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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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カイ、色々と学ぶ。


 半壊した駐屯地で、一夜を過ごした。村長は、息はあるものの意識を取り戻さない。

 翌朝早く、戻ってきた鳥を、「休みなしですまんが」と申し訳なさそうにリラードさんが再び飛ばす。


「これで昼前には馬車がきてくれるだろう。さて、それまでに」


 とリラードさんは村の方を見た。


「い、いくの?りっちゃん」


 サントラさんが、心配そうにリラードさんを見た。


「規約では禁則事項に入っているが、村長がこの様子だ。村の様子も見ておきたいし、村人がどうなっているかも知りたい。カリュはどう思う?」


「もはや禁則事項うんぬんじゃなくなってる。問題は、村に私たちを超える戦力がいた場合だけど、昨日一昨日と外から見てる感じだと大丈夫だと思う。あの、森にあった召還術式さえなければだけど」


「ふむ。カイは?」


「えっと、村長さんがこの状態なので、放ってはいけないかと。二手に分かれる、は、まずいですかね?」


「いや、まずくないと思うぞ。村へは深く入らずに、とりあえず様子がわかればいい。そうだな。俺とカリュで村の偵察。サントラとカイは、少し離れた場所で村長と待機。それでいくか?」


 全員が頷くと、立ち上がった。

 轟々と雲が動いている。

 草原が風に揺れる。

 村から少し離れたところに村長を寝かせ、サントラさんとともに村に向かうリラードさんとカリュさんを見た。村は、ここからでは人影は見えない。音も、活気もなく、ただそこに佇んでいるだけに見えた。

 二人の背中が小さくなっていく。

 村長は相変わらず目を覚まさない。

 優しい陽光に、あくびをする。こんな状況でしてはいけないのは分かっているのだが、しかし昨日あまり眠れなかった疲れがある。

 ぐうーと隣でお腹が鳴った。


「お腹すきましたね!」


「う、うん」


 とサントラさんは、照れたように頬を染める。

 さて、二手に分かれて、危険地帯かもしれない村へ偵察。結構緊張感のある場面なのだが、なんとなく気が抜けたというか。このまま質問してしまおう。


「サントラさんは、リラードさんと幼なじみなんですよね」


「う、うん。りっちゃんから聞いた?お兄ちゃんとりっちゃんが、よく遊んでて、弟といつもついていってたんだ。私、人見知りだから、勇者になってからもりっちゃんに頼りっきりで」


 と立てた膝に両腕を乗せ、サントラさんは村の方を見た。


「カイくんにも、幼なじみ、いる?」


 無表情のリュウドウの顔が思い浮かぶ。


「ええ、いますね。無骨なのが」


 ポックは、シュナは、ユキは、ロロは、みんなは、どうしているだろうか。

 時間が経つにつれ緊張感もゆるみ、二人でぼーっと待っていると、リラードさんとカリュさんが戻ってきた。


「どうだった?」


 サントラさんが訊ねた。

 リラードさんは、首を振りながら、


「村人のいた様子はなかった。争った跡もない。といっても、数軒調査したのみだが。とりあえずは本部に任せよう。わからないことが多い。あまり深追いするのもリスキーだ」


 村長を抱え、駐屯地に戻った。

 迎えにきた馬車に乗り込み、リーフ市へと戻る。一時間ほど揺られる。いつのまにか寝ていたが、「カイ、ついたぞ」とリラードさんに優しく起こされ、馬車を降りた。ことがことであったので、組合の事務員が二人迎えてくれた。村長を病院へ手配してくれるとのことだった。リラードさんは、なにやら事務員の人に話をしている。しばらくして、「すまんすまん」と戻ってくると、全員で勇者組合リーフ支部の隣にある建物に入っていく。


「ここは」


「ああ、この建物は勇者組合が貸し切ってんだ」


 がらんとした室内に、受付のカウンターがあった。

 リラードさんが鍵をもらい、二階へ上がっていく。歩きながらに、建物の説明をしてくれる。


「一階と二階に小部屋と中部屋あわせて12部屋ある。ライセンスがあれば、ただで使える。勇者組合リーフ支部の二階にもいくつか部屋がある。任務前に集まったところだな。あっちもただだ。両方が完全に埋まるってことはまあないな。金のあるパーティは個人で借りてたりするし。三階は大会議室が一つ。講習とか会議に使われたりする」


