表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
60/259

学校開放日。かわいい後輩ができる。

 立ちこめていた煙が消えていく。


「シュナ、あんたって、やっぱり、天才ね」


 剣を振り切ったロゼの前に、シュナが立っていた。

 勝った。


「チョウ戦闘不能、それまで!」


 グラス先生の声が響いた。


「へ?」


 とチョウさんの方を見る。


「カ、カイ、ヒールするネ」


 チョウさんが倒れていた。右足の太ももに矢のかすめた後があった。


「へへへ、いいとこ取りだな。麻痺毒だ。ヒールでなおんだろ」


 とポックが下りて来た。まあどっちにしろ勝ってたか。

 シュナは、息づかい荒く地面に手をつく。二つ目の呼吸はかなり体への負担が大きいらしい。


「大丈夫、シュナ?」


 ロゼの伸ばした手を「ありがとう」とシュナは掴んだ。


「ご、ごめんね、私、仲直りが昔から下手で」


 とロゼが横を向き、言った。


「ううん、私が悪かったの。私が、ロゼの気持ちに応えられなかったから」


「シュナ、ううん、違うわ。私よ。意地はって拗ねて、昔からこうなの。本当にごめん」


「違うよロゼ、私が」


 いつまで続くんだこれ。めんどくせえ。


「にしても、今回はシュナ、本気だったな」


「わかってねえな、カイ。シュナはロゼに認められたいって気持ちがつええんだよ。だから味方だと足引っ張ったらどうしようとか、無駄に気を張ってダメになる。敵同士だと認められたいって気持ちがいい方にいくんだろうよ。もともとごちゃごちゃ考えて戦うタイプじゃねえんだ、好きに動けばいいんだよ好きに」 


 ポックのことばには妙に説得力がある。

 ふと観客席のセバスさんと目があった。まつげの長い目をウインクさせる。この人が仕組んだんだな。あれ、母さんやっと来たのか。「カイ!こっちよこっち!」と相変わらず明るい。その隣にはリュウドウのおばちゃんもいた。こっちは相変わらずごつい。


「ひ、ヒールするネ、早く、カイ」


「ああ、すまんすまん」


 チョウさん忘れてた。 

 ヒールを施し、観客席へと向かう。


「リュウドウ、ロロ、下りてこい。ペンダグルスとの実践だ!」


 グラス先生のことばに、二人が下りてくる。


「『プレイドッフ、ペンダグルス』」とケイ先生が唱えると、泥ペンダグルスが現れる。今日もこき使われるケイ先生である。

 ネギリネで突進を止め、クリで視線を逸らし、リュウドウが『チョウデッカイケン』で土ペンダグルスの左袈裟を一刀のもとに切り下ろす。一連の鮮やかな流れに、観客席から拍手が沸く。


「ご家族様は一度教室の方へ。在校生は見学生に校舎を案内してやってくれ。ロゼ、アルト、お前らで班分けしてくれ。一応ケイも置いておく」


 と言い残し、グラス先生は家族のもとへ向かった。ケイ先生を残し、先生方と親御さんが闘技場をを後にする。


「あんたたち、適当に仕切って」

 

 とケイ先生は地面に座り込んだ。魔力と体力に相関関係はないとかいう論文は嘘ではなかろうか。

 ロゼを中心に、班をわけていく。


「カイとシュナと、ポックね。ユキはリオナとクルテと」と久しぶりに見るロゼの室長っぷりである。


「シュナさん、めっちゃかっこよかったっす。いやあ、すげえっすよ、まじで」


 ヤットがシュナに駆け寄る。ヤット特有の軽さに、シュナが「え、ああ、ありがとう」と後ずさる。


「いいのか、カイ」


 ポックに肘で脇をこつかれる。


「なんでだよ」


「意外と横から搔っ攫われるぞ」


「めんどくせえな」


 しかし、ちょっと心は乱れていたり。


「ヤ、ヤット、お前の班あっちっぽいぞ」


「え、まじっすかカイさん。ちぇー、もっと話したかったのに」


 ヤットが渋々去っていく。

 にやにや笑うポック。


「なんだよ」


「なんでもねえよにひひ」


「カイ、ちょいちょい」


 とリオナが手招きするので、そちらへ向かう。


「この子がさあ、あんたと話したいって」


「ちょ、リオ姉はずいから、やめて、まじで」


「いいからいいから」


 とリオナは後ろに隠れていた女の子を押し出す。肩口まで伸びた緑の髪の毛、つんと伸びた鼻、きりっとした目。なんだ、どっかで見たことあるぞ。


「えっと、俺と?」


 勇者だなんだとちやほやされていたとき以来であるこんなこと。久しぶりなのでやや困惑する。


「あんたとがいいんだって」


 シュナでもリュウドウでもチョウさんでもなく。俺とか。


「俺、勇者じゃないけど」


「めんどくさ。んなの関係ないっての。ほら、名前ぐらい自分で言いな」


「じ、自分、ネルって言います」


 と緑の髪の毛を勢い良く揺らし、ネルは頭を下げた。


「ああ、俺、カイ。よろしくな」


「よ、よろしくです」


 ネルは再びぺこりと頭を下げ、リオナの背後に隠れた。


「ははは、うける。この子ヒールなんだよ。しかもウチやアルテと違って近接型のね」


「ああ、だから俺か」


「ヒーラーで近接は本当、モデルケースみたいなんがいないかんね。あんた見て嬉しかったんでしょ。ね、ネル」


「は、はい!」


 なんだ、かわいいな。いいぞこの後輩感。


「ふふふ、ふふふ」


 と不敵に笑っていると「妹に手だしたら殺すぞ」と後ろからクルテが。


「やっぱりお前の妹か。しかしにしては礼儀正しいというか、いい子過ぎるというか」


「悪かったな!」


「カイ、早く行こ!」


 シュナに言われ、「はいはい」と小走りで向かう。

 またもにやにや笑っているポック。


「ぽ、ポック、何」


「なんでもねえよ、シュナ。にひひ」


 気持ちの悪いやつである。

 ふと視線を感じ、観客席を見上げる。観客席にスキンヘッドの男がいた。じっと見下ろすように、俺たちを見ている。


「所長、こちらへ」


 とトーリ先生がその男を呼ぶと、二人は去っていった。


「トーリ先生、来てたんだ」


「ロロ、もう一人のスキンヘッドの人は誰だ?」


 と俺はロロに訊ねた。


「あれは、モンスター研究所の所長さんだよ。ここと提携して色々してるから、その成果というか、直々に見に来たんだろうね」


 同じモンスター研究所でも、トーリ先生やタバタ教授は柔らかい雰囲気だが、まあ組織のトップってのはああいう感じなのかな。


「ロロ、愛しのトーリ先生はいいが、お前の班行っちまったぜ」


「ちょっと、早く言ってよポックくん!」


 ロロは駆けて行く。

 ちょっぴり緊張気味な後輩を連れ、闘技場を出る。

 風が冷たい。嬉しいような、わびしいような。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