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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ロゼの過去

 白い肌、ピンと伸びた鼻、切れ長の目、長いまつげ。相変わらず美しいレイ先生が現れた。


「グラスが急遽出れなくなったので、私が本日の魔法学を担当する。入学前に行った魔力量測定の結果を返していく」


 レイ先生が名前を呼び、それぞれ用紙を受け取っていく。

 入学試験時に魔法適性診断と一緒に行った魔力量測定。A〜Eの五段階評価だが、まあ予想通りというか、Cだった。


「次に、一学期の終わりに行った分を返していく」


 と再びレイ先生が順次名前を呼んでいく。

 一学期の終わりにも同じ測定を受けたのだ。こっちは、C+という結果になっていた。一応この半年の演習の成果ということなのだろうか。


「一学期の魔法演習は魔力コントロールの上達と魔力量の底上げに費やした。つまり戦いの土台作りだな。その結果がそこに現れているだろう。10代のうちは魔力量は伸びる。基礎訓練を怠らないように。また、魔力量が少なくてもあまり悲観するな。身体強化魔法は魔力コントロールさえうまければ魔力がガス欠するということはまずないしな。まあ多いにこしたことはないのだが、訓練次第でどうとでもなるということだ。あとは自由にしていいぞ」


 とレイ先生はにこりと笑った。美しく優しく、女神のような人である。


「凡だな、凡」


 背後からポックの声。

 

「凡で悪かったな!お前はどうなんだ?」


「C+だ」


「同じゃねえか!お、アルトはBか」


 前の席に座るアルトの紙を覗き見る。


「まあね。でも、たぶん一番魔力量が多いのは姉さんだと思うよ」


 アルトは、前の席でうつ伏せているアルテを指差した。魔法演習で毎回一緒にラン&ヒールを繰り返していたからなんとなくわかっていたが、アルテの魔力量は半端ない。


「アルテ、紙見せて」


「ん?カイ、30ルコでいいよ」


 と目を擦りながらアルテは言った。なんでいつも眠そうなんだ。


「ただで見せろよ」


「はいはい」

 

 とアルテは紙を出した。

 A+


「Aも珍しいんだがな。この学年でも二人しかいない。A+になると私でもほとんど見たことがない」


 ひょっこり現れたレイ先生が言った。


「もう一人のAって?」


「ユキだよ。ん?こういう個人情報は言わない方がいいのか?」


 こう見えてどじっこなところもあるレイ先生はたまらなくキュートである。にしてもユキもやべえな。シュナやロゼはどうなんだろう、と二人の席の方を見て、胸が痛む。隣同士の席なのだが、あまりいい空気ではない。シュナがなにやら話しかけるが、あまり会話が続かないようである。女子ってめんどくさいな。


「ロゼか?あいつはBだぞ」


「先生、そんなに言ってしまっていいのですか?」


「ああ、良くなかったな。内緒にしておいてくれ」


 とレイ先生は顔を赤らめた。


「そういえば、ケントのやつ二学期になってから見てないな」


 ポックがふと思い出したように言った。魔法演習のときの、ケントさんのSっぽい笑顔が思い出される。一学期では演習時に先生のヘルプでよく来てくれていたのだが、最近はとんと見ないな。


「ケントならモンスター討伐に出てるぞ。もともと学校の方は最初の半年間だけ手伝ってもらうことになってたんだ。あいつのパーティは結構優秀だから、基本は忙しいんだぞ。ああ見えて」


 剣の腕だけでも一流だったしな。当然っちゃ当然か。にしても、パーティか。


「レイ先生はグラス先生とパーティを組んでたんですよね?」


「ああ、よく知ってるな、カイ」


「二人だけですか?」


「いや、タケミと、もう一人いた。あと、ケイも時々一緒に組んでたな」


 へー。タケミ先生とケイ先生もいたのか。もう一人も凄腕だろうな。


「その、訓練所で出会ってパーティを組んだんですか?」


「そうだな。ケイ以外の4人は同期だ。ケイは後輩にあたる。組合でパーティ斡旋もしているけどな。そこで見つけるやつがほとんどだが、同期同士や先輩と組むやつも結構いるな」


 チャイムが鳴った。


「あ、そうだ。今週末は学校を一般開放する。初等学生の見学者やら、お偉いさんやら、あと、お前たちの家族さんが訪問してくださる。室長と副室長は次の歴史学のあと打ち合わせがあるから残ってくれ」


