。
腰に巻いてるベルトには長方形の小さな入れ物が付いていたのは知ってたんだけど、その中から5枚のカードを取り出し一枚を掲げながら呪文詠唱し空中に現れた光る半透明の板にカードを置く。
するとエミリーの横に光が発生し体の大半が魔法具になってる美少女が現れたのだ!
「格好いい!」
「当然!なんたってシルヴィアはずっと昔から私を守ってくれて共に成長してきたパートナーだ!
最早私の分身と言っても過言じゃない!カッコ悪い訳がないじゃん!
それで……どんな能力を持ってるの?パイロキネシスとか?」
「つまり……超能力?んな事できる訳ねーだろ。
というかそれオーバーテクノロジーによる映像か何かなんだろ?」
あ~なるほど。話してる内容は置いとくとして、つまりセリス様の世界と私の世界と同じで限りなくそっくりだけど全然違う世界なのか。
「そんな訳無いじゃない!シルヴィア!」
お皿を掴みお肉が乗っているのに上に投げる。
シルヴィアのゴツイ籠手がバラバラになり、剣へとなって肉を高速で切り裂き皿に綺麗に並べる。
ついでとばかりに均等な大きさに切った一枚を高速で自分の口に納めて何事もなかったかのように振る舞うシルヴィアさん。
もしかしなくてもシルヴィアも私と同じで悪戯好きだな。
「ふふん、どうよ私のシルヴィアは!」
「……っべーわ」
なんとか絞り出した感じに声を出してシルヴィアを見てる。
シルヴィアの方も今の高速のつまみ食いを見られたんじゃと内心焦ってる姿が可愛い。
「ところでこのお肉美味しかった?」
「え?まあ旨いよね。食べたことの無い不思議な風味があるけど」
「あ~、この風味は猪みたいな臭みだなと私も思ったよ」
「へぇ~……猪、食べたこと無いけどこんな感じなのか」
うん、焦ってるシルヴィア可愛い。
「シルヴィアとも仲良くなれそう。宜しくねシルヴィア」
『宜しく……今の内緒にしてね、エミリーちゃんには格好いい姿見せていたいから』
「それならふざけなきゃ良いのに」
『それは……エミリーちゃんがこんな小さい頃から見守ってきたから、つい可愛くて。最近のエミリーはだらしなくてそれがまた可愛くて』
「あ~うん、気持ちは分かる!うん分かるよ!
可愛いからこそだよね!」
『はい……本当に内緒ですよ?』
「……ねえ、誰と話してるの?」
「誰って、シルヴィアとだけど?」
「本当!?ねえ、シルヴィアなんて言ってたの!?
いや、それより何を話してたの!?」
おお、可愛い。
うん、言わないからそんな殺気まで送らなくても良いってば。
「内緒。ただ、シルヴィアは本当にエミリーちゃんの事が好きだって良くわかっただけ」
「そっか……ねえ、名前は?シルヴィアと話せる人なんて先輩方しか居なかくて少し羨ましいけど、友達にならない?」
「うん良いよ~。友達になろっか。
私の名前はミューズ、お近づきの印に取り敢えずもう1つキャンディーあげ………えっ?」
私はキャンディーを取り出した。ここまでは良い。
取り出したキャンディーが私の魔力を吸い取り始め、眩しいくらいの光を放ち、やがてシルヴィアが出てきたようなカードになってエミリーの手元に飛んでった。
「赤き断罪の英雄ミューズ……え?なにコレ……
……って、えっ!?ミューズって最高位クラスのモンスターだったの!?」
エミリーが困惑したのは起きた現象でなくカードの効果が強すぎた事による驚きから。
リアリティープロゲーマーのカードゲームではその殆どがジョブ創造者であり、創造者はサモナーの上級ジョブである。
リアリティールールによるカードゲームは他者の力をカードとして具現化したりとでき、その条件は色々あるが、モンスター、呪文、罠と大まかに三種類あり、モンスターは魔石が存在する者からしか創造する事ができない。
エミリーとしてはミューズに魔石が存在している事は聞いていたから分かっていたが、ここまで強いとは思ってもみなかった。
「え?いや!ワービーストだよ!?どう見ても人種じゃん!?」
「いや、そうじゃなくて……でもこんな強いカードになったし……
じゃあ精霊の一種なの?」
「だからワービーストなんだけど……ああもう!分かんない!
その話は後!次そこの赤い髪のお兄さん!」
「俺の番か、俺の世界では業火の剣聖ベルナドットと呼ばれていた」
「あれ?さっきは私って言ってなかった?」
「一応王家の血筋だからな。それに、今は強い王族というイメージを崩してはいけなかったからああしてたんだが……やはり俺のイメージとは合わないな。ある意味異世界にこれて良かったが不安が残る」
「なるほど……」
うん、着ている鎧もかなり豪華だし確かに王族って感じだね。
でもたぶんベルナドット的にこんなジャラジャラした鎧より実用性の高い鎧の方が良いんだと思う。
そういう所もひっくるめて強い王のイメージを作ろうとしてたんだね、なるほどなるほど。
「年齢は25、国1番の騎士を決める大会で優勝した事により先代業火の剣聖から炎の精霊の祝福を譲り受けた。
騎士学園も首席で卒業し、今は領地を持つ貴族で王家と剣として生きている。
貴族ではあるのだが……いや、もうここが別世界だと言うのは疑わない事にしたんだ、考えるだけ無駄か……
少なくともミューズが使った魔法も、あんな美しくない音楽も俺の世界には存在しないモノだったからな。
……俺は騎士学園主席ではあるが、学園での生活より冒険者としてモンスター専門の傭兵の真似事をしていた時期の方が長い。
だからというか、貴族社会では口が裂けても言えんが俺は軽い調子で話してもらった方が正直助かるな」
「おお、元同業者!仲間だ!
冒険の旅は良いよね!自由気ままに道を歩いて、たまに行商人の馬車に乗せてもらったり、そこで親睦を深めたりして、しばしの別れ、そうしてまた彼等と出会うのがまた1つの楽しみになるのは素直に楽しいよね!」
それが例え、永遠の別れになる事になろうとも……
「俺は立場的に文字通りの冒険者にはなれなかったが、そういう未来も選べたと考えながら聞くのは楽しかったな。
帰る手段も分からないし今ならそういう生活もアリ」
「当然だけど楽しい事ばかりじゃ無いけどね。
それじゃ最後は私!私はミューズ。
一応本職冒険者で、国際指名手配犯で私を撃ち取った場合賞金金貨50000枚、生け捕りなら金貨100000枚の賞金王だよ!」
私の経歴は色濃いからね~。
そもそも私の産まれが特殊だから。
予想道理というか、この後凄く大変だった。