みんなで反省会をする。
駐屯地に戻る頃には、夕日が落ちかけていた。
「ただのモンスター調査じゃなくなった。伝書鳥は勇者組合に飛ばす。寝る時は警戒態勢を取る。感知できる俺が一人で、カリュ、サントラは二人体制だ。2時間置きに交代する」
「俺も、入ります」
「いや、カイは、休んでいた方が」
「リラードさん、大丈夫です。入らせてください」
カリュさんが、
「リラード、みんなでしよう。あんたの感知でも裏と表は範囲が広すぎる」
と言った。
「オーケー。俺とカイ、カリュとサントラでわける。外には出ない。玄関そばの窓に一人、裏手の窓に一人配置。異変があればすぐに連絡。空ぶっても構わない。気にするな。とりあえずは、飯!飯作るから待っとけ!」
とリラードさんは溌剌とキッチンへと向かった。はっと気持ちが明るくなる。心が軽くなる。
「期待せず待ってるよ」
とカリュさんが椅子に座った。
予想通りというか、しっかり男の料理が出てくる。
ざっくばらんに切られた野菜炒めと、塩こしょうで味付けられた肉。
「しっかり食えよ!」
と明るいリラードさん。
腹が減ってるので、ぶっちゃけなんでもうまい。サントラさんいわく、場合によっては携帯用補給飯で何日も過ごすこともあるようで、今回なんかはかなり恵まれてるのだとか。
食事の片付けを終え、リラードさんが椅子に座り、表情改め言う。
「反省会するぞ」
サントラさんが、コーヒーをそれぞれに置く。
ありがとうとらちゃん、とカリュさんがコーヒーを啜り、続ける。
「4人行動にしたのは良かったと思う。結果時間はかかっちゃったけど」
「そうだな。だが、今朝の時点であった違和感を拭えないまま進めた。いっそ村に行ってみるとか、勇者組合に連絡するとかって手もあった」
「う、うん。でも、今朝の段階でさすがにそこまではわからなかったんじゃないかな」
「とらちゃんの言う通り、今朝の段階で契約書の禁則事項にあった村に行くってのは大胆すぎるし、勇者組合に連絡も消極的過ぎる。とりあえず調査を進める、でも4人行動で。割と私は最善だったと思う」
「そうか。ふむ」
とリラードさんはコーヒーを啜ると、「戦闘に関してはどうだ?」と問うた。
「リラードの感知に頼り過ぎている部分がある。今後同じようなことも起きるかもしれない。各自がしっかり緊張を持たないと」
「俺の感知も、せいぜい半径6メートルだっけか?」
「6メートル40。前回の測定では」
「そうそ。そんなもんだからな。今回みたいなのには反応も遅くなるし」
「た、隊列はどうだったのかな」
「今回はカイがいたが、基本は俺が先頭、サントラが真ん中、カリュが後ろ。後ろから敵が来たときのプランが課題だよな。サントラ真ん中は確定として、もう一人、カイみたいなやつがパーティに加わってくれたら後ろにつけたいんだがな。全然一年なら待つし」
とにやにやとリラードさんが俺を見た。
「か、カイくんはヒールも近接もできるから、引く手数多だろうね」
「あ、ありがとうございます」
と照れながらにようやく第一声を放つ。
「私がペンダグルスに矢を放った後、引こうとしただろう」
カリュさんが、厳しい口調で俺を見た。
どくんと鼓動が早くなる。背筋を伸ばし、「は、はい」と答える。
「あれは、なんでなの?」
なんで、か。なんでだろう。いつもなら、引いたんだろうか。シュナがいて、ユキがいて、ポックの毒もある。リュウドウがいたなら、リュウドウが決めれば良い。そうか。
「なんとなく、フィニッシャーじゃないのかなと」
カリュさんは、すっと息を吸い、やや緊張して、「カイ」と俺を見る。そして続ける。
「あんた、強いよ。初日にリラードとやったときも思ったし、今日のペンダグルスの左袈裟を切ったのも、あんなにうまくやるやつはプロでも多くない。もっと自信もて。倒せるときに倒しておかないと、後が詰まるしさ」
と勢いよく言ったかと思うと「と思う」とカリュさんは語尾を小さく伏し目になる。しかし、めちゃくちゃ嬉しい。
「はい、ありがとうございます!」
「そうだな。カイはもっと自信もってもいいな。戦闘中これだけスムーズに魔力を流せるってのは、日々の訓練の賜物だ」
とリラードさんはにっこり笑った。
「明日の方針だが、勇者組合に鳥は飛ばしたが、すぐに人員を確保できるとは思えない。明日も村長に鳥を飛ばし、こっちに来て話を伺う。森への探索は中止する」
