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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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トーリ先生、喜々として叫ぶ。

「ロロを放せ」


 リュウドウが冷たく言い放った。


「君らしくない。愚問ですね、リュウドウくん」


「ロロは、お前を慕っていた」


「ラッキーでしたね。慕ってきたのがただの雑魚かと思えば、召還士の一族だった。これも天啓なのでしょうね」 


「落ち着け、リュウドウ」


 とチョウデッカイケンを強く握るリュウドウをいさめる。


「何が狙いだ、トーリ」


 ポックが二の矢をつがえながら訊ねた。


「数多の星流れ落ちるとき、勇者生まるる」


 トーリ先生は、言いながらに俺の方をちらりと見た。さらに続ける。


「流星群。君たちのことですよ。その中でも世代トップのリュウドウくん、シュナさん。さらに10年前、あのお方のそばにいたであろうカイくん、そして、あのトネリコの惨劇唯一の生き残り、ポックくん。そう、君たちですよ。君たちが狙いだが、まんまと出てきてくれた」


 ポックが弓を引く。トーリ先生は、ロロを盾に後ろへ回る。


「トーリさん、ユキのことをお忘れですか?」


 ムツキがおもむろに口を開いた。


「ユキさんは、そうですね。落ちこぼれはリストには入っていませんね」


 トーリ先生のことばに、ユキは唇を噛んで俯く。


「あなたに誤算があるとしたら、この場にユキがいることです。ユキは、はるかに強大な力をもっている」


 ムツキは、そう言うとユキの手をさらに強く握った。


「今日はよくしゃべりますね、リュウドウくんもムツキくんも」


「ムツキ、さん、と呼んでいただいても?」


「なぜですか、ムツキくん」


「私が400歳年上で、100年に一人の逸材だからです」


「面白い冗談ですね」とトーリ先生は、ロロの背中に手をやる。赤い瘴気が立ち上る。魔力が立ちこめている。虚ろな目で地面に手をやるロロ。

 やばい、何をする気だ。止めないと。

 臨戦態勢のガルイーガが並んでいる。むやみに突っ込めば餌食になるだけだ。

 突破口は、でかいのがいい。


「ユキ、いけるか!?」


 おれのことばに、はっと顔を上げるユキ。震えは止まっている。が、悪いときのユキだ。自信のない、目に涙のためた。


「行けます。そうですね、ユキ」


「ゆ、ユキは、でも、ムツキ」


「信じなさい。あなたのしてきたことを。そして、私を」


 とムツキはユキから手を離した。

 ユキが、ムツキを見る。そこにはいつものなよっとしたムツキはいない。自信に満ちた、力強い目をしている。そして、ムツキはもうユキを見てはいない。ガルイーガと、その奥にいるトーリ先生とロロを見ている。


「ユキ、剣を取るのです。敵をみるのです。振り返らなくても、後ろにはいつも私がいます」


 ユキは、鼻から強く息をだし、力強く短剣を抜くと


「カイ、いつでも行けるのです!」


 と言った。


「よし、やつらを二つに割れ!」


「はいなのです!」


 と答え『アイス』とユキは唱えた。短剣の先から、巨大な氷が放たれる。

 巨大な氷を境に、ガルイーガが二手に分かれた。

 片方に、全員で攻撃を加える。


「上出来だ、ユキ!」


 とポックが体勢の崩したガルイーガに弓を射た。

 俺は近くのガルイーガの体を切り下げる。うめき声をあげ倒れるガルイーガ。シュナとリュウドウも同様に一体ずつ倒した。これで残りは反対側の3体。シュナが素早く反対側へ周り、一体に切り掛かる。俺もシュナに続いて、剣を振る。ポックは、木の上から弓を放つ。あっというまに3体が倒れる。リュウドウはーー


「うおおおおおおお!」


 とユキの氷を越え、トーリ先生に切り掛かる。


「さすが、流星群ですね」


 とトーリ先生は、ロロの背中に当てていた手を離し、不敵に笑った。魔力が一気に上昇する。

 何か来る。


「リュウドウ、ひけ!」


 ロロが地面に手をやる。なにかを召還するときの、いつものロロの動作だ。

 凄まじい地響きとともに、巨大な影が現れる。

 リュウドウが強い力で跳ね返される。


「なんだ」


 と木の上に陣取っていたポックが上を見上げる。

 森のなかから頭一つ飛び出た巨大な影。赤黒い体からは、赤い瘴気が発せられている。


「さあ暴れろ!マラキマノー!」


 トーリ先生が喜々として叫んだ。

 ごりごりと硬い皮膚。口の端から伸びた二本の牙。しかし、片方は途中で折れている。太く長い鼻を振り回せば、モンスター学いわく、氷塊も一撃で壊す程とあった。大昔に、北方の街という街を壊滅させた繁殖しないモンスター、マラキマノー。つまり、原種。なんて悠長に思い出してる暇はねえ。

 俺は、ユキの氷を超え、マラキマノーの、大木よりもぶっとい足を避け、倒れているロロのもとへ向かう。

 あと少しでロロのところだ。だが、さっきまでいたトーリ先生がいない。どこだ。


「カイ、左だ!」


 ポックが叫んだ。

ーーー左。いや、そこには誰もいない。いや、違う。足下から、土を踏みしめる音。微かに風を切る音。くる。急いで盾を構えると、寸でのところで剣とぶつかった。剣を持ったトーリ先生が、夕日の下に姿を表す。


「よくわかりましたね」


「ロロは、返してもらいます」


「もう使い物になりませんね、彼は」


 とトーリは、足下のロロを蹴った。

 盾で剣をはじき、棒手裏剣を投げる。棒手裏剣はトーリの頬をかすめるが、避けられる。リュウドウが追って切り掛かるが、トーリはあざ笑うかのごとく後ろへ引いていく。


「深追いするな、リュウドウ!ロロつれて逃げろ!」


 ポックが叫んだ。


「マラキマノー!」


 とトーリが叫んだ。

 マラキマノーは、充血した目をおもむろに下にやると、その巨大な鼻を横なぎに払った。

 辺りの木々がばたばたと倒れていく。まるでか細い枝であったかのように。辺りにあったはずの森が、高木が倒され、空がデカデカとあった。みんなは、どうなった。木々が乱雑に倒れている。なんだ、これは。マラキマノーの足下にいた俺とリュウドウは、呆然と立ち尽くす。そのぶっとい足が、のそりと上がる。子犬。そうだ。マラキマノーからすれば、俺たちは子犬だ。子犬が足下でうろちょろしている。そんな感覚なのかもしれない。しかし、子犬はかわいいもんで踏みつけようなんて思わないが、マラキマノーからは明確な殺意が読み取れた。


−−−踏まれる。動け。


 なんとか避けるが、マラキマノーの踏みおろした振動で地面が大きく揺れる。体勢が崩れる。揺れが波打って、少し離れたところで地面が割れ、木々がさらにばたばたと倒れる。土地が崩壊していく。森が、あっさりとなくなっていく。


 モンスター。原種。

 再び、マラキマノーの巨大な足が上がる。

 俺は、勇者じゃないんだ。

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