 がちゃりとリラードさんが部屋を開ける。


「さて、報告書の作成だ。カイ、地味だがこれも勇者の仕事の一つさ」


 リラードさんは、爽やかに笑った。

 カリュさん、サントラさん、俺の話も総合し、リラードさんが報告書を作成していく。結構な時間をかけて、丁寧に。


「うし、こんなところかな。討伐程度なら決まった書式の、簡単なもので済むんだが、今回は少し事情が込み合っている。特に、森にあった召還術式、それと、第七駐屯地の半壊の理由もしっかりと書いとかないと、何を言われるかわからん。あとは提出して終わり、なんだが、今回のような特別なケースは、事務局長に直に報告することになっている。それは俺がやっておくから、みんなは午後は一服してくれ。そのあと、カリュ、サントラ、カイを『グローリア』に連れてってやれ」


「『グローリア』って?」


 俺が訊ねると、サントラさんが、にっこりと笑って言う。


「うん。勇者専用の、料理屋さんだよ」


「まあ、料理屋っつうか酒屋に近いがな。カイはまだお酒はだめだが、『グローリア』は飯もうまい。勇者も多いから、情報も入りやすい。俺もあとから合流する。お金は気にするな」


 とリラードさんは立ち上がった。


「ありがとうございます!」


 勇者が集まる飲み屋か。ちょっとわくわくする。

 13時になったところであった。午後は一度解散し、19時に再び集合することになった。

 まだ時間があったので、一度寮へ戻る。

 閑散とした寮内。一年は授業があるし、二年は仮免実習に行っているのでいない。ププ婆が、庭の花に水やりをしている。パンチパーマにヒョウ柄のトレーナー。根はいい人なんだが、見た目は怖い。


「あれ、カイじゃないか。帰ってきたのかい」


「少し時間がありまして。また夜に行かなければいけないんですが」


「そうかい。昼は食ったのかい?」


「軽く」


 サントラさんとカリュさんに、帰り道で5番街で有名なサンドウィッチを奢ってもらったのである。


「あ、でも、もう少し何かあれば」

 

 とお腹をさする。ちょっと足りない。


「食堂にきな。つくってやる」


 ププ婆は、にっかりと笑った。歯はコーヒーで薄茶色に染まっていた。

 ププ婆特製オムライスを食べる。しっかり焼いた卵でケチャップライスを包んである。オーソドックスな昔ながらのオムライスだが、俺はこれが大好きだ。一度レストランで半熟卵のオムライスを食べたが、一口目の感動はあったものの、半分で飽きてしまった。食べ終わり、からんとスプーンを置く。がらんどうの食堂。窓からは庭が見え、日が差し込んでいる。風が時折入ってくる。いつもは賑やかな場所が、こんなにも静けさのなかにあると、なにか違う世界にいるような、奇妙にも心地よい感覚になる。

 水をごくりと飲み干す。


「ごちそうさまでした!」


「皿は置いておき。ゆっくり休みな」


 とププ婆が言った。いつもより優しい。ありがとうございますと言って、部屋へ向かった。

 ベッドに寝転ぶと、すぐに眠りに落ちた。

 はっと目が覚める。窓の外が薄くらい。

 やばい、と壁にかかった時計を見る。胸をなでおろす。18時だった。顔を洗い、階段を下りる。食堂は学校帰りの一年生で賑わっていた。


「こら、ちゃんと靴を並べな!」


 といつものププ婆がそこにいた。


「カイさんじゃないっすか、仮免実習おわりっすか?」


「おお、ヤット。一任務終えて、小休憩みたいな感じかな。これからご飯に連れてってもらうよ」


「まじっすか?いいっすね飯。どうでした任務?カイさんなら余裕っすか?」


 相変わらず軽いヤットだが、しかしそこがヤットの良いところでもある。にしても、そうか。俺は、ここでは上級生なんだな。偉そうに先輩面して。でも外に出たら本当に、まだまだなんだよな。強いリーダーシップ、感知魔法があって剣術もすごいリラードさん、ヒールのみならず強力な攻撃魔法も使えるサントラさん、年齢が二個しか違わないのに早くからばりばり活躍してるカリュさん。


「いや、本当に、まだまだだよ。すごい人が一杯いてさ。でも」


 ヤットは、「でも、なんすか?」と嬉しそうに俺を見た。


「でも、もっと頑張ろうって、なんていうか、あの人たちみたいになりたい、勇者になりたい、って気持ちは強くなったかな」


「ああ、なんかかっこいいっすね。俺も早く二年になりてえ!」


 こいつ、なんかいいやつだな。

 ヤットと別れ、寮を出る。若者の多い5番街を横目に、劇場や中央噴水があるカップルの多い4番街を過ぎる。4番街と3番街をかける小さな橋の外灯のもとに、カリュさんとサントラさんがいた。3番街は、ネオンがきらびやかで、大人な雰囲気がある。あまり来たことがないので緊張するが、同時に、高揚感がある。


「すみません、遅れてしまって」


「ううん、大丈夫だよ」


 サントラさんが、にっこりと笑った。


「行くぞ、はぐれるなよ」


 カリュさんが、先導を切って歩き出した。

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