表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
68/259

リュウドウ、珍しく急ぐ。

「リプカン先生、どこがでるのか教えてくださいなのです」


「ユキくん、それはできぬ相談だ。精進したまえ」


 とリプカン先生は毅然と答えた。

 選択歴史学の教室は、いつもに輪をかけてがらんとしていた。チョウさんとアマコが現地訓練へ行っているからだ。テストも近いし二人もいないしということで、自由にテスト勉強をしている。

 窓から小さく風が吹いた。

 中庭を見下ろすと、照りつける太陽の下で、ヤング先生がガーデニングをしている。麦わら帽子、首にかけたタオル、よれよれのTシャツ。本当、家だな。

 チャイムがなると、リプカン先生が授業の終わりを告げ、教室を出て行く。少し眠そうであった。先生方は今、非常に急がしそうである。実地訓練の引率にタケミ先生とケイ先生、リプキン先生が行っており、グラス先生は色々とお偉いさんに呼ばれてか学校をあけることが多い。一年生の授業にはケントさんが一時的に戻って来ている。他にも、テスト制作もそうだが、実地訓練の準備、仮免現地実践へ向けての打ち合わせなどなど。


「カイさん、お願いがあります」


「どうした、ムツキ」


 このところちょっとセンチな雰囲気だったムツキだが、今日は元気そうである。


「ユキの勉強を見て上げてください」


「いや、俺の学力やべえぞ」


 ムツキが口をあんぐり開ける。


「そんなに頭良さそうに見えた?」


「逆に、その感じで頭が悪いとは」


 すみませんね、ええ。ロゼはいねえな。シュナはそんなに勉強できねえし。ロロはいるな。ポックとロロに頼むか。


ーーーー


「だーかーら、年代がずれてんだって。時系列で覚えろ、まず。レッドローズの戦いのあとにモンスター発生だろ。それでグウォールの有志参集の発布だ。バルサルカルの大反乱に有志参集は関係ねえよ」


 とポックに怒られているのは、俺である。


「しっかりするのですカイ、わはは」


 とユキも上機嫌。


「細かくてわかりずらいんだよこの辺は」


 俺の方がユキよりもできが悪かった。しかも、二年になってからの歴史学はただ暗記すればいいというものではなくなった。記述式が多いし、因果関係が問われたりするから前後の時代背景も理解しておかなくてはならない。まあ、俺は暗記の時点でつまずいているんだが。

 一息ついて、ノートから顔を上げ、鼻から大きく空気を吸い込む。いつもと変わらない匂い。カリカリと書き物の音だけが響く。かと思いきや、廊下からどたどたと足音が。でかい図体の男が、いつもと違う調子で現れた。


「どうした、リュウドウ」


「ろ、ロロを、見なかったか」


 とリュウドウは息を整える。


「いや、見てないぞ」


 テス勉に誘おうとしたが、見当たらなくて諦めたのだ。


「デメガマに餌やりに行ってんじゃねえか」


 ポックが言った。


「今日の分の蜜はまだ残っている」


 とリュウドウは答えた。最近では、ロロが一人で行くことも多々ある。


「どうしたんだリュウドウ、この時間ならそんなに焦らなくてもいいだろう」


「ロロの目だ。昼の別れ際、目が充血していた」


「寝不足だっただけじゃないか?テスト勉強で」


「カイ、俺も、その時はそう思った。ただ、嫌な予感がする。ロロがデメガマの蜜を忘れるはずはない。行かないなら俺に一声かけてくるはずだ。それに、今思えば、あの目は、バゴンバリオのやつに似ていた」


 リュウドウが戦闘面以外でこんなに長文を喋るとは。と感動している場合ではない。目の充血。これはモンスターの特徴の一つだが。バゴンバリオのやつ、というのはクルテの友人で、リオナに恋していた変態ルゴスのことだろう。あいつは確か赤い瘴気を帯びてはいたが、目まで充血していたか。


「な、中庭へ向かうのを見ましたが」


「いつだ、ムツキ?」


 ポックの問いに「テスト勉強をはじめる前なので、二時間前くらいでしょうか」とムツキが答えた。

 二時間も中庭から帰って来ていないのか? 

 ふと外を見る。蒼蒼としたヴェリュデュール自然公園が、オレンジの光に包まれている。午前中にヤング先生がガーデニングしていた中庭。その先には、「学習エリア」があり、さらに向こうには、完全立入禁止の「危険エリア」があった。


「デメガマの方に行ってるだけだと思いたいが、とにかく探しにいくか」


 ポックが立ち上がった。


「ゆ、ユキもいくのです!」


「いや、ユキとムツキは残ってくれ。あまりに遅かったら、職員室にいるレイ先生に知らせてほしい」


 と俺は、ユキ、というよりムツキの方を見た。


「は、はいなのです」


 とユキは答え、ムツキは神妙に頷いた。

 鳥の鳴き声がした。

 再び窓から外を覗く。

 雲は悠々と動いているが、鳥の影はなかった。

 遥か向こうの山間に、太陽はあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