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世界が続く  作者: ダンヴィル
異世界へ
2/8

海を漂い続けたその先で


ちゃぷん……ちゃぷん………と波に押されて水が跳ねる音を聞きながら寝転がりどこまでも続く空を見上げる日々を過ごして早5日。


一人ぼっちは寂しい。


なんて昔はよく思ったものだけど数日くらいなら一人もそんなに悪くない。


海を漂い続ける、燃えるように真っ赤な髪を持ち狼の耳が特徴的である幼めな少女のような見た目をしているミューズは意味も無く空を見続ける。

その姿は幼い見た目に反して大人びた雰囲気を感じさせる。


『なあなあご主人さ、いい加減ここから飛ぶなり走るなりして陸に上がろうよ』


そんなミューズに聞き慣れた声を耳にし仰向けからうつ伏せへと転がり相棒を見つめながら返事をする。


「ん~?別に良いじゃん。私は嫌じゃないよ?こうやって暖かい日差しを感じるのも、夜の静けさを感じるのも」


相棒の名はグラスオス。

グラスオスはグラストードと呼ばれるカエルであり部類としては一応モンスターだった為に特別な力を持つミューズが名付けた瞬間進化を遂げた。

進化した姿のままでは色々面倒なため普段はグラストードの姿に擬態しているのだが今はひとっこひとり居ない為本来の姿を表している。

ミューズはその背中からむき出しな紫の水晶を摘まんで揺らし、ゴミを放り投げる感覚でグラスオスを投げて目線を移した。


「それに一人だけど一人でもないし。ね、あなた達はどこ行くの?」


『うるせー!今逃げてんだよ!』


バシャバシャと音を立て水面を移動するウイングフィッシュに声をかけると律儀に返事をくれる。

その様子をクスクスと笑いながら見守る姿は無邪気にも見えるだろう。

見方によっては残酷に見えるかもしれないがミューズの場合単純に精神年齢が幼いだけ。

正義感は強いものの純粋な残酷さも持ち合わせていて何かに必死になっている動物を眺めるのは人並みに好きだったりする。

それは公園にいる鳩や猫を追い回す子供と似たような感覚かもしれない。


「ほら、こんな紳士も居るんだよ?」


『今のを紳士とは認めない』


「価値観なんて人それぞれだし別に私のを押し付けようなんてしないけど~」


でも食物連鎖により捕食者から逃げていて正に命懸けの逃走中の中で誰も返事すらしてくれないのに彼だけは説明までしてくれたんだよ?

それってかなり紳士的だと思わない?


「あ……頂きます」


『ひぃ~ッ!!!助けて~ッ!!!』


『ご主人、紳士の友達食べて良かったの?』


「ん……むぐ……ご馳走さま。

別に仕掛けたつもり無いけどさ、罠に掛かったからには食べないと失礼じゃない?もし掛かったのがアンデッドなら浄化してあげるし」


私の漂流する板の上へと偶々着地してしまったウイングフィッシュを頭から豪快に頂いた。

しっかり噛んで残った魔石を口から取り出してウォーターの魔法で洗う。


ウイングフィッシュは最終手段でレビテーションが使えるから飛んで逃げられたけど……生憎とね、私も捕食者だから罠に引っ掛かったからには食べてあげないと失礼だよ。


……と、言うのがミューズの考え。

ミューズは良い意味でも悪い意味でも自分の信じる道を貫き通す自由人である。

端から見たらかなりおおらかな性格をしているし、変な所でサイコパス気味に思えるかもしれないがそれは『人の価値観』だから。

ミューズは確かに『人の価値観』は理解できているが『人の価値観』が絶対だなんて微塵も思っていないし一部に関しては害悪とすら思っている程だ。


『自分がする事はされる事も当然』と言うのがミューズの考え。

人類はゴブリンや狼を子供まで根こそぎ殺す時がある。

なのに戦って敗れて捕虜として捕まった時に『こんな酷い仕打ちされていたのだから助けられて当然だ』なんて、たまたま通りがかったミューズへ言えてしまい、それこそが当然と疑わない『人の価値観』が特に嫌いだったりする。

相手だって必死に生きているのに『神に愛されているから他とは違う』みたいな感じに思って何故自分達だけが特別みたいに言えてしまうのだろう?


