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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ロゼとシュナ。

「い、いでよ!アイス!」


 ユキの幼い声が森に響いた。土ペンダグルスの足下が氷る。


「ちょ、ユキ、ワタシまで氷るネ!」


 チョウさんの右足も氷る。

 体勢の崩れたチョウさんの首元に、土ペンダグルスの右手が伸びる。


「ぎゃああああああ」


 と悲鳴を上げるチョウさん。が、その鋭い爪は、チョウさんに届く手前でどさりと崩れた。


「それまで!」


 とグラス先生はチョウさんとユキに近づき、なにやら言っている。あれは結構怒ってるな。

 ケイ先生の魔法と、モンスター研究所の研究員、タバタ博士のつくったブラックボールとかいう発明品の融合により、仮想ペンダグルスの実践演習が行われている。コンビを組んでの演習、その二回目である。前回の演習時にコンビが発表されて、実践に入った。しかし一回目でうまく倒せたコンビはほぼいなかった。今回は、前回の反省も踏まえて作戦を考えてくるように、ということだったのだが、やはりそれでもうまく倒せる組は少ない。


「にしても、あの二人は相性悪いな」


 俺のことばに、ポックはうんうんと頷き、言う。


「どっちも能力はお化けだけど、アホだかんな。チョウはアホで自由奔放だし、ユキはアホなのに周りを伺うから、変なタイミングで魔法を打っちまう。それと、ムツキの立ち位置はどうみんな理解してんだ?」


 グラス先生になにやら言われているチョウさんとユキの隣で、なぜか一番申し訳なさそうなムツキがいた。実はムツキは幽霊で、生前はすごい魔法使いだったらしいのだが(本人談)それを知っているのはほんの数人である。周りからしたらあそこだけトリオである。

 涙目のユキと気まずい表情のムツキが帰ってきた。チョウさんはロゼに足にへばりついた氷を溶かしてもらっている。


「何泣いてんだよユキ」


 ポックが軽い口調で言った。


「ぐ、グラス先生、厳しいのです、ぐず」


 とユキは鼻をすすった。

 もともと厳しい印象はあったが、二学期になってから特にその印象は強くなった。原因は、フライ婆の残したことばである。夏祭りのあったあの日、フライ婆は空に帰り、俺は地上へと下りた。すぐさまグラス先生による聞き取りがはじまり、ことの顛末をすべて話した。空から現れたリピッドデッドと鳥人、フライ婆が『紙切れも同然』と言ったグウォールの予言書、そしてモンスターに破られた最後のページ、そこに書かれていたであろうことば、『数多の星流れ落ちたとき、勇者生まるる』などなど。『数多の星流れ落ちたとき、勇者生まるる』このことばを聞き、グラス先生の表情が強張ったのを俺は見逃さなかった。ちなみに予言書は、持っているとまた誰かに狙われかねないとのことで学校で保管することに。そして短い休みも終わり、二学期に突入したのである。


「ネギリネ!」


 ロロが地面に手をついた。ネギリネが現れ、土ペンダグルスの突進を受ける。リュウドウが影から飛び出すと、その左袈裟を斜めに切った。土ペンダグルスがどしゃりと崩れる。


「よし、いいコンビネーションだ」


 グラス先生に褒められ、ロロは照れ笑いした。


「一番良かったんじゃねえか?」


 とポックのことばに、「練習したもんね!」とロロはリュウドウを見た。リュウドウは、「うむ」と頷いた。

 どんどんと実践演習に入っていく。


「アルテ、アルト、時間がかかり過ぎだぞ!」


 グラス先生の激が飛ぶ。


「あそこは火力不足だな」


 腕を組んだポックが言った。

 アルテとアルト。あまり似ていないようでよく見ると似ている双子の姉弟だが、ヒールのアルテと特殊武器の大盾を使うアルトは確かに攻撃に欠けている。


「ポックくんたちもグラス先生から同じ注意受けてたよね」


「このやろう、ロロ、褒められたからっていい気になりやがって!」


 とポックがロロの頭をぐりぐりする。

 ポックの相方は俺なので、俺も同時にディすられていることになるんだが、ロロよ!しかし、確かに時間がかかった。なんとか倒せはしたが。俺がペンダグルスの注意を惹き付け、ポックが毒矢でしとめるというシンプルな作戦を立てたのだが、俺が射線に入ってしまったり、ポックの矢が刺さっても毒が効いてくるまでに少しのラグがあったりと作戦通りにはいかなかった。右腕をポックの麻痺毒で動けなくさせ、左側を俺が切り下げてなんとか土ペンダグルスを倒したのだが「ペンダグルスは多いときには3体以上の群れで動く。一体倒すのにそんなにかかっていては他にやられるぞ」とグラス先生より厳しいお言葉をいただいたのである。


