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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ユキ、ロゼに教わる。

 日曜日の朝の闘技場。一年前は俺とシュナだけだったが、最近では結構な数の生徒が自主訓練に励んでいる。


「ユキは、本当に喜んでいたんです。パーティ瓦解、そして誰にも誘われない中、みなさんに誘われて。あの子なりに、皆さんの足を引っ張るまいと、頑張っているんです」


 ムツキの昨日のことばを思い出す。誘われて、というのは少し間違いがあるのだが。しかし、ユキが必死に頑張っているのはわかる。なんとかユキの力になりたい。


「ロゼ、訊きたいことがあるんだが」


 素振りを一段落終えたロゼに、声をかける。


「どうしたの、カイ」


「火の魔法を使うときに剣を振るよな?あれなんでだ?」


「魔力を放出するイメージがしやすいのよ。例えば十字に振ってその形の炎を出す、とか。慣れてくると魔力量のコントロールも剣を振る感覚で調整できるようになるわ。まあ、手でもできないことはないけどね。ユキに試すつもり?」


「察しがいいな。一緒に来てくんねえか?」


「しょうがないわね」


 と言いながら、ロゼは鼻をふふんと鳴らした。

 闘技場の隅で魔力コントロールの特訓に励むユキのもとへ向かう。そばにはムツキが立っている。しかし、昨日の今日なので、ユキのやつまだ落ち込んでるかもしれない。


「ユキ、大丈夫か?」


 とやや控えめに声をかける。

 ユキは振り返らない。よく見ると、親指大の氷がいくつもあった。ユキの周りの地面だけがしめってもいる。最小の魔力放出を幾度も行うのが魔力コントロールの基礎訓練だが、いったい何時間やってんだ。


「ユキ、カイさんとロゼさんが来てくれましたよ」


「へ、あ、ああ、どうしたのです」


「すまんな、訓練中に」


 落ち込んでいる様子はない。前ほど引きずらなくなったな。


「いいえ、いいのです。昨日は、ユキが邪魔をしたのです」


 とユキは額の汗を拭った。

 ロゼが、しげしげとユキが作った親指大の氷を見て言う。


「ユキ、あなた、魔力コントロールはかなりのものよ。普段はショートソードを装備していたわね。それを持ってみなさい」


「剣の修行、、、なのですか」


 と少ししゅんとするユキ。ユキは、本当に剣がからっきしだ。こればっかりはもう天性の才能のなさとしか言い用がない。


「大丈夫、魔法よ。剣を持って、そこに魔法を纏わせる。これは魔法演習でもやってるでしょ?」


「それなら、できるのです」


 とユキはショートソードを持ち、剣に氷を纏わせる。悪くない。


「その氷を、剣の延長で真っすぐ伸ばすイメージでその壁にぶつけなさい」


「は、はいなのです!」


 とユキは突き出したショートソードの剣先からさらに氷を伸ばす。


「で、できたのです!」


「その感覚で、さらに距離を伸ばしてみましょう。今度はあっちに向けて氷を伸ばしてみて」


 と人のいないスペースをロゼが指差す。

 ユキは、指示通りに剣を突き出し、氷を伸ばしていく。順調に伸びていた氷だが、「あ、あ、わあ」とユキの声とともに途端に横に暴発する。


「うわっと、おい、あぶねえじゃねえか!」


 氷にぶつかりそうになったシャムが、声を荒げた。


「ご、ごめんなさいなのです」


「ううん、いいのよユキ」


「いや、良くねえだろ!」


「うるさいシャム!いいのよユキ。少しづつ訓練で距離を伸ばしていけばいい。あともう一つ。完全な射出ね」


 とロゼは壁に向かって剣を振る。小さな炎が壁にぶつかる。


「剣を振って魔力を飛ばすイメージで」


「は、はいなのです!」


 とユキはショートソードを振る。一度、二度、三度。氷がでない。にしても、ショートソードの振り方がぎこちないというか、まあこれでも一年前よりは良くなっているが。


「あ、あれ、ダメなのです」


「うーん」とロゼも頭を悩ませる。俺は、わかんない。


「もう少し小振な剣に変えてみても面白いかものう」


 と観客席から声が。見上げると、にこにこと笑った白髪まじりの丸めがねのおじさん。つまり我がクラスの担任にして学校長にして庭師にして学校の管理人にしてさらにはカウンセラーも兼任するヤング先生なのだが。にしてもこの人はいつも学校の敷地内にいるな。


