№Ⅴ 隣人の名は
私が犬畜生へと身を墜として一週間、私はアルの発想力に感心した。よくもまぁ、ここまで人を貶める発想が出るのかと、心の底から感心した。
排泄の様子を観察されたり、見世物小屋のような場所で踊らされたり、とことん王女としての私を辱めた。私は色々試した、アルや男たちの要望を飲みながら奴らの嫌がる反応を模索した。
無表情で行為に及んだり、かと思えば全力で嫌がったり。楽しんで見せたり……だがどれも、奴らは喜んだ。嗤えることに、皮肉なことに、つい数日前まで清廉潔白だったシャーリー=フォン=グリムは、男の……男の心を持った女の悦ばせ方を知っていった。
何度も死にたいと願った。その度に奴の呪いの誓いが邪魔をしてきた。
異性も同性も、子供も大人も老人も、構わず相手をし続けた。舐めろと言われればなんでも舐めた。楽しげに客が笑った時、少しの喜びを感じた。その時、私は自分の感覚が狂いだしていることに気づいた。
「シャーリー。ご飯ですよー」
アルがエサ入れにスープを入れて持ってくる。私は四つん這いになって、犬のように腰を振り、餌を手を使わず食べだした。するとアルは顔を赤くして、自分で自分の体を弄りだした。
「かわいい……シャーリー、あなたはほんとにかわいい……」
気持ち悪いと思いながらも私は吐き気を必死に抑える。アルが満足し、この場を去るまで――
「はぁ……はぁ……! シャーリー、本当に良い子になったね。よしよし」
アルが頭を撫でてくる。
はじめこそその手を噛みちぎってやろうと思ったが、もうそんな気力もない。媚びた笑顔でワンと鳴くまでだ。そうすれば、アルは満足気に帰っていく。
「――じゃ、また明日ねー。今度はもっと楽しい遊び道具を用意するから~」
アルが地下牢を去る。
私はそこでようやく人らしい所作で食事を始める。食事を終え、眠りにつこうとするが――
「おら、出番だぜ王女様♪」
「アルが起きるまで、俺達と遊ぼうぜ~!」
寝ている所を無理やり起こされ、兵士たちの慰めに付き合う。一夜が過ぎ、朝食を食べ、アルが用意した余興を演じ、昼食はなしで見知らぬ客の相手をして、風呂に入り、そこで犯され、夕食を食べ、看守の相手をする。
牢屋へ帰り、夜中二時……この時間だけは誰も私に構わない。唯一許された、人であれる時間――
もう王女としての尊厳は消えた。怒りもない。体は心を連れて屈辱に順応した。もう、大丈夫。私はちゃんと壊れたはずだ。
「……コロシテヤル」
誰かが呟いた。
おかしい、私以外居るはずのない牢屋で、誰か他の人間が呟いた。よく知っている声だった気がしたが……。
――次の日。
「ころしてやる」
――そのまた次の日。
「殺してやる」
日に日に、発音が上手く聞こえるようになった。
誰の声だろう。一体、誰の――
『“殺してやる”。って、言ったのかい? お嬢さん』
「え?」
突然、壁が喋った。
違う、隣の牢屋から声がしたのだ。青年ほどの男の声……。
『なぁ、暇ならちょっと会話に付き合ってくれないか? することなくて死にそうなんだ』
右隣から軽く柔い声色が響く。
私はすぐに反応できず、隣からのノックの音でようやく発声しようと口を動かす。
「は、はがっ――!」
上手く言葉が出せず舌を噛む。
媚びた声を出しすぎて、普通の声の出し方を忘れてしまっていた。私は口に広がる痛みに耐えながら、もう遠い過去に消えた姫君の声を絞り出した。
「……あなた、誰、ですか?」
私の問いに対し、彼は依然として軽快な声で名乗る。
『俺の名はリーパー。今日から牢屋に住ませてもらうことになった、お隣さんだよ』