「シュナとロゼ、最後だ」


 グラス先生に呼ばれ、二人が前に出た。


「まあ、ここは大丈夫だろ」


 と相変わらず腕を組んだまま、ポックは言った。

 この二人は、前回、一回目にも関わらず割とあっさりと土ペンダグルスを倒したのである。


「来るよ、シュナ!」


「うん!」


 突進してくる土ペンダグルスに対して、シュナは大盾を構えた。ロゼは右側に移動する。

 直進していた土ペンダグルスが、そのスピードを維持したままロゼの方へと向きを変えた。


「ロゼ!」


 とシュナがロゼの方を見た。ん?なんだかシュナらしくないな。


「くっ」


 と後ろへ飛び、ロゼはペンダグルスの突進をなんとか避けた。


「前とは動きちげえな。土ペンダグルスも学習すんのか?」


「データを増やしたんじゃよちっこいの」


 白衣を着たぐるぐるメガネのおじいさんがにょきりと現れた。タバタ博士である。


「お前もちっせえだろ!」


「ほれ、ちょっと高いじゃろう」


 とタバタ博士はポックの隣に立つ。確かに少しだけタバタ博士の方が高い。


「データを増やしたというのは?」


 ロロが訊ねた。


「ペンダグルスはああ見えて結構賢い。無防備な相手や、中遠距離やヒーラーを先に狙うという動きもしたりする。データが少ないと単純な動きになってしまうがな。これも我がブラックボールという発明あってのうんぬん」


 とタバタ博士の話は続くが、長くなるので戦いに目を向ける。

 再度突進してくる土ペンダグルス、シュナが大盾で受ける。ロゼが土ペンダグルスの右側へと回り、その細身の剣で突刺す。土ペンダグルスの右腕がだらりと下がった。ロゼが再び距離を取ると、シュナも同時に下がった。


「あいつ、動きおかしいな」


 評論家気取りのポックが言った。確かに、シュナらしくない。いつもなら大盾を投げて切り掛かりにいくところである。そもそもその前の、土ペンダグルスが突進方向を変えた一瞬、隙があった。いつものシュナなら跳んで切り掛かってもおかしくなかった。


「それまで、時間切れだ」


 とグラス先生は特に二人に声をかけることもせず「今日の演習はこれで終わりだ。解散」と去っていった。


 無言で戻ってくるロゼとシュナ。


「ダメだったね」


 と木陰に戻ると、シュナはロゼに話しかけた。


「シュナ、なんで剣を抜かなかったの?」


 ロゼの口調は冷たい。


「え、ご、ごめん、作戦通りにしようと思って」


「そう」


 とロゼは一人去っていった。

 呆然と立ち尽くすシュナ。


「作戦ってのは?」


 ポックが訊ねた。


「私がひき付けて、ロゼの魔法でって」


「作戦はあくまで作戦だぜ?ちなみにどっちの提案だ?」


「わ、わたし」


「ロゼはそれでいいってか?」


「う、うん。ロゼを怒らせちゃった」


 とシュナは小走りでロゼのあとを追った。


「あいつ、学年で一番強いって自覚あんのかね?」


「シュナは自由に浮かせていても、その場その場で臨機応変に対応できる優秀な戦士だ。今回といい、前回もだが、おかしかったな」


 と戦いのことになると急に饒舌になるリュウドウ。一回目のときも、倒せはしたが、そういえばロゼの動きに合わせすぎてるような感はあったな。


「よく見てんじゃねえかリュウドウ。あいつはロゼといると気を使っちまうんだな。それに、ロゼはみんなが思ってるほど炎一辺倒の単細胞じゃねえ。剣術もそうだが、戦いに関してはエリート教育を受けてる節があるし実は周りを見て戦うタイプだ。シュナが自分と組むと動きがおかしくなることも重々理解しているだろうぜ。だからこそ苛立ってんだろうな」


「ポック、お前もよく見てんな」


 いや、本当に。


「あ、あんたたちはいいわね、戦うだけで」


 疲れきったケイ先生が去っていく。この演習のたびにかり出され、土ペンダグルスを何体も生成している。魔力からからだろうな。しかもこれから出張だとか。

 予鈴がなった。ケイ先生の都合により、一限目から演習だった。今から座学である。魔法学。またグラス先生だ。怖いな。遅刻するとどやされると、走って教室へと戻った。


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