学校開放日。かわいい後輩ができる。
立ちこめていた煙が消えていく。
「シュナ、あんたって、やっぱり、天才ね」
剣を振り切ったロゼの前に、シュナが立っていた。
勝った。
「チョウ戦闘不能、それまで!」
グラス先生の声が響いた。
「へ?」
とチョウさんの方を見る。
「カ、カイ、ヒールするネ」
チョウさんが倒れていた。右足の太ももに矢のかすめた後があった。
「へへへ、いいとこ取りだな。麻痺毒だ。ヒールでなおんだろ」
とポックが下りて来た。まあどっちにしろ勝ってたか。
シュナは、息づかい荒く地面に手をつく。二つ目の呼吸はかなり体への負担が大きいらしい。
「大丈夫、シュナ?」
ロゼの伸ばした手を「ありがとう」とシュナは掴んだ。
「ご、ごめんね、私、仲直りが昔から下手で」
とロゼが横を向き、言った。
「ううん、私が悪かったの。私が、ロゼの気持ちに応えられなかったから」
「シュナ、ううん、違うわ。私よ。意地はって拗ねて、昔からこうなの。本当にごめん」
「違うよロゼ、私が」
いつまで続くんだこれ。めんどくせえ。
「にしても、今回はシュナ、本気だったな」
「わかってねえな、カイ。シュナはロゼに認められたいって気持ちがつええんだよ。だから味方だと足引っ張ったらどうしようとか、無駄に気を張ってダメになる。敵同士だと認められたいって気持ちがいい方にいくんだろうよ。もともとごちゃごちゃ考えて戦うタイプじゃねえんだ、好きに動けばいいんだよ好きに」
ポックのことばには妙に説得力がある。
ふと観客席のセバスさんと目があった。まつげの長い目をウインクさせる。この人が仕組んだんだな。あれ、母さんやっと来たのか。「カイ!こっちよこっち!」と相変わらず明るい。その隣にはリュウドウのおばちゃんもいた。こっちは相変わらずごつい。
「ひ、ヒールするネ、早く、カイ」
「ああ、すまんすまん」
チョウさん忘れてた。
ヒールを施し、観客席へと向かう。
「リュウドウ、ロロ、下りてこい。ペンダグルスとの実践だ!」
グラス先生のことばに、二人が下りてくる。
「『プレイドッフ、ペンダグルス』」とケイ先生が唱えると、泥ペンダグルスが現れる。今日もこき使われるケイ先生である。
ネギリネで突進を止め、クリで視線を逸らし、リュウドウが『チョウデッカイケン』で土ペンダグルスの左袈裟を一刀のもとに切り下ろす。一連の鮮やかな流れに、観客席から拍手が沸く。
「ご家族様は一度教室の方へ。在校生は見学生に校舎を案内してやってくれ。ロゼ、アルト、お前らで班分けしてくれ。一応ケイも置いておく」
と言い残し、グラス先生は家族のもとへ向かった。ケイ先生を残し、先生方と親御さんが闘技場をを後にする。
「あんたたち、適当に仕切って」
とケイ先生は地面に座り込んだ。魔力と体力に相関関係はないとかいう論文は嘘ではなかろうか。
ロゼを中心に、班をわけていく。
「カイとシュナと、ポックね。ユキはリオナとクルテと」と久しぶりに見るロゼの室長っぷりである。
「シュナさん、めっちゃかっこよかったっす。いやあ、すげえっすよ、まじで」
ヤットがシュナに駆け寄る。ヤット特有の軽さに、シュナが「え、ああ、ありがとう」と後ずさる。
「いいのか、カイ」
ポックに肘で脇をこつかれる。
「なんでだよ」
「意外と横から搔っ攫われるぞ」
「めんどくせえな」
しかし、ちょっと心は乱れていたり。
「ヤ、ヤット、お前の班あっちっぽいぞ」
「え、まじっすかカイさん。ちぇー、もっと話したかったのに」
ヤットが渋々去っていく。
にやにや笑うポック。
「なんだよ」
「なんでもねえよにひひ」
「カイ、ちょいちょい」
とリオナが手招きするので、そちらへ向かう。
「この子がさあ、あんたと話したいって」
「ちょ、リオ姉はずいから、やめて、まじで」
「いいからいいから」
とリオナは後ろに隠れていた女の子を押し出す。肩口まで伸びた緑の髪の毛、つんと伸びた鼻、きりっとした目。なんだ、どっかで見たことあるぞ。
「えっと、俺と?」
勇者だなんだとちやほやされていたとき以来であるこんなこと。久しぶりなのでやや困惑する。
「あんたとがいいんだって」
シュナでもリュウドウでもチョウさんでもなく。俺とか。
「俺、勇者じゃないけど」
「めんどくさ。んなの関係ないっての。ほら、名前ぐらい自分で言いな」
「じ、自分、ネルって言います」
と緑の髪の毛を勢い良く揺らし、ネルは頭を下げた。
「ああ、俺、カイ。よろしくな」
「よ、よろしくです」
ネルは再びぺこりと頭を下げ、リオナの背後に隠れた。
「ははは、うける。この子ヒールなんだよ。しかもウチやアルテと違って近接型のね」
「ああ、だから俺か」
「ヒーラーで近接は本当、モデルケースみたいなんがいないかんね。あんた見て嬉しかったんでしょ。ね、ネル」
「は、はい!」
なんだ、かわいいな。いいぞこの後輩感。
「ふふふ、ふふふ」
と不敵に笑っていると「妹に手だしたら殺すぞ」と後ろからクルテが。
「やっぱりお前の妹か。しかしにしては礼儀正しいというか、いい子過ぎるというか」
「悪かったな!」
「カイ、早く行こ!」
シュナに言われ、「はいはい」と小走りで向かう。
またもにやにや笑っているポック。
「ぽ、ポック、何」
「なんでもねえよ、シュナ。にひひ」
気持ちの悪いやつである。
ふと視線を感じ、観客席を見上げる。観客席にスキンヘッドの男がいた。じっと見下ろすように、俺たちを見ている。
「所長、こちらへ」
とトーリ先生がその男を呼ぶと、二人は去っていった。
「トーリ先生、来てたんだ」
「ロロ、もう一人のスキンヘッドの人は誰だ?」
と俺はロロに訊ねた。
「あれは、モンスター研究所の所長さんだよ。ここと提携して色々してるから、その成果というか、直々に見に来たんだろうね」
同じモンスター研究所でも、トーリ先生やタバタ教授は柔らかい雰囲気だが、まあ組織のトップってのはああいう感じなのかな。
「ロロ、愛しのトーリ先生はいいが、お前の班行っちまったぜ」
「ちょっと、早く言ってよポックくん!」
ロロは駆けて行く。
ちょっぴり緊張気味な後輩を連れ、闘技場を出る。
風が冷たい。嬉しいような、わびしいような。




