学校開放日。観客のいる3対3
「初め!」
グラス先生の合図とともに、ポックが弓を引いた。
アルトの盾がそれを弾いた。
小さな、しかし早い炎が飛んでくる。盾でなんとか受ける。
ロゼの赤い髪が向こう側でなびいている。
「行くぞ、シュナ!」
と声をかけると「うん!」とシュナは力強く答えた。
ポックはすでにケイ先生の魔法で作られた木の上に陣取っていた。3対3は、一人でもやられたらその場で終わりのチーム戦だ。ロゼの火力でお陀仏になるといけない。盾を構えながら、障害物を使い慎重に近づいていく。相手は、ロゼが後方、その前にアルトがいる。アルトは特殊武器の大盾『モーリス』を構えている。あとは投げナイフのみという珍しい組み合わせの装備だが、この大盾が厄介だ。チョウさんは、どこだ。迂闊に近づけない。
シュナが、チャクラムを投げた。
「『リアクト』」
とアルトが唱えると、盾が薄く光る。チャクラムはアルトの盾『モーリス』に当たると、そのままの力で返ってくる。すんでのところでシュナは自身が投げたチャクラムを避ける。
チョウさんも見当たらない、アルトの壁も硬い。しかし戦況を動かしたいな。
「ポック!」
「オーケー、行くぜ、カイ、シュナ!」
ポックは複数の矢をつがえ、上に向けては放った。
「それ、俺のやつ!」
観客席から、シャムの声がした。ロロと対戦した時に見せたシャムの得意技、矢の雨(シャム命名)だ。
名前のごとく、矢が雨のように相手陣に降っていく。しかも毒付き。
「フォルムチェンジ、『アンブレラ』」
とアルトの盾が傘の形に変形していき、ロゼを守る。
「行くぞ!」
と俺が言う前にもう、シュナは走り出していた。チョウさんが見当たらないのが懸念材料か。援護するためにも、俺はなんとかシュナに追いつく。
「アルト、しゃがんで!」
ロゼのことばに「おおせのままに、室長様」とアルトがしゃがむ。
「『ベリサマ!』」
ぶわりと温度が上がる。
ロゼの炎をシュナが大盾で受ける。
「空いたネ、シュナ!」
泥の岩影から現れたチョウさんが、シュナの脇腹を狙う。
俺はなんとかシュナに追いつき、盾でチョウさんの攻撃を受ける。
「ありがとう、カイ」
「おっと、危ないネ」
とチョウさんの足下にポックの矢が放たれた。チョウさんは跳んで避ける。いや、ポックが跳ばせたんだ。
シュナが、大盾を投げすて、浮いたチョウさんに切り掛かる。どっちも高い。二人しか出来ない空中戦。二度、三度と打ち合う。互角。
しかし、今は一対一ではない。ポックが二の矢をチョウさんに向かって放つ。ほぼ同時に、ロゼは「『インボルク!』」と小さくも早い炎を放った。矢の方が一寸早く届く。チョウさんは特殊武器『のんちゃん』で矢を弾く。シュナは、その隙を逃さず、チョウさんの腹を蹴った。チョウさんに炎が当たる。寸前、チョウさんは曲芸師のように体を反らせ、炎を避けた。が、蹴られたダメージがあるようで、体勢を崩しながら地面になんとか着地する。俺はチョウさんに向けて棒手裏剣を投げ、そのまま剣を構え向かっていく。
「カイ、さすがだね」
とさわやかな金髪をなびかせて、アルトがチョウさんを守る。
「アルト、まだまだ目立ててねえぜ」
と挑発してみる。アルトは装備に反して目立ちたがりやである。
「『モーリス』の真価は、ここからさ。フォルムチェンジ『ニードル』」
アルトが唱えると、大盾『モーリス』の真ん中ががちゃりと開き、槍が飛び出して来た。
「っつ、まじか」
運良く盾の端をかすめ、弾くことができた。後ろへ下がり距離を取る。
「カイ!」
シュナの声が背後からした。そして、大きく息を吸い込む音も。
俺は棒手裏剣を投げ、アルトの気を散らす。
風が舞った。シュナはすでに、俺を、アルトを飛び越え、チョウさんの真上にいた。
「のんちゃん、伸びるネ!」
シュナに向かってのんちゃんが伸びる。シュナは空中で体を反転させ、それをかわした。
「アルト、チョウを守りなさい!」
ロゼが叫び、
「『ブリギットクロス!』」と剣を十字に振った。ぶわりと温度が上がると、十字の大火が飛んでくる。アルトは炎からチョウさんを守るように大盾を構え、俺は転げるように後ろへ下がった。
「シュナ!」
とポックが叫んだ。
シュナは、炎に巻き込まれる直前、空中でチョウさんの伸ばしたのんちゃんを掴むと、腕力でさらに上へと跳んだ。
炎がシュナの下を過ぎる。
着地するシュナ。しかし、肩で呼吸している。
「チャンスネ!」
チョウさんが走り出す。ポックの矢をアルトが防ぐ。
シュナに近づけまいと、俺はチョウさんに切り掛かる。
いつもの躍動感がチョウさんにはない。チョウさんには珍しく後ろへ引いていく。腹に受けたダメージがまだ残っているのか。
「シュナ!」
とロゼが切り掛かる。
「はあ、はあ、ロゼ」
シュナはなんとかロゼの剣を受ける。
ロゼの鋭い突き。シュナはなんとかいなし、距離を取ると、チャクラムを投げた。ロゼは寸でのところで避ける。シュナが、手首をくいっと返すと、投げたチャクラムが戻ってくる。ロゼはしゃがんでそれを避ける。
シュナは、大きく深呼吸し息を整える。
ロゼもまた、大きく息を吐く。そして剣を構え、
「『ブリギットクロス』」
と十字に剣を振った。
シュナが、再び息を止めた。二度目のあれは。
十字の炎がシュナを襲う。寸前、シュナの足下の石畳がみしりと割れると、シュナが消える。
立ちこめていた煙が消えていく。どうなった。
「シュナ、あんたって、やっぱり、天才ね」
剣を振り切ったロゼの前に、シュナが立っていた。