「妥当だと思う」
「う、うん。私も」
と三人が俺を見る。
「は、はい、俺もっす」
「よし、今日は訓練はなしにして早めに寝よう。最初は、俺とカイが見張りにつく。異変はすぐに知らせること。何度も言うが、空ぶっても構わない。なんでも報告、な」
俺は玄関側を、リラードさんが裏口そばを見張ることになった。
玄関の隣にある窓から、外を見る。
ただただ暗い。異変があっても気づけるか。音とか、小さな光とかか。それにしても静かだな。虫の音も小さい。風がたまに窓を叩く。みんな、どうしているだろう。ポックは、まあなんやかんやタフなやつだ。シュナは大丈夫だろう。ユキが不安だが、確かケントさんのパーティに入るとか言ってたな。先生たちも不安だったんだろうな。リュウドウは、おやじさんと縁のある人のとこだとか。ロロは、この一年で随分強くなったし、トーリ先生の呪縛も解けてる。ロゼやリオナは、クルテも、アルトやアルテはーーーー
ふと壁にかかった時計を見る。
唖然とする。10分過ぎたぐらいである。おいおい、時の立ち方が授業のそれより遅い。そういえば、みんな当然のように時計を持ってたな。俺も買わないとな。頭を振り、再び窓の外を注視する。集中しろ。何が起きるか分からんのだぞ。
しかし、思ったよりも眠い。一日歩いたし、ペンダグルスとの一戦、みんないい人たちだけど、やっぱり気は使うし、疲れが、どっと。
「おい」
とこつかれる。
はっとなり、起き上がる。目を細めたカリュさんがいた。
「すみません!」
「疲れてたんだろ。むしろ、安心したよ」
カリュさんは、窓の外を見ながら言った。いつもは三つ編みをカチューシャにしているが、今は全ておろして、背中まで伸びている。
「カリュさんって、おいくつなんですか?」
「わ、私か。19だよ」
一つじゃなく二つ上か。学年的には一つかもしれない。
「早くにプロになったんですね」
「まあね。色々あったから」
とあくまで窓の外を見ながら答える。これ以上質問するのも野暮かなと「二時間後に、来ます」と言った。
「うん」とカリュさんは答えた。
寝室に行くと、リラードさんが雑魚寝していた。
「おうカイ、大丈夫だったか」
「すみません、寝てました」
「いいよいいよ、俺もちょっと寝ちゃってたし」
そうなんだ。
「サントラさんとリラードさんって、いつからの知り合いなですか?」
「サントラとは幼なじみなんだよ。サントラには兄貴と弟がいてさ、俺もよく遊んでもらってた。いつもひょこひょこついてきてたのに、勇者としてはあっちが随分優秀だったっていうね」
「そうなんですか」
「等級があるんだよ」
「ブロンズ、シルバー、ゴールドですよね」
「そうそう。仮免でブロンズなんでそこは置いといて。ジルバー、ゴールド、つまりSとGだな。この二つっつっても、実際はS2、S1、G2、G1の四つだな」
「レイ先生は、今回はG2以上のパーティに参加させてもらうようになってるって」
「そうだな。俺たちは、パーティとしてはG2。個人としてもあるんだよ、ランクが。俺はG2。カリュはS1。サントラはG1」
「サントラさん、すごすぎませんか?」
「あの年でG1はなかなかいないぜ。俺らの世代のヒーローだよ。ヒーラーで攻撃魔法も強力だからな。ちなみに、実はG1の上もある」
「そうなんですか!?」
「プラチナだ。Pだな。Pの人たちは、職業勇者やってれば、知らないやつはいない」
「そうえいば、カリュさんがまだ19歳だって」
「そうだよ。あいつ、16?17だっけか。そんぐらいにはライセンス持ってたぜ」
「すごいんですね」
「まあ、なんていうか、ちょっと事情が特別なんだよ。結構いいとこのお嬢さんなんだけどさ、レイ先生になんかで助けられたとかで、勇者になるなるって聞かなかったんだと。それに魔法も爆発だろ?周りも手をあましてさ、飛び級で学校に入れたんだよ。頭も良かったってのもあるがな」
「へえ、すごいっすね、本当」
「そうだよ、今はあれだが、最初はわがままだし大変だったんだぜ?でもサントラと妙に気があったっていうか、まあ俺も仕方ないじゃん?」
リラードさんも、こう見えて色々苦労してるんだな。
「そろそろ寝るか。カリュに切れられる」
「そうですね」
と床についた。