そして何故私だけこんな風に思うのだろうと考えた時期がミューズにはあった。

正確にはミューズだけでなく一部のワービーストの部族や恩人であるセリスとメリルも同じ価値観の持ち主なのだが、それでもミューズはその色が特に強い。

それはミューズが『動物の言葉を理解できる』からだ。

グラスオスというカエル、ウイングフィッシュという魚もそう。

その言葉を理解してしまうからミューズの境界線は酷く曖昧で、ほんの少し油断すると大きく野性的な感性へと潜り込んでしまう。


と、そんな訳で捕食者の罠にかかってしまったのなら食べてあげるのが生きているモノへの敬意だと言うのがミューズの考えの1つなのだ。

もちろん好き嫌いがあるので食べない事もあるが、あくまでも補食は弔いの一種でしかないという考え。

人肉は埋葬するしゴーレム等食べられないのは邪魔にならない場所に纏めたりする。


『英雄様が聞いて呆れるよ……』


「べつに英雄だなんて名乗ったつもり無いけど……どうしてああなったのさ?」


『悪いやつを社会的に殺すからでしょ?』


「いつも言うけど目に余って私が不愉快だから排除しただけだってば」


というより個人的に英雄って呼ぶの止めてもらいたい。

実は私はホムンクルスでさ、生まれた時から今の姿だったけどアレはまだ一歳だった頃の話だね。

強くもないのに言われるがまま自分は勇者なんだとか本気で思っていた時期があってね、英雄なんて呼ばれると忘れたいその思い出を掘り返されてる気分なんだよ。

しかもさ、英雄とか言われてるけど、私はただ法律無視して気に入らない奴を社会的にぶっ殺してきただけなのにね。


「それより嫌ならグラスオスだけでも陸に居れば良いじゃん。

今までずっとそうしてたんでしょ?」


『5日目となれば流石に不安になるってば』


「グラスオスにも人らしい神経あったんだ……」


『失礼な』


相棒と過ごしてもう400年は越えるけど初めての発見に驚きを隠せないでいると怒られた。

だって相棒さ、百歩譲って人らしい神経はあってもアンタに人らしい価値観なんて微塵も無いじゃん。


「……ん?おお!デストロイシャーク!生で見るの初めて!」


『アイツらあれから逃げてたのか』


進行方向かは分からないけど前方からデストロイシャークがこっち目掛けてやってきた。

コイツ、とにかく全身硬くて船に激突しては沈めてしまうとにかく恐ろしいモンスターって事で有名なのだけど、私はエラ呼吸できないから陸で行動するばかりで初めて見たよ。


「よっこいせっ!」

『ぎゃああああっ!!!』


水中から跳ね、私に飛びかかるので腕の力だけでジャンプしてキックを入れる。

硬いって言うから普通の金属の塊を砕く程度に加減して蹴ったけどもう少し加減した方が良かったかな。

せいぜいフルプレート程度の強度だったみたい。

魔力の籠ったフルプレートくらい堅かったらこうはならなかった。


「よっ……と、わっ!」


蹴りの衝撃を利用しくるりと回転し足から板へと着地したのだが、板は真っ二つに折れ大きな水しぶきをあげて海へ落ちた。


「……ま、良いか」


ミューズとしては足場が壊れると困るから蹴り飛ばしたのだが何も変わらず素直に結果を受け入れる事にしたようだ。

趣味のひなたぼっこで1日が終わる事もあるミューズらしいと言えばミューズらしい決断である。


『良く無い』


海に浮かぶ私の胸に乗っかるグラスオスが物凄く不満そうだけどこの子はなんやかんや付き合ってくれる優しい子だから好きに言わせておこう。

気が向いたらとっとと移動すればいいし。

何よりこの5日間、日光も丁度良いし海もなんやかんや悪くない。

それに今は風も気持ちいいし……


「……あれ?アイちゃんじゃん」


「なんじゃ?久しぶりに見かけたと思えば山犬から海犬になったのか?」


自然の風と勘違いしたけどアイスドラゴンのアイちゃんが近付いて来てできた風だった。

山犬って言うのはね、私がヒューマンやエルフなんかの寿命差について色々考えていた時期があってね、考えを纏めようと放浪して最終的に雪山で山籠りしていた時期があって、その時に出会ったのがアイちゃん。

