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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ムツキ、400年ぶりに食す。

 マラキマノーがゆっくりと倒れて行く。

 森全体が揺れる。

 現れた山間から、夕日が落ちかけている。

 終った。

 ユキに憑依したムツキは、荒い息で俯いている。ヒールをかけてやらないと。俺はムツキの方へ向かうため、起き上がろうと地面に手をついた。

 微かに音がした。リュウドウかシュナか、とそちらを見る。ユキに憑依したムツキのほう。しかし、だれもいない。小さく風を切る音。きらりと、薄い夕日に剣が光る。


「ムツキ、トーリがいるぞ!」


 俺の声に、ムツキははっと顔を上げる。


「お前がいなければ!」


 とトーリの姿が夕日のもとにありありと現れる。

 くそ、間に合わない。

 そのとき、ユキの体ががくりと落ちると、ムツキがユキから抜け出るように目の前に立った。トーリの剣が、ムツキに刺さる。いや、しかしムツキは幽霊だ。ムツキの体をすり抜け、剣がユキに届くかと思われた。が、剣はムツキの体を貫通したところで止まった。

 ムツキが、幽霊体を実体化させたのだ。


「トーリ!」


 とポックが矢を放つ。

 矢はトーリの右腕に刺さる。「ぐはあ」とトーリが悲鳴をあげ、再び姿が消える。消えた。いや、近くにいるはずだ。


「カイ、上!」


 シュナの声が背中から。

 上を見上げる。リピッドデッドの群れ。一体が急降下してくる。なんとか倒れるように避ける。

 足音が轟く。荒れた地をペンダグルスが突進してくる。くそ、体が思うように動かない。


「うおおおおおお!」


 リュウドウが、ペンダグルスの側面から斬りかかる。ペンダグルスはくるりと向きを変えると、リュウドウを正面にし右腕を伸ばす。そのとき、シュナの放ったチャクラムがペンダグルスの右腕を打った。微かに反応の鈍った右腕を避け、リュウドウはペンダグルスの左袈裟を一刀のもとに振り下ろした。

 夕日の消えた上空から、二体目、三体目のリピッドデッドの影が急降下してくる。数が多すぎる。

 そのとき、強烈な矢がリピッドデッドを突刺した。この矢は。


「すまない、遅くなった」


 月明かりのもと、レイ先生が立っていた。


「ムツキ、大丈夫か!?」


 ぐったりと倒れるムツキに、俺は駆け寄る。


「ええ、ちょっと、無理をしすぎましたかね」


 消え入るような声。ヒールをかけるが、手応えがない。そもそも幽霊にヒールが効くのか。


「ヒールはユキとロロさんに。しかし、死というのは、一度経験していても、辛いものですね」


「何言ってんだ馬鹿、ヒールすりゃまだ。饅頭もくってねえだろ!」


「カイさん、白雪饅頭はもう、関係ないのです。魔力がつきれば、いずれにせよ消えるときがきたのです。それが少し早まっただけのこと」


 ムツキの体が透けていく。


「おい待て、ユキは、ユキに何も言わずに、おい!しっかりしろ!」


「ユキの精神は、まだまだ不安定です。今、大きな動揺を与えると彼女の成長が0になってしまう」


 ムツキはおもむろに、倒れているユキのおでこに触れる。小さな風が地面から沸く。白い光がぶわりと辺りを包む。ムツキはユキに何をした。いや、なんだこの懐かしい感覚は。俺は、知っている。この光を。違う。今はそんなフラッシュバックはどうでもいい。

 ムツキは、満足したように微笑む。

 ムツキの体が、さらに透けていく。


「おい」


 ポックはムツキに何かを投げた。

 ムツキはそれを受け取る。


「つぶれてますね」


「ポケットに入ってたんだ、我慢しろ」


 ムツキは、ポックから受け取ったその袋を開け、むしゃりと食べた。


「ふむ」


「どうだ、400年ぶりだろう」


「まあ、こんなもんでしたか」


「嘘でもうまいっつっとけ、馬鹿」


「ふふふ、おいしかったですよ。みなさん、本当に楽しかった。ありがとう」


 とムツキはユキの方へとしゃがみ込んだ。ユキのおでこをさすり、優しいまなざしでユキを見た。まるで我が子の寝顔を慈しむように。


「そして、ユキを、頼みます」


 荒れ果てた大地に、月明かりが眩しかった。その下には、ムツキはもういなかった。


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