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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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浮島にうきうきする。

「泊まりの許可とった!?」


 今日の訓練を終え、闘技場にて、リオナが興奮気味に訊ねた。


「おう、みんなとったぜ!明日はどこにいきゃいいんだ?」


 ポックが問うた。


「店番あるから、15時ぐらいにウチの家きて。後で地図渡すから!」


 とリオナは「じゃ、明日ね!」と駆けていった。店の仕事も祭りに向けて忙しいらしい。にしても、ポック、シュナ、ロゼにチョウさん、ロロにリュウドウ、俺。7人というそれなりの大所帯である。「余裕っしょ」とリオナは答えていたが、かなり家がでかいのか。よくよく考えれば6番街に店を構えている時点で金持ちか。

 夏真っ盛り。訓練内容にガルイーガやペンダグルスとの実践が増え、身も心も引き締まる。が、祭りは祭り、そして俺たちはまだまだ学生なわけである。明日からは5日間の夏休み。ふふふふ、この長い休み前の高揚感よ。しかし5日間だけか。

 次の日の朝、俺は剣と盾を携え、闘技場へと向かっていた。休日初日なので、誰もいないはずである。まあ、いるとは思っていたが。


「カイ、おはよう!」

 

 ほとばしる汗。


「ああ、おはよう、シュナ」


 シュナの額には汗がにじんでいる。

 さて、いつもの休日のスタートである。

 夏は熱いが、室内は本当にサウナのように熱い。一通りの基礎訓練を終え、シュナの型を座り込んで見る。ついつい見ほれてしまう。なんというか、型というより、舞のように美しい。剣の軌道、体のしなり、流れるような動き。これだけでお金がもらえそうである。


「シュナ、早く!カイも!浮島が通るよ!」


 赤い髪の毛は夏の熱さでさらに赤く見える。いや、まあ自分でも何を言っているんだという感じだが、ロゼである。


「浮島!?いくいく!」


 シュナが型を止め、走り出した。体力も底が知れないな。


「カイも、早くいこ!」


 シュナのことばに、重かった体が軽くなった。腰を上げ、闘技場を出た。


「こっちが見やすいぞ!」


 ポックが、中庭の開けた場所にいた。


「ロロとリュウドウは一緒じゃないのか?」


「デメガマに蜜やりにいった。んなことより見ろよ!」


 空に島が浮いている。そこまで大きくないな。直径1キロぐらいだろうか。


「すごいわね!島が浮いてる!」


 ロゼが、興奮気味に言った。


「本当にすごい、本でしか知らなかった」


 シュナが、戦闘関連以外で珍しく感動している。ポックがうんうんと頷き


「俺もだ。『オルウーグの冒険日誌』な。子どもの頃わくわくして読んだよなあ」


「あ、私は『勇者カギロウと空の戦い』だったりして」


 と控えめにシュナが言った。


「童話じゃねえか!シュナ、『オルウーグの冒険日誌』を読め。これは読了の価値ありだ。浮島だけじゃねえ、砂漠の地ハザンドラでの冒険はそりゃあもうわくわくどきどきで」


「『オルウーグの冒険日誌』も児童向けの本だろ」


「カイよ、批判は許さんぞ?大人でも充分楽しめるんだよ」


「児童向けはわかりやすいように現代語訳されているね。って言っても現代語訳版も50年前のものだけど。原書を読めばもっと時代の背景や文化、登場人物の心情に迫れる。ちなみに、原書のタイトルは『日誌』のみなんだよね。ポックくん、もちろんファンなら原書も読んだんだよね?」


 得意げにロロが現れた。後ろにはリュウドウもいる。


「よ、読んでねえよ。でも、『オルウーグの冒険日誌』は、それでもう完成されてんだ!原書なんていらねえ」


「そんな横暴な。原書あってのそれだよ。もうひとつ、主人公のオルウーグ、つまり日誌の書き手は、かの名宰相、グウォールだと言われている」


「は?そんなわけ。あ」


「そう、オルウーグは並び替えるとグウォール。日誌の主は不詳ということになっているけど、書かれた時代や日誌の主の行動から考えても、グウォールでほぼ間違いない。翻訳者が面白がって児童向けのタイトルにオルウーグという名前を入れたんだ」


「あらポック、知らなかったの?結構有名な話よ」


 ロゼにまで言われ、ポックは悔しそうに唇をかんだが、次の瞬間には「一つだけ間違いがないことをいってやる。この本を読んで一番感動したのは俺だ!」と開き直った。

 にしてもグウォールってのは500年前ぐらい名宰相だが、たしかもともとは占星術師もしてたんだよな。冒険家で占星術師で名宰相で、多彩すぎる。昔の人ってのは、すごいな。


「久しぶりだな、見るのは」


 リュウドウが空を見上げ、ぽつりと言った。「そうだな」と俺は答えた。


「なんだ、お前らは見たことあるのか?」


「ああ、ポック。クノッテンは浮島の周回軌道にあって、浮島の商品なんかもそのときにだけ出回ってたな。それでも一回しかみたことなかったが」


 懐かしいな。街の広場で親父に肩車をしてもらった覚えがあるが、遥か上空にある浮島を見るのにわざわざ肩車してもらう必要もなかったな。ただ単に肩車してほしかっただけか。

 大きな影が中庭を覆った。浮島が真上にある。


「い、岩とか、落ちてこないよね?」


「大丈夫だ、ロロ。魔法で落ちてこないようになんかしていたはずだ」


 って、お袋が昔言ってた。気がする。

 轟々という音とともに、ゆっくりと浮島が通過していく。

 風が中庭の木々を揺らす。


「もういいか」


 とポックは飽きたように言った。


「ご飯でも食べて、リオナの店に向かいましょう」


 ロゼのことばに、だらだらとみなが歩き出した。

 にしても、今日は熱いな。

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