アイちゃんが初対面で「なんじゃ、こんな所に山犬が入り込んで来るなんて珍しいのう」なんていきなりあだ名付けるから私もアイちゃんってあだ名付けてあげた。


そのアイちゃんだけど私が教えてあげたカルマに干渉する魔法で氷みたいな水色の髪にブルーサファイアのような瞳、尻尾、羽、角を持ったドラゴニュートの姿になっている。


「久しぶり~。ん、良い風。そのまま羽で煽ってくれると嬉しいんだけど」


「別に構わぬが……」


おぉ……風が気持ちいい。

アイちゃんは好きになった相手には優しいし何よりもセリス様を感情豊かにした感じの人柄で私と馬が会うんだよね。

一緒に旅できないのはドラゴンが縄張り意識が強いからで同じドラゴンが縄張りに入ってきたら力こそ絶対でとにかく大変な事になっちゃうからねぇ~。


「それで、こんな所でどうしたのじゃ?」


「船に乗って別の大陸に行こうとしたんだけど海賊に襲われてね、一瞬で鎮圧したんだけど船の操縦の仕方なんて分からなくて激突して沈没しちゃったんだよね~フフ!

あれは大変だったけど楽しかったからアイちゃんにも見せたかったのに」


『楽しくない』


私だって普通はそうだよ。

でも気に入らない奴らはぶちのめして縛ってさ、私の乗ってた船の人達と一緒に出発した港町まで飛んでもらったからね。

死人なんて居ないし笑い話だよ。


「お主はやはりドラゴンの妾から見ても変じゃぞ。

それで、解決したのに何故漂っておるのじゃ?」


「う~ん……最初は目的地あったんだけどこのまま流されるまま流される旅って言うのも悪くなくない?」


「また小説の影響かえ?

主を見てると小説読むと馬鹿になると見せられてる気がするのう」


「いくら馬鹿になるって言われても面白いものは面白いでしょ?」


「否定はせん」


こんなやり取りしているが小説の影響なんかじゃなくて昔からの趣味である。

こういう生き方をしてるから山籠りしようなんて考え目の前のアイスドラゴンであるカルラと遭遇した訳なのだが。


二人の関係は既に200年近く良好であり1番長く過ごした時間が10年とヒューマンからすれば長く共に行動していたくらいには仲良しである。

先程も出たドラゴンの縄張り等の事情が無ければオリビアにカルラも含めた三人で世界中を旅していたと確信を持って言えるくらいに。


「けっきょく価値観なんて人それぞれだしね。

それよりアイちゃんだって何でこんな所にいるの?

大好きな縄張り争いしなくて良いの?」


「別に縄張り争いが好きな訳ではないのじゃが……

妾はアレじゃ。旧友のゼノンから珍しい食べ物手に入ったから来ないかと言われて移動中じゃ。

ミューズも「行く!」……食い意地も相変わらずじゃな」


ミューズが岩を食っている姿をカルラは思い出し思わずため息をついた。

この世界の全てのモノに魔力が存在し、当然岩だろうが魔力がある。

ミューズは岩の味ではなく魔力の味を楽しむので大抵のものは何でも美味しく食べられてしまい、親友が岩を美味しそうに食べている姿はカルラとしては唯一受け入れきれていない部分である。


「食べてみなきゃ分からないから食べるだけだよ」


「そうじゃが……もうよい、とりあえず足場作る所から始めようかの」


言われるままレビテーションで退き、カルラのフロストブレスによって氷の足場が出来た。


「人種になる分には良いのじゃが元に戻る時バランスの違いが不便じゃ」


「人になる時は小さくなるからその分猶予ができるもんね。

ところでバッさんも誘った?」


「バッさん?……あぁ、確かバルフートの事じゃったかのう?」


そう、バルフートのバッさん。

バッさんとの出会いはね、初めて見た海ではしゃぎ過ぎて魔力垂れ流してたらバッさんがものっ凄く怒って飛び出してきてね、あまりにも問答無用で喧嘩になって終わってみたら凄く仲良くなった。

元々私に敵意なんて無かったし、バッさんが私の強さを認めてくれた結果だね。


「奴なら誘っとらんぞ?」


「誘ってないの?こんな近所にいるのに?