 と言い残し、レイ先生は教室を出た。

 今週末の学校開放、親父は忙しいとかなんとかで、母親だけ来るとか言ってたな。お小遣いせびろう。次は歴史学か。眠くなりそうである。


ーーーー

「人型のモンスター、アーズによって滅びた国は3つある。ダマスケナ、ハマナス、ブリランテ。最も最近では10年前のモンスター大恐慌の際に滅びたブリランテである。当初は国内の軍事クーデターだと考えられていたが、勇者組合の潜入調査により、そのクーデターの背後にはアーズがいることがわかった。国王は暗殺され、国は崩壊した。その様を見てアーズは満足すると、今度はモンスターによる蹂躙が始まった。モンスター大恐慌を終らせた大いなる光のあとも、ブリランテ含むこの3国は未だに開放されていない。モンスター危険地域に指定されておる。チャイムだ。ここで終ろう」


 とはげ頭のリプカン先生は、すたすたと去っていた。眠かった。ぎりぎりのところであった。

 レイ先生が教室に現れ、「室長、副室長、職員室にきてくれ」と声をかけた。ロゼとアルトが教室を出て行く。生徒たちもどんどんと帰っていく。しかし、シュナは暗い顔で座ったままである。


「シュナ、大丈夫か?」


「え、ああ、カイ。ロゼが、怒っちゃったみたいで」


「原因は?」


「今朝の実践演習からだから、そのときに何かしちゃったんだと思う」


「おいおいシュナ、わかんねえのか原因が?お前もおぼけさんだな」


 とポックがずいと入ってくる。


「ポック。わかるの?」


「わかるにきまってんだろ。お前、なんでロゼとチームになるときはいつもの調子じゃないんだ?」


「え、えーっと、なんでって、ロゼの邪魔しないように」


「そんなに頭使うタイプじゃねえだろ。天才は本能で戦ってりゃいいんだよ。ロゼはああ見えて周りを見てる。お前が自分のときだけ動きが違う、自分が学年1位の力を引き出せてない、そんなことわかってんだよもう」


「、、、うん」


「なんでチームになるとそうなっちまうんだ?」


 と疑問をぶつけた。


「ロゼは、初めて会ったときは喧嘩みたいになったんだけど、それもロゼの思いがあってのことだったし、それに、やっぱりこっちにきて初めてできた友達で、いろんなとこ連れてってくれて、寮でも自主訓練に付き合ってくれて、ご飯も私の分まで作ってくれたり、私が疲れて早く寝るときは、ロゼ、もっと起きてたいだろうに消灯早めてくれてたり、宿題にも付き合ってくれて、髪型も、服も、一緒にして街に出かけたり、本当、優しくて、大好きで、とにかく、嫌われたくなくて、邪魔しちゃいけないって、思っちゃって」


 シュナの目に涙が。ううう。シュナと最初に仲良くしたの俺じゃね?なんて無粋なことはいいませんよ。


「今回の件があったにしても、最近のロゼはちょいぴりついてたぜ、って」


 とポックがことばを止め、窓辺を指差した。


「なんということでしょう。ロゼ様にこんなに素晴らしいご友人ができていたとは」


 と窓の外から、細身のタキシード姿の男が教室に入ってくる。ここ三階なんだが。


「誰だ、おっさん?」


 ポックが不躾に訊ねた。


「お、おっさん?そうですね、私ももう30をいくつか超えた年、ああ、そう、おっさんですか。まあいいでしょう。私めは、ロゼ様の執事、セバスです」


 30代には見えない若々しさがある。


「学校開放は週末と聞きましたが」


 と俺は恐る恐る訊ねた。


「ええ、少し早くつきましたので、こうして教室の様子を」


 いやいや、だから3階なんだが。


「まあいい、っていうか、執事がいるってロゼは何もんだ?」


「ロゼ、あんまり自分のこと話したがらないから。でも、私はもっとロゼのこと知りたいし、力にもなりたい」


 とシュナは視線を落として言った。


「ロゼ様は」


 セバスはやや遠い目をして言葉を紡ぐ。


「ロゼ様は、あのブリランテの火神とたたえられた猛将、ディオール様の一人娘であります」


「ブリランテ?ってさっき授業でやったとこだぞ!」


「興奮すんなよカイ」


「すまん」


「で、ブリランテは10年前に滅びたんだろ?」


「そうです。アーズの魔法により軍部はクーデターを起こしました。ディオール様は抗いましたが、逆にアーズに目をつけられてしまい、国王暗殺など、全ての罪を被せられ命を落としました」


「ロゼのお父さんが、そんな」


 シュナの目から再び涙がこぼれる。


「ロゼさんに、そんなことが」


 後ろでロロが唖然と言った。

 その隣でリュウドウが無言で頷いた。パンが一杯入った袋を持っている。


「あれ、いつからいたのお前ら?」


 とポックが問うと「セバスさんが窓から出てくる辺りから」とロロが答えた。

 ぐうーとお腹がなった。反射的にシュナを見てしまったが、今回は違った。


「すみません、こちらにきてからあまり食べていなくて」


 とセバスは恥ずかしそうに答えた。

 リュウドウがパンを机に置くと「おお、ありがとうございます」とセバスは上品にパンを食べはじめた。


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