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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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固定パーティを組んでの実践演習。

 2年になり、固定パーティを組んでの演習が始まった。剣技、魔法の基礎訓練をしながら、このパーティでの実践演習もほぼ毎日組み込まれている。一回目より、二回目、さらに三回目と、反省と修正点を各パーティで話し合いながら、連携を高めていく。

 土ガルイーガ二体、もしくは土ペンダグルス二体と同時に戦闘する。今までは一体だったが、二体になるだけで全然違う。タバタ博士の研究が進んでいるのか、土ガルイーガ土ペンダグルスともに、動きが最初の頃より多彩になっている。


「うおおおおおお」


 闘技場の真ん中、チョウさんが元気よく突っ込んでいく。


「ううううううううう」


 フルアーマー装備のアマコも突進していく。ちなみにアマコはがちがちの近接である。身体強化魔法とは別に、硬化魔法を使用でき、身に触れているものをさらに硬くすることができる。近接としては素晴らしい魔法なのだが、剣の技術が少しおぼつかないのと、歴史学のときと違い、戦闘になると全く頭が働かない猪突猛進型なのが欠点。


「ゆ、ユキも頑張るのです。あ、アイスうう!」


 突っ込んでいく二人に慌てたのか、ユキが魔法を唱えた。

 俺の隣で心配そうな顔のムツキが「ま、まってユキ、まだ無理しなくても」と声をかけるがもう遅い。


「あ、れえええええ、ネ」


 足場が凍り、すてんところけるチョウさん。


「おわ、おっおおおお」


 と氷の地面に足を滑らすアマコ。


「あわわわわ、ご、ごめんなさいなのです」


 土ガルイーガも、所在ないままにどしゃりと崩れていく。


「あんたたち、真面目にやんなさいよ!」


 毎度この演習のときにかり出されているケイ先生が、怒った。

 なにが問題かというと、固定パーティを組んでのこの演習、今日が3回目なのである。チョウさんたちのパーティは、前回と同じようにただ闇雲に突っ込んで失敗という。


「お前ら、ちょっと来い」


 グラス先生のことばに闘技場が凍り付く。ユキの氷よりも冷たい。

 学年でもずば抜けて能天気なチョウさん、アマコ、ユキだが、さすがに恐る恐るグラス先生の方へ歩いていった。いやー、怖い。


「お、ロロとリュウドウんところ、ペンダグルス二体倒したぜ」


 ポックが闘技場を眺めながら言った。ガルイーガ二体同時がクリアできたパーティは、ペンダグルス二体に挑むのだが、これはかなり難易度が高い。


「やるわね」


「お前のとこはどうだったんだ?ロゼ」


 ポックの問いに、むすっとした表情でロゼが答える。


「時間オーバーで失敗よ。連携は悪くない、次は行けるわ」


 ロゼは、アルトとアルテの三人編成である。ロゼの大火力はあるものの、魔力消費も激しいので使いどころが難しい。出し惜しみして時間切れだったのだろう。リュウドウとロロのパーティは、クルテ、リオナを足して4人編成である。ヒール+遠距離スリングショットのリオナ、ネギリネやクリの召還で防御やかく乱を行うロロ、この補助二人の立ち回りがうまい。そもそもロロとリュウドウは一番コンビプレイができていたが、クルテが加わりさらに良くなった。クルテは総合的に戦闘能力が高く、器用だ。リュウドウは言わずもがな。


「あなたたちはどうだったの?」


「カイがへましなけりゃな」


「ポック、お前の毒がもっと効くかと思ったんだよ!」


「なんだよ、俺のせいってか!?」


「二人とも、やめてよ」


 シュナに止められる。


「シュナを困らせるんじゃないわよあなたたち」


 ロゼにたしなめられる。

 土ガルイーガとの二体同時戦闘は前回クリアし、今回は土ペンダグルス二体との戦闘だった。シュナが一体引きつけている間に俺とポックでもう一体を倒す、という算段で臨んだのだが。ポックの矢が土ペンダグルスの左腕をかすめ、動かなくなったと思い込んだ俺は左袈裟に切り掛かったのだが、土ペンダグルスの左腕は思ったよりもしっかりと動いた。剣を簡単に払われ、追い打ちを駆けられる寸前で演習はストップになった。土ペンダグルスには毒のダメージも正確に現れるようになっていたのだが、ポックの麻痺毒はペンダグルスレベルの体躯と皮膚の硬さだと、効果が現れるまで時間差があったり、かすめたぐらいでは麻痺にならなかったりもする。その情報が得られただけでも充分意味のある演習になったのだが、自分の毒が効かないことにポックは結構ショックというか、苛立ったようで、まるで全て俺が悪かったような言い方をしてくる。


「演習なんだ、失敗ありきだろ。しっかり次は対策立ててこうぜ」


「んなこたわかってるよ、カイ。毒も万全じゃねえ、それがわかっただけで収穫だ」


 とポックは俺の腕を軽くパンチした。

 意外に殊勝じゃないか、とパンチ仕返してみる。


「俺よりも強くパンチするんじゃねえ」


 とポックからパンチが返ってくる。ちょっといてえ。


「間違っても、シュナの無駄遣いはしちゃだめよ。人類の損失よそれは」


 とロゼが目を細め俺とポックを見た。


「へーい」


 と俺とポックは返した。

 シュナなんて一番期待されてるようなやつと組むってのはそういうリスクもあるんだな。シュナのいるパーティが弱いなんてなったら、明らかに俺たちのせいになる。頑張ろ。

 とぼとぼとチョウさんたちが帰ってきた。


「おいおい、よっぽど落ち込んでんな」


「う、うるさいネ、ポック」


 とチョウさんはぐすんと鼻をすすった。珍しい。あの楽天的で強気なチョウさんが。ユキはすでに泣いているが。今回はよっぽど怒られたようだな。アマコは目をぎゅっと瞑ってあけてを繰り返している。涙する二人を見て自分もだそうとしているのか。こいつが実は一番図太いぞ。


「何を言われたの?」


 ロゼが問うた。


「さすがにひどすぎる、実地訓練にいける兆しすら感じられない、って言われたネ」


「まあ、そりゃそうだろうな」


「なんネ、ポック、私たちの何がいけないネ!」


「もう3回目だぜ?まだガルイーガでつまずいてんのお前らんとこだけだもん。早いとこは前回でガルイーガ終って今日もうペンダグルスのほうやってる。リュウドウのとこなんてペンダグルスもさっき倒しちまったよ」


 ポックに続いて、ロゼも言う。


「問題は進歩のなさよ。同じ失敗を三回繰り返してたらそりゃそうよ。まだ叱ってもらえただけ優しい方ね。話し合いはしたの?反省は?作戦は?」


「え?作戦ネ?」


 とチョウさんはアマコを見た。


「えっと、チョウと私が突っ込んでユキがばーっとやっちゃっう感じだよね」


 アマコは能天気に答えた。


「アマコ、あなた歴史以外は本当ダメね」


 と飽きれたようにロゼが言うと。


「え、えへへ」と照れるアマコに「褒めてないわよ」とロゼはさらに飽きれたように言った。

 ダメだなこりゃ。

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