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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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カイ、あまり考えずにことを進める。

 2限目、大講義室に2年生全員が集まった。

 グラス先生が話し始める。

「今日は特別に勇者組合よりアベルさんに来ていただいた。勇者組合と職業勇者について説明していただく。では、アベルさん、お願いします」


 おしゃれに髪の毛をパーマさせた、スーツ姿の男が登壇する。


「ご紹介に預かりました、勇者組合のアベルです。未来の勇者のみなさん、日々の研鑽の合間を縫ってお時間を作っていただきありがとうございます。モンスターを、果てに魔王を退治し人々を助けるため、未知の植物や古代の遺跡調査のために禁止区域へ入るため、お金のため、などなど、一口に職業勇者を目指すといってもそれぞれ色んな思いがあるでしょう。少し長い話になりますが、勇者組合と勇者ライセンスについてのお話をさせていただきます」


 にっこりとアベルさんは笑う。身なりよりもフランクな口調だ。さらに続ける。


「仮免取得のための現地実践は8月からですが、グラス先生からは来月より学校を出ての現地訓練を行うとも伺っております。まずは、仮免取得に必要な現地実践とその査定方法、そして本試験について説明したいと思います。そもそも仮免を受けるにも、特例を除いてですが、指定の勇者学校、もしくは訓練所で1年間の訓練、講習を受ける必要があります。みなさんはそれをこの一年で達成しておりますので、その資格を有しております。さて、仮免取得には、組合より認定を受けた試験官とともに指定の依頼をクリアし、一定ポイントを溜めていただく必要があります。その依頼にはモンスター退治も含まれております。仮免といいましたが、これはほぼ本免と同意義であると思っていただいて結構です。職業勇者ライセンスの本試験は、仮免さえ取得すればあとは簡単な筆記テストと面接のみです。そして晴れて勇者ライセンスを保持できます。勇者もランクでわけられており、最初はブロンズでのスタートになります。みなさんは仮免の現地実践に向けてパーティを組んでいただいたと思いますが、このランクには個人ランクとパーティランクの2種類あります。ランクが高い方が受けられる依頼も増え、また禁止区域の出入りも容易になります。仮免の成績いかんでは、勇者ライセンス取得時点でシルバー等級を得ることも可能です。仮免取得時の固定パーティをそのまま登録していただければ、パーティのポイントも引き継ぐことが可能です。職業勇者となればパーティ斡旋によってパーティを組むなど、その都度パーティを変える方も多いです。そういった勇者のために、勇者組合にはパーティランク査定員もおり、集められた勇者の実績、実力、バランスなどを計算しそのパーティのランク付けもいたしております。まあその辺りの話は置いておいて、当面直下の仮免許取得についてですが、こちらの学校にも勇者組合より認定を受けた試験官がおり」


 アベルさんの話は続く。大事な話なんだが、俺は本当に、なんでこういうの眠くなってしまうんだろうか。


「いてっ」


 はっと顔を上げると、ロゼの怒った顔があった。


「カイ、あなたのメンタルは一年前から成長していないの!?」


「あれ、終ったのか」


 生徒が散開していく。


「もう昼休だぜ、カイ」


 ポックが立ち上がった。


「そうだ、ポックとシュナに話が」


 と隣を見ると、シュナがうつ伏せで寝ていた。


「おい、シュナには切れねえのかよ」


「シュナは疲れているからいいのよ」


 明確に差別する室長よ。


「おい、シュナ、起きろ」


 俺はシュナの肩を揺らす。


「へ?おわっら?」


 シュナは目を擦る。戦闘時とのギャップよ。


「話って何だよ」


 ポックが切り出した。


「ああ、今朝ムツキに頼まれてな。ユキを俺たちのパーティに入れてくれないかって」


「先行くわ。今度は寝ちゃダメよ」


 ロゼは空気を読んで講義室を出て行った。


「カイ、さっきのアベルってやつの話、聞いてなかったのか?」


「途中までは聞いてたが」


「仮免の現地実践の成績いかんでシルバーになれんだよ。足手まとい増やしたってダメだろ」


「だが、ユキの魔法は強大だぞ」


「いつ暴発するかわかんねえ大砲なんてあぶなっかしくて操れねえよ」


「でも、最近は寮でも努力してて」

 

 シュナがことばを挟む。


「ムラがあんだろ。持続してやってけるやつか?感情の波が強すぎる。お前らお人好し過ぎんだよ。優しさでパーティ組むのか?ユキを信頼して命を任せられんのか?これから先はそんな甘い世界じゃねえだろ」


 すでに大講義室は俺たちだけになっていた。いつよもり広く感じる。

 シュナはじっと地面を見つめている。

 ポックは正論なんだが、うーん、正論なんだよなあ。

 

「うーん、そうだなあ」


「待ってください!」


 ムツキがすっと現れた。


「いたのかよ」


 とポックがことばをこぼした。


「ユキは」


 ムツキが縋るような目で俺を見る。


「ユキは、ここで腐らせてはいけないのです。必ず希代の魔法使いになります。お願いです」


「そんなのわかんねえだろ」


「私が、あの100年に一人と言われたこの私が保証します!」


「お前の全盛期しらねえよ!」


 ポックはいつもの調子で返した。

 ポックの言うことには一理も二理もある。

 ユキの持つ強大な魔法。コントロールできなければ味方にも危険を齎すし、現にユキには不安定なところがある。それに戦闘の勘がないというか、とにかくどじなのだ。しかし、今後現れるモンスター、原種、人型、魔王。それらを倒すことを考えた時、ムツキが言うように、ユキという才能を腐らせるのは人類にとってどうなんだろう。いやでも俺に手に負えるか?

 なんか考えるのめんどくさくなってきた。


「カイさん、ユキは、私を超えます」


 ムツキの目は真剣そのものだった。

 こんな真剣なやつ、信じないでどうするよ!


「ムツキ、お前を信じるぞ」


「ありがとうございます、カイさん!」


「ただしムツキがしっかりサポートすることと、あんまりひどいようならって、あれ、ムツキ、おーい」


 ムツキは俺のことばも聞かずに「ユキに知らせなくては!」と走り去った。実体化することも忘れてドアをすり抜けていった。


「おいおい、大丈夫かよ本当に」


 ポックは頭を掻いた。


「大丈夫だよ、カイが決めたことだもん。みんなで頑張ろ」


 とシュナは笑った。


「昼飯いくか」


 まあなんとかなるだろう。午後はなんだっけな演習。

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