学校開放日。
はや週末。学校開放日で、昼前には母さんが来るらしいが、しかし早朝訓練は欠かさない。シュナも相変わらず型の反復をしているが、いつもより元気がないような、ぼーっとただ反復しているだけというか。とにかくロゼとの関係が修復されてないようである。セバスさんは一体何をやってるんだ。
型を終え、一息ついているときであった。
「、、、あなた、何ですか?」
「お、おわ、え?なんだ急に!?」
紫の髪の毛をポニーテールにした、小柄な女の子がいつのまにか近くにいた。ん?なんか面影が。
「あなた、お姉の何ですか?」
と探るような上目遣いで俺を見てくる。
お姉ちゃん、ってああ、やっぱりそうか。
「シュナのことか?ただの同級生だよ」
同級生だよ、そのことばによっぽど安心したのか、妹らしき女の子の顔が綻ぶ。
当のシュナは、よっぽど集中しているのか、はたまた考え事でいっぱいなのか、妹に気づかず型を継続している。
「呼ぶか?」
「ううん、いいです」
と妹は俺と少し距離を開けて座り、シュナの型を見始めた。
気持ちは少しわかる。シュナの型は、いつまでも見てられる。
ーーーーー
「ララ!来てたの!?」
とシュナは額の汗を拭った。
「うん。お姉、汗」
と妹、ララはシュナにタオルを渡す。「ありがとう」とシュナは笑顔で受け取った。ロゼの件があって以来、数日ぶりにシュナの表情に明るさが戻る。ララの方が頭一つ小さいが、姉妹というだけあってやはり立ち姿は似ている。
「おいカイ、お前の後輩が来てんぞ」
寝癖の立ったポックが現れた。
「カイさん、カイさんじゃないっすか!久しぶりっす!」
と見覚えのある顔がポックの背後から。
「ヤット、来てたのか!」
同郷の後輩であるヤットだ。相変わらずのソフトモヒカン。毎朝時間をかけてセットしてるらしい。
「今朝来たんっすよ。寮らへんうろうろしてたらポックさんが声かけてくれたんっす。リュウドウさんとはまだ会えてなくて」
なんて話していると、ヤットの背後から、チョウデッカイケンを携えたリュウドウがぬっと現れる。
「あれ、リュウドウさん!めっちゃ久しぶりっす!」
「おお、ヤットか」
とリュウドウにしては珍しく、頬が緩む。
ヤットの方へ近づいてみて思う。
「お前、でかくなったな」
「まじっすか、カイさん!」
俺よりもでかくなりやがって。
「で、どうっすか?ここの学校。俺、来年考えてるんすけど。でもカイさんとリュウドウさんなら余裕でトップっすか?」
ヤット特有の軽さも久しぶりである。根はいいやつなんだがな。
「いや、リュウドウはともかく、俺はーー」
「なんだこのかわいいの!はははは、シュナの妹か!?あーおもしれえ!」
とポックがララの頭をなでる。ララは、ぶすっとした顔でポックを見ている。
「お前と変わらんだろう身長」
と俺が言うと、「んなことねえ。俺の方が、ほら」とポックはララの横に並ぼうとする。ララはさっとシュナの背後に隠れる。
「嫌われたじゃねえか!」
「いや、お前が悪いんだろうよ」
「ララ、ほら大丈夫だから」
シュナがララに言うが、ララはじっとポックを見てシュナの背後から出てこない。
「ごめんね、オークターから出てくるのも初めてで、人慣れしてないっていうか」
とシュナは苦笑いで言った。
「ララちゃん!ごめんよ!俺が悪かったぜ、本当、仲良くしよう!」
ポックがララに近づいていく。ララは、渋々シュナの背後から出てくる。もう既に嫌な先輩である。
どすんと扉の方から音がした。
「いて、いててて」
「大丈夫か、ロロ」
