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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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フライ婆は、マイペースに飛ぶ。

 受け止めた老婆を地面におろす。


「ありがとうねえ、お兄さん。あたしもあと80年若かったらねえ、ひょっひょっひょ」


 ずれたメガネを直しながら、老婆が高笑いした。一体何歳だ。


「なにもんだばあさん?」


 ポックが問うと


「まあまあ、フライ婆とでも呼んどくれ。ほれ、ほれ」


 と自称フライ婆は、ふわふわと宙に浮く。


「ちょ、浮遊魔法じゃん!」


 リオナが身を乗り出す。

 浮遊魔法。超超珍しい。らしい。初めて見た。


「あそこから落ちて来た?」


 とシュナは、ゆっくりと過ぎ去る浮島を指差した。


「そうさな。この布に乗ってふわりふわりとな」


「浮遊魔法なら、布の意味はあるのかしら」


 ロゼの問いに、


「雰囲気よ雰囲気、ひゃっひゃっひゃ。しかし、ここは北区か。まずいところに下りてしまった」


 白髪が逆立っている。空から落ちて来たんだからしょうがないか。


「北区の何がまずいんだ?」


「小さいの。北区には知り合いが多いからな」


「誰が小さいのだ!俺はポックだポック!婆さんの方が小さいだろう!」


「俺とはこれいかに。あんたはおん」


 ポックが飛び上がり、フライ婆の口を抑える。性別を一瞬にして見抜いたか。そういえば生徒の中では俺しか知らないんだった。


「まあとにかくさ、お茶しよお茶。婆ちゃんものむっしょ?」


 とリオナはティーカップに紅茶を注いだ。ホームなだけあってえらい落ち着きようである。


「そうさな。焦ってもしょうがないで」


 フライ婆は、ふわふわと椅子に座った。俺の座ってた椅子に。仕方がない、欄干にでも座るか。

 さて、フライ婆への尋問が始まったのだが、どうも要領をえない。


「浮島から下りて来て、久しぶりに街を散策したい。金は今はない。知り合いが多いからバレないようにしたい。祭りに行きたい。オーケー、それはわかった。だがな、婆さんが一体何者なのかがさっぱりじゃあこっちもはいそうですかとは動けねえぜ。もしかしたら指名手配犯の可能性だってあるんだからな」


「ポック、そんな疑うもんじゃ」


 と俺はさすがに婆さんが不憫になってフォローしようとしたが、フライ婆はうんうんと頷き、


「わかる、わかるぞポックよ。しかしな、これも何かの縁だと思ってな。それにな、対価はうんと弾むさね」


 フライ婆はにやりと笑った。ポックの耳が大きくなる。


「うむ、ならよかろう」


 と二つ返事でポックは頷いた。落ちるのが早すぎる。


「リオナちゃーん、タゲさんたちが来てるわよー」


 階下からリオナママの声がした。


「え?どうしたんだろう。まじごめんね、ちょいまち」


 リオナがどたどたと下りていった。

 知り合いにばれたくないということで、街へでるにしても、婆さんに変装が必要である。ロゼとポックが主導で、どこからだしてきたのかベレー帽に口ひげにと、婆さんの性別を変えることに。


「こんなもんだろ」


 ふふん、とポックは胸を張る。

 フライ婆もフライ婆で、「ほう、悪うない」とロゼの手鏡をじっと見ている。まあ可愛いおじいさんにはなった。

 リオナがどたばたと部屋に戻ってくる。


「まじごめん、スターリーナイトの職人さんが来てて、ちょっといかないといけない感じになっちゃった」


「スターリーナイト?」


 なんだそれ。


「なんも知らねえのな、カイ。今日の祭りのメインイベントだよ。夜空に魔法の星が降り注ぐんだ。リオナがそれの手伝いをするってのか?」


「うん、ちょっとトラブったみたいで、ウチの魔法でなんとかならないかって」


「へー、面白そうね。私たちも見学に行きましょうよ」


 とロゼがシュナを見た。「うん、いいね。つくってるとこ興味あるかも」とシュナも頷いた。


「あたしも、あたしも!」とフライ婆はふわふわと浮く。


「うっし、ってことで、レッツラゴー!」


 いつものように、ポックのことばに俺たちは動き始めた。


ーーーー


「なにさねあれは?なにかいの?はえー、こんな綺麗な橋ができて。おろろ、10年前より道が狭くなってるなあ。おお、あれは」


 様変わりした街の様子に興奮気味のフライ婆。


「こら、フライ婆、すぐ浮かないの」


 ロゼが注意する。フライ婆は興奮するとついつい浮いてしまうらしい。知人が多い、ばれたくないなどと言いながら、ふわふわ浮いている老人がいたらすぐばれるだろう。変装しているとはいえ。


