ポック、弓を射て、敵現る。
ガルイーガが4体。しかし、先ほどとは打って変わって突進してくる様子はない。
「ポック、ロロはさっきのところにいたのか?」
俺の問いに、
「いた。ロロと、いや、ロロだけのはずなんだが」
とポックは曖昧に答えた。ポックらしくなち答えであった。さらに俺は問う。
「この戦力で、いけると思うか?」
「・・・・わかんねえ」
先生たちを行かせたのは失敗か?ポックの自信のなさに、今更に不安になる。リュウドウ、シュナ、ポックがいれば、ガルイーガだけならそんなに心配はない戦力が整っているが。
「行くぞ」
とリュウドウは先陣を切って走り出した。
「チッ」と舌打ちし、ポックが続く。
ガルイーガは、攻撃してこない。むしろ誘うように引いていく。胸騒ぎがする。
「ユ、ユキも、行くのです!」
振り返ると、夕日に照らされた白い髪の毛をふわりと揺らし、ユキとムツキが走って来た。
「お前は待ってろ、邪魔になるだけだ!」
ポックは苛立ったように言った。
「ユキはみなさんと」
ムツキのことばを、ユキの大きな声がかき消す。
「ゆ、ユキも、みんなと同じ仲間なのです!ロロを、助けに行きたいのです!」
ユキのことばに、全員が足を止める。
重い口を俺は開く。
「ポック、言い過ぎだ」
「、、、悪い。悪かった」
とポックは走り出した。
引いていくガルイーガを追う。
不安が消えない。俺の判断は正しかったのか?これでロロを助けられなかったら。
リュウドウは、焦っている。ポックは、自分のミスを責めてか、いつもの冷静さがない。
そうだ、俺たちは、まだまだ未熟なんだ。
シュナと目が合う。いや、目を合わせてくれた。うん、と一度頷く。
空気に呑まれるな。落ち着け。
小川を超える。
木々の開けた場所。どこで増えたのか、7体になったガルイーガが、夕日を背にたつ人影を守るように並んでいる。その人影の体から、赤い瘴気が発せられている。その人影を、俺たちは良く知っている。この一年と4ヶ月間ともに生活し、ともに訓練し、ともに勉強してきた仲間だった。
「ロロ!」
とリュウドウが血相を変え走り出す。
俺は足をしれっと伸ばす。どすんという音とともに、リュウドウは面白いようにころけた。
リュウドウがこけたのを合図に、先ほどとは一転、ガルイーガが突進してくる。リュウドウをなんとか起こし、ガルイーガを避ける。
ユキのもとへ一体のガルイーガが突進を仕掛ける。距離がある。訓練でも何度も対峙したガルイーガ。避けられる。いや、ガルイーガは、本能的に獲物を察したのかもしれない。
「ユキ!避けろ!」
ポックが叫んだ。
ユキの体は硬直したように動かない。声もだせないのか、ただただ固まっている。
棒手裏剣を投げる。胴体に刺さるが、ガルイーガの突進スピードは変わらない。
「おりゃああああああ!」
シュナが、ガルイーガの横っ腹に思いっきり大盾をぶち当てた。ガルイーガの体がよれる。
「ユキ!」
とムツキが手を引っ張り、なんとか突進を回避する。ポックが短剣を投げる。ガルイーガは、器用に止まると、後ろへ引いていく。
「ユキ、しっかりしやがれ!お前らも、遊びじゃねえんだぞ!」
ポックが叫んだ。
「土を舐めて落ち着いた。すまん」
リュウドウは、土で茶色くなったでこを上げた。
ユキの方は、まだ硬直している。そうだ、ユキは俺たちとは違い、本物のモンスターを見るのは初めてなんだ。
ムツキと目が合う。
「ユキ、大丈夫です。深呼吸して」
とムツキは、ユキの手を握る。
「ユキは私がフォローする。カイ」
とシュナが俺を見た。
ガルイーガが7体。その向こうに様子のおかしいロロ。しかし、本当にそれだけか。ん?なんだ、ロロのすぐそばで、夕日の光が揺れた。
「ポック、お前の不安の正体は、わかったか!?」
「わかんねえ」
ポックの第六感は、冴える。何かある。
「ポック、よく見ろ。お前が何かあると思ったのなら、何かあるはずだ」
ポックは、目を少し細める。口が小さく開いている。
「そこか!?」
とポックは弓を射た。ロロのすぐ隣を。
何もいなかったはずのその空間から、ばさりと音がすると、黒いフードの男が現れた。不気味に笑う、赤い瘴気の漂う男。筋の通った鼻。白いはずの歯は、赤みがかかっている。
「トーリ先生、なんで」
なんだ、心にぽっかりと穴があく。
トーリ先生は、フードを取ると、笑った。いつものような爽やかさはなく、少し下がった目尻が、不気味なほどにんまりと笑っていた。