このままじゃ仲間外れみたいだし一応誘ってみるね」


アイちゃんは基本何にでも興味示すけど、バッさんは自分が認めたモノ以外には極端に興味を示さないからね。

逆に興味示す対象が少ないから興味対象の私が声かけるとわりと出てきてくれる。


「誘うってどうやって……何をやっとるんじゃ?」


「バッさんの縄張り叩けば通じると思って」


「そんな叩いたって届くわけなかろう……」


「やってみなきゃ分からないじゃん!バッさ~ん!ミューズだよ~!ゼノンさんって人のとこにご飯食べに行こうよ~!」


こんな感じに3分くらい氷の足場の隅で水面バシャバシャしながら魔力を垂れ流したけど何の変化も無かったから仕方ないね。


「うん、私は努力した。これで良し」


実際この方法で10回に3回は出てきてくれてたから今はきっと留守か寝てるんだと思う。


『満足かの?』


「うん!背中乗るよ」


『はようせい』


「それじゃお願い」


『しっかり捕まっとるのじゃぞ』


アイちゃんの背中に乗せてもらい、グラスオスが落ちてしまわないよう首のところから服の中に入れてしっかり捕まって空を飛んでもらう。

ゼノンさんって人は会ったこと無いけど、前に世界樹の実を食べさせてもらったとアイちゃんが話してたのを覚えてたから凄く楽しみ。

世界樹の実で無いにしろいったいどんな味がするんだろう?


そんな風に期待に胸を踊らせている時それは起きた。


『……なんじゃアレ?』


「どうしたの?」


急に速度を落としてアイちゃんの見つめる先を見てみる。

その場所はまん丸に落書きされたみたいに空間が歪んでいて、それがクッキリと形を作る。


それは円形の門で、門の先は空間が歪んでいて見えない。


それがゆっくりとこちらに近づいてきていた。


「時空魔法の一種?」


『ディメンジョンスラッシュやデモンズゲートみたいなのであればこの巨体は格好の餌食じゃのぅ。一応被弾面積の小さいドラゴニュートの姿になろうと思うのじゃがどう思う?』


「うん、その方が良いかもね。レビテーション」


門から目を離さないよう門の移動速度より早く後退する。

しかし後退すると後退した速度の分だけ早くなる。


ここでようやく不味いと判断し全速疾走で飛ぶ。


「遅い!妾に捕まれ!」

「うん!」


アイちゃんに抱き抱えられたので私はアシストに回る。

高密度な魔力で強化魔法を施し速度をもっと上げ、アイちゃんもかなりアクロバティックに飛行するがそれでもついてくる。


「ぐっ……しつこいのう!」


「これはどう!タイムストップ!」


私を中心に私を除いた半径30メートルの全ての時間が止まる魔法。


「あ……ごめんアイちゃん」

「ごめんって……ッ!?」


流石にここまですれば止まるだろうと思ったけど止まらなかったから解除しながら謝罪した。

むしろアイちゃんが止まって距離を詰められちゃった。

こりゃ参った。


「ミューズのアホーッ!!!」

「仕方ないじゃん!今の私の最強魔法だよ!」

「ッ!?」


アイちゃんが急いで加速しようとした。

しかし羽の先端が空間に触れてしまい、その瞬間引っ張られ完全に輪の中に入ってしまった。

これは不味い。このままじゃどこか遠くへ送られてしまう。

けど私の力じゃ打破できる手段は無い……


……メリル様にはいざって時以外使うなって言われてたけど、今がそうだよね?