「カイ、これ巻いてろ」


 とポックが俺の右手首に糸を巻き付ける。その糸はフライ婆の足首と繋がっている。


「ひゃっひゃっひゃ、赤い糸だで」


 と喜ぶフライ婆。いや、というより風船を持ってる感覚だが。


「この人ごみだ、いなくなられてもことだろ」


「いや、なんで俺に巻き付けんだよ」


「婆さんもよろこんでんだ、いいだろ」


 んな勝手な。

 北区から街の中心に下りてくると、すごい人であった。婆さんは浮かずに我慢してたが、蹴られてもことだと途中から浮き始めた。糸が時々ピンと張る。本当に風船気分だ。街の中心から、東へ向かう。人通りがだんだんと減っていく。リーフ大橋を越えると、川沿いの道を再び北へ向かう。土手の向こうに、ヴェリュデュール自然公園があった。いいランニングコースだな。開けた河川敷があり、そこに小さな人だかりがあった。


「リオナちゃん、ほんとごめんね!」


 法被姿のおばさんがかけてきた。リオナが駆け足で法被姿の集団のもとへ向かう。

 俺たちも覗かせてもらうことに。

 頭大のなまり玉のようなものがいくつもあった。魔法玉というらしい。そばには筒状の発射台が5つ設置されている。ひと際大きな発射台が、少し離れたところに2つあった。魔法玉をその発射台で発射すると、空にはそれはそれはファンタジーな光景が現れるとのこと。

 法被姿のおじさんおばさんの説明を聞いていると、どうやらメインで使う魔法玉の接合に手間取っているらしい。より大きな二つの魔法玉をくっつける必要があるとか。そこで呼ばれたのがリオナ。そういえば、この前の実践演習のときも、グラス先生に呼ばれてリオナが手伝ってたが、将来金には困らなそうだな。そもそもあんな大豪邸に住んでるお嬢様だから関係ないか。

 なんて考え事をしながら作業を見ていると、右腕がぴんと動く。


「いて、いててて」


 手首に巻いた糸が引っ張られる。

 フライ婆が、なにやら土手の方へ動き出したのである。


「ちょ、どこいくんですか、フライ婆!?」


 結構なパワーである。引っ張っても引っぱり返せない。


「あっちはリーフの森さね?ちょっと付き合っておくれ」


 とフライ婆は止まらない。


「カイ、大丈夫!?」


 引きずられる俺をシュナが引き止める。


「いて、いててて」


 右腕がさらに引っ張られる。


「シュナ、一旦離せ、おれがついてく!」


 ポックの指示に、「う、うん!」とシュナは俺の腕を放した。

 フライ婆は、土手を超えて自然公園の方へ。公園と言ったが、つまり森である。ずっと南へ行けば学校に行き着くな、なんて暢気なこと考えていると、フライ婆は土手を超えて森へ入っていく。


「フライ婆、どこへいくんですか!?」


「はて、どっちやったかいの訓練所は」


 とフライ婆は森の入り口ではたと立ち止まった。


「訓練所ってあの森ん中のぼろい建物か?」


 後ろから追いついたポックが問うた。あのネギリネが住んでる場所か。ケイ先生が訓練所がどうこうと言っていたなそういえば。


「それさね。場所を忘れてしもうた。あたしもそろそろがたがきとるな」


 とフライ婆は頭をこんこんと叩く。


「連れてってやってもいいが、こっちの質問に答えてくれたらな」


「ほう」


 フライ婆がにやりと笑う。ポックもにやりと笑い、


「あんた、何者だ?」


 と訊ねた。

 100歳ぐらい(?)で、超貴重な浮遊魔法、リーフ市に知り合いが多く、バレたくはない、森のなかにある旧訓練所を知っている。

 ただの婆さんではないはずだ。


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