グラス先生、謝る。
「入ってくれ」
グラス先生に言われ、ポック、シュナ、リュウドウ、俺は、部屋に入っていく。いつものとんがり帽子、パンツスーツに黒マントのグラス先生がいた。目の下の隈が目立つ。「かけてくれ」と言われ、席に座る。
「すまない、今回の一件、お前たちに危険が及んだ。ムツキのことも聞いている。よく戦ってくれた」
とグラス先生は頭を下げた。
「ロロとユキは大丈夫なのかよ?」
ポックが問うた。マラキマノーの一件から2日経っている。ロロとユキは王立病院に搬送された。俺たちは寮で待機を命じられ、未だ情報をもらえていない。
「無事だ。来週にも復帰できるだろう。ロロのメンタルが気がかりだが」
とグラス先生は声を落とした。さらに続ける。
「私には説明責任がある。今回何が起こり、どうなったのか。当事者であるお前たちにその説明を施さなければいけないし、そして、お前たちも知る必要がある、と判断した」とグラス先生は、事のあらましを話しはじめた。
いわく、トーリはロロを使い、3つのグループにわけて学校を攻撃した。ペンダグルスとリピッドデッドの群れを寮へ、暴走させたネギリネをヤング先生宅へ、そして、マラキマノーを俺たちへ。その赤い瘴気から、背後にいるのは。
「人型モンスター、アーズだと考えている」
とグラス先生は言いきった。
あの赤い瘴気は、バゴンバリオでも見た。人を操る人型モンスター、アーズ。
「アーズの魔法は操るだけでなく、その個体の魔力を無理矢理増幅させる。その結果、ロロは大量のモンスターを召還させられることとなった、と考えている。そして、ロロを操るために、トーリが長い時間かけてアーズの魔法をロロに注ぎ込んでいたと」
「トーリも瘴気を発していたぜ」
「自発的にアーズのもとにくだったか、トーリ自身操られているかはさだかではない。ただ、トーリが一年以上前からアーズの手先であったことはほぼ間違いない。モンスター研究所の見解は、知らなかったの一点張りだ。不可解にも、事件の三日前にトーリは研究所を自ら辞めている。それもふまえて、モンスター研究所には責任はない、と主張している。もちろん、身近にいながらトーリの正体を見抜けなかった我々学校側の落ち度も大きい」
「俺たちを狙ったってのはなんでだ?」
ポックの問いに、グラス先生はちらりと俺を見て、言う。
「数多の星流れ落ちるとき、勇者生まるる」
「トーリもんなこと言ってたな」
「これは、グウォールの残した予言書の最後のことばだ。この情報はモンスター側までも行き着いていることが、今回の事件で明らかになった。つまり、モンスター側はこの情報を得て、流星群、お前たちのなかに魔王を倒す勇者が生まれると考えたのだ。トーリは、学校の防衛が薄くなるこのときを狙ったのだろう。今後、外部からの侵入を防ぐ手だては講じる」
柱時計は、マイペースにちくたくと動いている。
「つうことは、俺たちはカゴの中の鳥か?仮免も近いだろうよ」
「ポック、それについては色んな意見がでたが、仮免は変わらず受けてもらう。流星群を過保護に守る、という意見もあったが、それでは勇者として成長しないのではないか、という反対意見も出た。それに、流星群ではあっても、人生はお前たちのものだ。学校での安全は徹底するが、仮免許は予定通り行うし、勇者ライセンス取得、学校卒業後に、流星群だからと過保護に扱われるということはない。これにはストゥ様が強く意見をだされた」
フライ婆か。地上に降りてたんだな。
「ヤング先生は、どうして狙われたんです?」
と俺は問うた。
「ヤング先生に関しては、まだお前たちに伝えることはできない。しかし必ず、伝える日が来るということだけは知っていてほしい」
他に質問はないか、とグラス先生は問い、俺たちの無言を確認すると、ふう、と息をつき言う。
「トーリの、トーリの詳しい情報が欲しい。魔法やその様子などの、だ」
「魔法も知らねえで雇ってたのか?」
「それは、こちらの不手際だ。すまなかった。トーリに関しては、研究所の推薦と、履歴や研究実績の輝かしさが採用において大きな比重を占めてしまっていた。こちらの情報では、身体強化魔法のみとなっていたが」
「視界から消えていたが、あれはクリエみたいな擬態か?」
と俺はポックを見た。アマコとシャムとパーティを組んでいるクリエは、擬態魔法で背景に紛れることができる。
「いや、トーリのあれは透明化だな」
違いがわからん。リュウドウとシュナも似たような表情をしていたのだろう。ポックが飽きれたように話しだす。
「ったく。擬態は背景にとけ込む。擬態している本人が止まっているなら、五感強化で視力を上げても見破るのは無理だ。ただ、動くとわかる。対して透明化は、動いていても消えた状態を維持できる。ただ、よーく注意してみるとわかる。五感強化したらまあわかる。あとは、透明化にはある程度の光が必要だ。影のなかや、暗い場所だと使えない。擬態はどこでも使える」
そんな違いがあったんだな。
「透明化か。その応用で普段は瘴気を隠していたのかもしれないな」
とグラス先生はなにやらメモを取った。
「あと、ロロやマラキマノー、他のモンスターを操ってたぜ。まあ、アーズの力だろうけどよ。マラキマノーは途中から暴走してたけどな。他には、剣を使ってた、ぐらいだ」
ポックが言いきった。
「そうか。いや、有益な情報だ。ありがとう」
「ロロの、ロロのところへは行ってもいいのか?」
リュウドウが初めて口を開いた。
「ああ、いいぞ」
「ユキのところへも?」
今度はシュナが問うた。
「ああ。喜ぶだろう。私からも頼む。行ってやってくれ」
グラス先生は、ようやくほっと小さく笑った。