「なるほど。そうですね。カイ、持ってる?」


 ロゼは何か理解したようである。


「俺持ってねえぞ」


「俺のかしてやるよ」


 いつのまにかいたポックが、腰の短剣を一本抜いた。ちなみにポックは常に二本持っている。シュナもいつのまにかそばにいる。


「あああ、ありがとうなのです、ポック!」


「貸すだけだぞ!なんか勘違いしてねえか!」


「やってみるのです!」


 とユキは短剣を振った。どでかい氷が壁をえぐる。


「お、おい、最小でやれ馬鹿」


「わかったのです!」


 と再び剣を振る。小さな氷が壁にこつりと当たる。


「やった、やったのです!」


「魔力コントロールの基礎はできてるから、あとは氷を伸ばす感覚と射出の感覚を覚えれば、ある程度まではすぐにいけると思うよ」


 とロゼはにっこり笑った。


「そうと決まれば、特訓なのです!」


「ユキ、中庭でしよう!ユキにはここは狭すぎる!」


 シュナがユキの手を取った。


「はいなのです!」


 と二人は駆けていく。

 ムツキは、優しいまなざしで二人を見送った。

 闘技場には素振りの音や生徒たちのかけ声が響いている。

 ムツキは、しばらくの間、ユキの出ていった闘技場の扉を見ていた。



ーーーーー

「やった、やったね、ユキ!」


 シュナがユキのほうへと駆け寄る。


「まあ、よくなってってんじゃねえの」


 とポックは斜に構えて褒める。

 ロゼに教えてもらってから何度目かの演習で、土ペンダグルス二体の破壊に成功した。ユキの魔法コントロールは格段によくなり、連携も日に日に洗練されて来たように思う。ひとえにユキの努力といっても過言ではない。


「よかったぞ。特にユキ、この数ヶ月で一番伸びたんじゃないか」


 レイ先生がにっこりと笑った。厳しいところもあるが、グラス先生よりも褒めてくれることが多い気がする。


「は、はいなのです!」


 とユキが答えた。

 チャイムが鳴った。レイ先生が生徒を集める。


「きたる8月の仮免現地実践に向けて、本校では7月1日より3泊4日の現地訓練を行う。現地訓練と言っても、大層なことをするつもりはない。テント泊、食料調達など、その辺りの基礎的なサバイバル経験を積んでもらう。パーティ毎の行動となる。全員一気にはいけないので、前半組と後半組にわける。プリントにあらましが書いてあるので、よく読んでおくように」


 プリントが配られる。現地訓練の組み分けと予定表が書かれている。


「では、解散」


 レイ先生が言うと、生徒たちが散開していく。


「俺たちは後半組か」


「それ終ったらすぐにテストもあるぜ」


 とポックが頭を掻いた。

 魔法学とモンスター学と、選択科目の歴史学である。そういえば、この間トーリ先生が夜遅く学校を出るのを見たが、この時期というのはやはり先生たちも忙しいのか。講師といえども。


「グラスのやつ、最近いねえな」


「色々政府関係とか、上からの呼び出しが多いらしいよ」


 とロロが背後から現れた。


「校長がでりゃいいのに。つうかよく知ってんなロロ」


 ポックの言う校長とはヤング先生のことだが、本当にそう思う。


「トーリ先生が言ってたんだ。グラス先生、時々モンスター研究所からの呼び出しも受けてるみたいだよ」


「大変だなあいつ」


 親身になっているのか人ごとなのか、ポックは遠い目で言った。しかし、いろいろ上に立って何かをするってのは本当に大変なんだな。

 闘技場を出ると、夕日が校舎を照らしていた。日中は半袖でいいんだが、時折薄手が一枚ほしくなる今日この頃である。

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