とリュウドウはこけたロロに手を伸ばす。
「ありがとう、リュウドウくん。ユキ、押さないでよ!」
ロロの後ろからユキが現れる。
「ユキは押してないのですロロ!ムツキなのです!」
真っ白な髪の毛に真っ白なお肌のユキが現れる。さらにぺこぺことお辞儀をしながらムツキも。ユキ以外はムツキが幽霊だと知っている。が、ユキに言ったところで馬鹿なので理解しない。
「なんか、かなり緩いっすね」
とヤットはややがっかりしたように俺に言った。そう思うのも無理はない。
「まあ、緩いっちゃ緩いか」
と俺は答えた。
しかし、ユキまで休日に闘技場に来るとは。珍しい。かと思いきや、どんどんと生徒たちが闘技場に現れ始めた。クルテに、リオナも「やっほ」と現れた。なんでだ。
「あれ?今日休みだよな?」
「カイよ、お前本当に何も聞いてねえな。今日は学校開放で闘技場に集合って言ってたろ」
ポックが答えた。そうだっけか。
先生方も入ってくる。グラス先生、タケミ先生、ケイ先生、リプキン先生、リプカン先生、ヤング先生。レイ先生の先導のもと、観客席に生徒の家族がぞろぞろと入ってくる。トーリ先生は本来モンスター研究所の研究員なので、ヴェリュデュール勇者学校直属の先生は全員集合ということになる。
母さんを探すが、いない。どうしたんだろう。セバスさんと目が合い、お辞儀する。タキシード姿でしかもポマードで髪の毛整えてるから、めっちゃ目立つ。なんか若々しいし。
「一組はヤング先生、二組はタケミ先生の方へ。見学生は私のところへ」
とグラス先生が指示を出す。ヤット以外にもぞろぞろと学校見学に来た初等学生が現れ、30人近くになっていた。ララも観客席ではなく、そちらにいた。ということはシュナと年子か。にしては仲がいいな。
グラス先生の挨拶から始まる。誰もヤング先生が校長だとは思わないだろう。しかし、ロゼとシュナはやはり何かぎこちない感じがするな。ロゼのやつ、プライドが高いっていうか、さっさと仲直りしろよ。
「、、、見ていただく。見学生は観客席へ」
グラス先生のことばが終ると、見学生は観客席へ上がっていく。話全然聞いてなかった。
「プレイドッフ、ロックツリー!」
とケイ先生が地面に手をつき唱える。ドロ状の壁や木が闘技場内の至る所に現れる。
「え、何すんだ今から?」
と俺はポックに訊ねた。
「3対3だ。寝ぼけてんのか馬鹿」
といつのまにか寝癖の直ったポックにこつかれた。
グラス先生が高々と名前を呼び上げる。
「ロゼ、チョウ、アルト」
おいおい、強いぞ。親御さんへのお披露目もあるからか。
さらにグラス先生は呼び上げる。
「対戦相手は、シュナ、ポック、カイ」
「え、俺?」
「行くぜ、カイ!」
不意をつかれたというか、とにかくやるしかない。
「シュナ、剣を取れ剣を」
となかなか動かないシュナに、ポックが声をかける。
「う、うん」と俯き気味にシュナは返事をした。
両サイドに分かれる。緊張感が闘技場内に広がる。観客がいるってのはまたなんか嫌だな。
今か今かとグラス先生の合図を待っていたそのとき
「シュナ!」
とロゼが闘技場に響く程の大きな声を出した。
「本気で来なさい!」
「ロゼ、それは杞憂ってもんだぜ!」
とポックが弓を張りながら答えた。
「初め!」
グラス先生の合図とともに、ポックが弓を引いた。
アルトの盾がそれを弾いた。
小さな、しかし早い炎が飛んでくる。盾でなんとか受ける。
ロゼの赤い髪が向こう側でなびいている。
「行くぞ、シュナ!」
と声をかけると「うん!」とシュナは力強く答えた。




