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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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カイ、大丈夫じゃない。

 依頼主である初老の男は、村の村長であったらしく、なんとも申し訳なさそうに依頼の詳細を述べた。マロラス村の北にある森で、ペンダグルスの目撃情報が多発している、調査してほしい、とのことだった。詳細の聞き取りと書類のやり取りを終えると、村長は低姿勢のまま出ていった。 

 リラードさんが周辺のマップを取り出し、かき込んでいく。出現したペンダグルスの数と日時だ。結構村の近くでも目撃されている。調査範囲を円で囲む。期間は3日。範囲内のペンダグルスの殲滅も目的ではあるが、なによりなぜ出現しだしたかを調査しなければならない、とのことだった。


「出現の原因ですか?」


「そうだな、カイ。勇者組合の出しているモンスター域を見たことはあるか?」


「あ、授業で見たんですが、あまり覚えていなくて」


 と苦笑いで答える。

 リプキン先生の顔が思い出される。一年のとき地理学で見たんだが、全然覚えていない。


「いいんだいいんだ。今見ればいい」


 とリラードさんが世界地図を広げる。地域ごとに色分けされている。


「モンスターの出現情報をもとに、色分けしてある。真っ白な場所はもうずっと出現していない、いわゆる聖令都市だな。黄色は、11年前の『大いなる光』以降出現していない。オレンジは、この3年内に出現が見られない。赤は、この3年で出現が確認されているってな感じだ」


「この、黒い部分は」


「黒は、モンスター領域だ。アーズやグリムヒルデみたいな人型によって破壊され、もう人間が入れる感じじゃねえな」


 ポックの生まれたトネリコ連邦の西側が黒く塗られている。ロゼの故郷プリランテはこの辺か。やはり黒く塗られている。アーズに滅ぼされたとのことだった。しかし、それ以外にもいくつか黒く塗られている。黒から赤、そしてオレンジへと、グラデーションのように色が移っているところが多い。聖令都市のクノッテンで育ったからか、こんなにもモンスターが世界に存在していることに今更ながら驚く。


「マロラス村は、黄色なんですね」


「そうだな。赤の地域に近いが、『大いなる光』以降は出現してない。それと、マップの色の境目、特に赤から黄色に変わるラインには駐屯地が結構な数配置されてる。無人のとこもあるが、見張り役として持ち回りで常時駐屯させてるとこもあってな」


 ということは、今回のペンダグルスはその目をかいくぐってマロラス村付近まで来たということか。


「それで、調査が必要なんですね」


「侵入ルートまで調べたいな。早速調査に行くか」


 とリラードさんは立ち上がった。

 駐屯地を出て、マロラス村の東にある森へ向かう。道中「職業勇者って、嫌われてるんですか?」とリラードさんに訊ねた。


「そうだなあ、まちまちなんだけど、嫌ってる人もままいるって感じだな。40年前くらいか?勇者がライセンス化する前は無法なやつらが多かったらしく、かなり上の世代は毛嫌いしてる人いるな。あと、『モンスター大恐慌』のとき、勇者組合がライセンス取得のハードルをかなり下げたんだな。訓練所で一年、現任訓練で一年なんて長過ぎるってなことで結構簡単に取れるようにしちゃったんだよ。そりゃやばいやつも勇者になっちまって色々あった。この4、5年でライセンス取得条件がかなり見直されて、今はちゃんとした学校行かないといけないし、単位を取らないと受けれなくなってるだろ?」


「そうですね。リラードさんは、いつ取得されたんですか?」


「俺は6年前に取ったから、ぎり簡単に取れた世代なんだよな。ラッキーっちゃラッキー。てきとうに一ヶ月ぐらい講習と訓練受けて、2、3回現地訓練行って簡単なペーパー試験クリアしたら、はい取得って感じ」


「へー、めっちゃ楽だったんですね」


「そうなんだよ。でも勇者組合が後日、その時期にライセンスとったやつらは準仮免みたいな、仮免の一歩手前扱いにします、ってお触れををだしたんだよ!俺、3年前にまた3ヶ月講習と訓練受けて本試験も受けたんだぜ!試験会場なんて学生ばっかでもう浮いちゃって浮いちゃって」


「大変だったんっすね。サントラさんとカリュさんもですか?」


 隣で歩いていた二人を見る。

 サントラさんは、


「わ、私はたまたま再講習受けなくて済んで」

 

 と答えた。


「違うでしょ。トラちゃんは優秀だったから再講習受けなくて済んだだけ。リラードはダメダメだったから受けさせられたの」


 カリュさんのことばに、


「そ、そんなことないよ」


 と頬を染めるサントラさん。今更だが胸がでかい。


「リュウちゃんもすごいんだよ。サノーバル勇者学校の一期生で」


 サントラさんが嬉しそうに言った。カリュさんは、無言で頬を染める。サントラさんがリュウちゃんと呼んでも怒らないんだな。


「そうそう、爆弾娘っつって職業勇者の間でも有名で」


 と言いかけたリラードさんの頭をカリュさんが叩いた。

 爆弾娘?今は触れないでおこう。


「みなさんライセンスを取った時期が違うんですね」


「俺とサントラは同期だよ。カリュは二年差だから、取得は4年前だな」


 へー。サントラさんとリラードさんは23ぐらいか。カリュさんは21かな。カリュさんなんて同級生ぐらいに見えるけど。なんて考えていると、森についた。

 リラードさんが地図を広げる。


「今日はこの範囲だな。3日しかねえから、二手に分かれるぞ。俺とサントラ、カイとカ」


 言い終わる前に、カリュさんがリラードさんを叩き言う。


「き、聞いてた組み分けと違うぞ」


「冗談だ冗談。つうか人見知りしすぎだろ!ちょっとは話せよ!カイ、めっちゃいいやつじゃねえか!年も変わらねえだろ!せっかくきてもらってんだぞばーか」


「う、うるさああああい!私が一つお姉さんじゃあああ!」


 とカリュさんがリラードさんを再び叩いた。


「なんだ、ちゃんとカイの情報入ってたのか」


 と急に感心するリラードさん。顔を赤らめ、そっぽを向くカリュさん。

 というか、一つ違い?


「オッケー、サントラ、地図と方位磁石、時計は大丈夫だな?」


「あるよ、りっちゃん」


 りっちゃん?なんだ、ここにきて色々個人的な質問したいんだが。


「カイ、サントラと回ってくれ。学校での成績、戦闘スタイル、マラキマノーの一件も聞いている。さっきの打ち合いで直にカイの実力も感じ取れた。もしペンダグルスが現れたら、いつも通り動けば良い。カイにはそれだけの準備ができている」


「は、はい!ありがとうございます!」

 

 めっちゃ嬉しい。


「二時間後に点pの地点集合だ。回路は地図に示してある。ペンダグルスの足跡、動物の死体、なにか痕跡があればマップに書いておいてくれ。遭遇した場合は、サントラ、いつもの合図で」


 とリラードさんは、渋い顔のかリュさんを連れ森へ入っていった。


「い、いこっか、カイくん」


「はい!」

 

 サントラさんと森に入っていく。足跡、動物の死体、なにか痕跡。集中しろ、集中しろ。しかし、隣を歩くサントラさんの胸が、でかい。妄念を払うように頭を振る。


「大丈夫?カイくん」


 と下からサントラさんが俺の顔を覗き込む。

 大きな瞳と目が合う。


「だ、大丈夫っす」 


 大丈夫じゃない。

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