本当は使いたくないけど仕方ない。


瞳が暑くなり、私の見る世界が黒に塗りつぶされていき赤い輪郭のみとなる。

ザワザワとチリチリと胸の奥が焼かれるような、忌まわしき力を解き放った。


「ディザスタークローッ!!!」


私とアイちゃんの体をぐるぐると縛り、紫色の魔力の手が伸びて門が閉じるのを力で阻止する。

何でも食べちゃうこの力、私は大っ嫌いだけど仕方ない……


「ぐっ……うぅ………」


「よし!そのまま外へ出るぞ!」


「まって……この力制御難し………」


ドクン……と、私の中で力が跳ねた。



ミューズが使用したこの力はミューズの力ではあるがミューズの力では無い。

そもそもミューズという存在は勇者という存在を生物兵器として量産する計画により数百年という長い年月でようやく生まれた個体だ。

ミューズが量産されなかったのは彼女の自我が強すぎて兵器としてはあまりにも不向きだったためであり量産装置の改良途中で計画が頓挫したしたから。


そのミューズの元となったミィの種族、スカーレットミーティアは力こそが法律でありミィという個体は他の個体には持ち得ない特別な力を持ち、それを抜きにしても生まれながらにして並外れた才能を有していた。

そんなミィは同種からは勇者とまで言われ、他種族からは破壊神や魔王等と呼ばれ、ミィ自身もこの邪悪な力に名を付けるなら魔王が相応しいと思いそう呼んでいた。


これはミューズの知らない事だが、ミィの魔王の力は彼女が生まれる前に彼女の器なら魔王の力を埋め込んでも問題無いだろうと、その世界で人種から神のように扱われていた精霊様が彼女の中へと『自分の手に余るモノ』を無理矢理定着させた結果、歴史に名を刻む厄災である破壊神が生まれた。


何でも食べてしまう力というのは文字通り何でも食べてしまう力なのである。

生き物は当然、鉱物も、毒も、炎も溶岩も誰かの記憶すらもも……

食べた生き物の記憶すら自分のモノとしてしまい、この力を使用し食べ続けていれば自分の体すら食べ尽くされてしまう。


オリジナルであるミィですら使い過ぎたり感情を爆発させると暴走させてしまうような力をミューズが使ってしまえばどうなるか……

だが今回は良い意味でその心配は無いようだ。

今の彼女達からしたら最悪の結果だろうが。



ドクン……と、力が跳ねた時、一瞬意識が遠退いたがすぐ正気に戻る。

が、同時にブチブチッ!と嫌な音が耳に届いた。


「あ、ごめんアイちゃん」


反射的に力を引っ込めてしまい私の視界が元に戻り、ディザスタークローは千切れて吸い込まれていく。

最後の手段使ってこのありさま。

だけどアイちゃんは満足そうに返事を返してくれた。


「う~む、お互い持てる全てで頑張ったからの。

甘んじて結果を受け入れるしかあるまい」


「そっか。でもこうなったら仕方ない。先陣任せたよ相棒」


『馬鹿!ヤメロ!離せ!』


「言われなくても離すよ!グラスオスピアッ!!!」


グラスオスに込めても大丈夫な魔力量の半分くらいを入れて吸い込まれて行く先へ全力投球。

紫の線となってグラスオスが飛んで行く。

距離とかも分かるように魔力の糸を付けたからこれで心構えができる。


「出るよ!」

「了解じゃ!」


『ぐふっ!』


抜けた先、5メートルくらいに巨大化させたグラスオスの上に落ちる。


「ナイスクッション!」


「こやついつもこんな扱い方されとんのか?」


「普段はしないよ。タダ飯食べてるんだから緊急時だけでも働いてもらわないと困るって。別に死ねとは言ってないし」


「確かにそうじゃな。緊急時でもあったしのう……」


魔力を回収し縮むグラスオスから降りる。

降りた所で気付いたけれど私達をローブを着た人達がポカンとこちらを見ている。


『よ……よくぞお越しくださいました。勇者……様?』


若干震えた声で聞いた事の無い言語で話してきた男はやたら豪華なローブを着た小太りの中年ヒューマンだった。

魚と会話するのと同じように魂の感じから言いたい事は分かるけどこれは不便だなぁ。


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