№Ⅷ 幕開け
「父君はプライドの高い男で、敗北を察すると早々に自決したよ。母君は……あなたと同じ虚偽の約束を信じて、あなたと同じように頑張っていたけど――ちょっとハードプレイが過ぎてね。壊れちゃった。母君も美しかったですが、熟女は私の趣味では無かったので適当に弄んだらポックリと。あ! 大丈夫だよ! シャーリーはちゃんときっちりと、殺さないよう虐めますから♪」
理解ができなかった。
頭を撫でるアルの手。髪の毛が抜け落ちるほど嫌気がする。
「約束……約束、したよね? したでしょう?」
アルに縋りつきながら、私は言う。
「いい顔……その涙で濡れた瞳、舐めたくなってくる……」
「嘘――」
アルは私の耳に口を近づけ、湿った声で呟く。
「……あなたは一生、私の犬なんですよ。シャーリー様ぁ♡」
ガッ!! と男二人に後ろから抱き上げられた。
「さ、脱ぎ脱ぎしようねー」
「うお、胸デカいな! さすが元王女様だ!」
それから奴らは私の足を持ち、下着に手をかけた。
(父上は――)
――父上は王国が落ちると共に自決した。
ということは、あの男は初めから……それを知っていて、私を騙して――
(フェルディア――ユーリシカアアァァァ……!!!!!!!)
じゃあなに。私はこれから犯され続けるの? ずっと、ずっと、暗闇の中で、性欲の贄にされるの?
――まぁいいか。
なんて、諦めるのが利口だろう。
「はは……あはははははははははははっはははっははあっはははははっははははははあははははは!!!!!!!!!!!」
裏返った笑い声があふれ出した。
――ふざけるな。
アルの手が私の陰部を弄り出す。
体が反応する。だが心は無に還っていた。
「……ああっ! シャーリー様……なんて、なんて素敵な顔なんでしょう!」
嫌だ、認めない。こんなこと――!
死んでいた?
あの優しくて強い母上が?
愚直でだらしないけど、しっかりとした信念をもった父上が?
一体、なんのために、誰のために――!
ここまで、一ヶ月、全てを捨てて来たんだ!!!!!
「いい! いいですよ……その怒りと屈辱に溢れた顔! もう、さいっこうです!」
認めない、認めない!!!
「殺してやる」
ころしてやる。
コロシテヤル!!!!
「コロシテヤル……」
「はい?」
聞こえた。またあの女の声だ。
そんなに殺したいのなら、くれてやる。この体、あなたにくれてやる。殺したい奴がいるのなら、好きにすればいい。
(臓物を引き抜いて、全身の骨をすりつぶして、魚の餌にしてやる……)
いらない。
平穏も、幸せも、誇りも、国も、自分自身すらも……!!!
全部くれてやる! その代わり、コイツら世界のダニ共を……殺させてくれ!!! 私に、殺させてくれ!!!!!
「睨んでも無駄だぜ王女様!」
「ホントにべっぴんだな……いいねぇ。一週間溜めた甲斐があるってもんだ!」
服が剥がされていく。
――『契約術をどう捉えるかはアンタ次第さ。信じないならそれでいいし、もし信じるなら手を伸ばしてみるといい。亡霊がその手を掴んでくれるかもしれないぜ』
いつかのリーパーの話を思い出す。
――『シャーリー。お前は強い子だ。そんなお前でもきっと、いつかは人の闇に阻まれる。もしも、もしも魂が壊れるほど深い闇に落ちたのなら――死神様を頼るのだ』
昔、父が話していたことを思い出す。
【さぁ姫様。決断の刻限だ。死神と踊る覚悟はできたかな?】
どこかで聞いた青年の声が聞こえる。
亡霊……死神……そうか。そういうことか。
「ありがとう。アル」
「シャーリー…………様?」
「ようやく、決心がついた。ふふ、ねぇアル。私ね、決めたの。もうね……殺すわ。自分も、あなたも、そしてあの男も……全部、【ミナゴロシニシテヤル】」
私は右腕を掴む男の手を振りほどく。
そして大気を切り裂くように、魂から声を出す――
「我が名は……シャーリー=フォン=グリム!!!!!」
私は天に向けて右手を伸ばす。
「欲しいのはなんだ!? 心臓か? 脳か? 子宮か? なんでもいい……なんでもくれてやる!」
今、生きているこの命で足りないのなら――
「死後もくれてやる! だから力を貸せ――――」
祈るように、脅迫するように、私は天に向けて叫ぶ……!
「“死神”いいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃっっっ!!!!!!!!!!!!」
瞬間、かまいたちが私の周囲の男共を肉片に変えた。
『エ、オレタチ――』
『キラレ――?』
血のシャワーが部屋に降り注いだ。
紫色の闇が私を包み込み、作り変える。私を化物へと――
扉をすり抜けて、髑髏の仮面を被った黒ずくめの青年が、化物になった私を迎えた。
【契約は結ばれた。我が名は〈リーパー〉、死を司る神なり】
血潮で出来た水たまりで、私たちは出会った。
童話に出てくる死神の通り、ボロボロの真っ黒なマントを羽織り、趣味の悪いお面を付け、半月を描く鎌を持った目の前の不気味な男は……しかしどうしてか、私からは白馬に乗った王子さまにも見えた……。