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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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女が空から降ってきた。

 リーフ市のやや外れにある北区の高台には、高級住宅街がある。上品で静かで、綺麗で、なにより家がでかい。


「こっちこっち、みんなきてきて!」


 とリオナが、一等でかい豪勢な門構を持つ家の前で、俺たちを手招きした。


「ポック、シュナ、何立ち止まってんのよ」 


 ロゼが、門前で家を見上げる二人を急かした。


「いや、お前らリアクション薄すぎだろ。めちゃくちゃ金持ちじゃねえか」


「リオナが金持ちってなんとなくわかってたろ」


「にしてもだな、カイ。ここまでとは」


「とにかく入ろうぜ」


 と俺はポックを急かす。


「シュナ、早くいくわよ」


 ロゼに言われ「あ、いくいく。待って」と唖然と家を見ていたシュナは、ようやく歩き出した。


「あれ、チョウとロロッちとリュウドウは?」


「あいつら用事があって、夕方に合流するって」


 と俺はリオナの問いに答えた。用事ってのはデメガマの餌やりのことだが、チョウさんはもじもじしながら、リュウドウのほうについていった。まあチョウさんにデメガマのことを知られてもばらすことはないだろう。恋するオトメだし。


「そっか、出店回る前には合流したいね」


 とリオナは、広い広い庭を歩いていく。プールまであるぞ。度々ポックとシュナが口をぽかんとあけて立ち止まる。

 扉を開く。いいにおいがする。天井は高く、大理石の床が美しい。階段をのぼっていく。


「ウチの部屋だから、好きにくつろいでて!」


 とリオナは部屋まで案内すると、小走りで一階へ下りていった。

 部屋に入る。

 シックなベッド、上品なソファー、地味だがセンスのいい壁紙。ギャルっぽくはない。


「おおお、オーシャンビュー!」


 テンションあげあげのポックが、ベランダに出て言った。


「海は見えないわよ、ポック」


 と冷静に、ロゼが返した。

 広いベランダがあり、テーブルと椅子が設置されている。その向こうの景色は、海は見えないが、リーフ市が一望できてとても眺めがいい。


「でも、本当ね、とてもいいところだわ」


 とロゼは、何かを懐かしむように言った。

 なんだろう、シュナやポック、俺とは違い、ロゼはこのハイクラスの環境に馴染んでいる。いいところのお嬢さんなのだろう。そんな雰囲気出してるし。そういえば、ロゼの出生をよく知らないな。


「ロゼ、大丈夫?」


 シュナが、ロゼに訊ねた。


「え、ああ、うん、大丈夫よ。昨日遅かったから、ちょっとね」


 とロゼの目には、涙が浮かんでいた。あくびなんてしてたっけか。


「おっまたせー!」


 この上品空間に、ギャルが扉をどんと開けて入ってきた。いや、まあこのギャルの部屋なんだが。リオナの後ろから、美しいお姉さんが現れた。茶色い髪の毛、小麦色の肌、ここまではリオナと同じだが、その挙動と佇まいに上品さがある。


「リオナちゃんのお友達ね。ポックちゃんにロゼちゃんにシュナちゃんにカイちゃん。よくお話してくれるんですよ」


「ママ、そんなのいいから」


 とリオナは照れくさそうに言った。


 ママ?ママ!?


「ママ!?」


 とシュナが口をぽかんと開ける。


「いや、ママはおかしいだろ!」


 ポックがみなの疑問を叫んだ。


「お姉さんじゃなく?お母様?」


 ロゼが問うと


「うん、ママだよ」


 リオナがにっこりと笑い答えた。


「やだわ、ふふふ」


 リオナママは照れたそぶりを見せた。いや、さすがに言われ慣れてるだろ。

 広いベランダ、リオナいわくルーフバルコニーというらしいが、なんかもうベランダでいいや。そのベランダで、リオナとリオナママが作ったというお菓子を食べる。


「ちょーおいしい!」


 すっかりリオナの口調がうつったロゼが、感嘆の声を上げた。

 焼きたてのクッキーである。ちょうど時間を見計らって焼いてくれたんだろうか。一緒に出してくれた香りの高い紅茶をいただく。おいしい。紅茶をはじめておいしいと感じた。シュナとポックは、ペースを考えずむしゃむしゃとクッキーを食べている。嬉しそうにどんどん持ってくるリオナ。こんだけ食べっぷりがいいと、礼儀どうこうよりも嬉しいか。

 リーフ市に影ができる。

 大きな雲が、日を隠す。いや、あれは雲ではない。


「なんだ、また浮島か?」


 とポックは飽きたように言った。あきるのはええな。


「いや、しかし昼前に見たのより小さいな」


 半分くらいか。いや、もっと小さいな。

 その小さな浮島は、リーフ市の中心地から北上していく。


「こんなに頻繁にくるなんて、リーフでもめっちゃ珍しいよ」


 とリオナは紅茶を上品に飲んだ。見た目や口調は置いておいて、なんやかんや育ちがいい。

 浮島が太陽を完全に隠すと、辺りが夜のように暗くなる。

 間もなく、街は少しづつ明るさを取り戻していく。

 黒い影が、上空を舞っている。鳥か?いや、動きが不規則だな。


「なんだ、ありゃ」


 ポックが立ち上がる。

 ゆっくりではあるが、その黒い影は、こっちに下りてくる。

 その黒い影、布だ。大きな布が、ひらひらと不規則に舞っているんだ。その上に、人が乗っている。空から人って、どこのファンタジーだ。しかし、不安定で今にも落ちてきそうである。


「お、おおおおおおおおよよよよよ」


 とその布にのった人間が、声を上げている。


「おい、こっちくるぞ!カイ、なんとかしろ!」


「ちょ、やばいってまじ。カイ、受け止めるっしょ」


「カイ、受け止めなさい!」


「カイ、頑張れ!」


 俺かよ。リュウドウがいれば、なんて言ってられない。

 空から、揺れながらも、布とその主がゆっくりと下りてくる。

 すとんと受け止める。思ったよりも軽い。

 空から落ちてきたのは。


「ひょっひょっひょ、助けてくれたのはどこの勇者様だい」


「いや、俺は勇者じゃないですけど」


 小さな老婆であった。リュックサックを背負った。ボーイミーツおばあちゃん。青春ラブストーリは始まりそうにない。


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