どうしてもお尻から入れたい。対モンスター実践演習2
「おいリュウドウ。お前の親父さんはペンダグルスを一撃で倒したらしいぞ」
と俺が言うと、リュウドウはさっと顔を上げ「先生」と木陰から出た。
「リュウドウか。いいだろう。ペンダグルスの特徴は上げられるか」
「はい。でかくて、速いです」
「リュウドウ、力だけではやっていけないぞ。誰か、答えられるものは」
はい、とロロが立ち上がる。
「ペンダグルスは、普段は二足歩行ですが、移動するときは基本的には四足歩行です。熊に近いですが、それよりも大きく、そして毛が薄い。しかしその赤黒い肌はごつごつと固い。鼻が一番の弱点ですが、その鋭い爪を使って守ってきます。また、右腕がより発達しています。突進力はガルイーガほどではありませんが、パワーと横の動きの素早さはガルイーガを上回ります。ガルイーガが10頭以上の群れで行動することが多いのに対して、ペンダグルスは2頭から4頭ほどの群れで行動、時には単体でいることもあります。戦い方としては、隙を作って鼻を打つ、です」
「特徴は100点だが、戦い方が30点だ、ロロ。まず、基本的にはペンダグルスとは一対一は避けろ。仲間を呼べ。遠距離と近接で隙を作り、あわよくば鼻を狙え。一人で対応するなら、左側を狙え。正面から立ち向かうな。スピードは劣るがその突進力はガルイーガをも上回るし、右腕は俊敏に、力強く動く。なぜかペンダグルスは右腕、右肩が異様に発達している。左は比べて動きが鈍い。まずは左側に周り、左腕を狙え。片腕の状態にまで弱らせる。そうすれば、一対一でも戦える。さあはじめるぞ。ケイ、頼む」
「はいさ」
とケイ先生が、地面に手をつき「プレイドッフ、ペンダグルス!」と唱えた。土が盛り上がり、土ペンダグルスが現れる。リオナが、土ペンダグルスの肛門に、加工したブラックボールを入れる。土ペンダグルスが、正面にいるリュウドウに向かって四足歩行で走り出す。ガルイーガほどの速さはないが、それでもあの巨体から考えればかなり速い。
リュウドウは、チョウデッカイケンを構えると、土ペンダグルスに向かって走り出した。
「馬鹿、なに正面から行ってんだ!」
俺の叫びも虚しく、リュウドウは、「うおおおお」とチョウデッカイケンを振り上げ、高くジャンプする。土ペンダグルスは、素早く前へ飛び込むと、リュウドウが剣を振り下げるよりも早くリュウドウののど元へ右手を伸ばした。リュウドウののど元にペンダグルスの右手が届く、その寸前、土ペンダグルスが、ばらばらと崩れていった。
「リュウドウ、実践なら死んでいたぞ。どういうつもりだ」
グラス先生が、リュウドウに言い放った。
「親父が、一刀両断したと聞いて」
とリュウドウは答えた。
俺がさっき余計なこといったからか。
「はあ、まずな、お前とリュウケンさんではまだまだ天と地ほどの差がある。それにな、リュウケンさんもペンダグルスを正面から切ったんじゃない。巧みに左側へ回り、一刀のもとに左袈裟から切り倒したんだ」
「そうでしたか」
「そうだ、精進しろ。勉学もな。まず敵を知れ」
「はい」
リュウドウが、一度頭を下げ、木陰に戻ってくる。
「馬鹿かお前は」
「カイ、モンスターは、速くて強いな」
「わかってるよそんなことは。しかもあれはまだ土人形だぞ」
「ふむ、ふふふ」
とリュウドウは小さく、奇妙に笑った。
「おいおい、大丈夫か」
「親父を超えるのは大変だと思ってな」
とリュウドウはチョウデッカイケンを強く握った。興奮しているのか、いつもよりも多弁である。
グラス先生が、再び話し始める。
「本物はもっと威圧的で、凶暴で、ときに群れの連携を使ってもくる。死と隣り合わせの中、思考も体も思うようになるまい。もちろん、訓練で対峙するのはケイの魔法で作られたものなので偽物だ。しかし、やはり実践を想定した訓練は必要だ。訓練で、何度も何度もガルイーガとペンダグルスを想定した戦いを繰り返す。そうすれば、実践で、セカンドネイチャーとして、本能的、反射的な動きが少しでもできるようになる。幾度もシミュレーションし、訓練に挑め。その度に足りない部分を見つけろ。そして、鍛えろ。常に反省し、次に生かせ。ここからが、本当の勇者になるための訓練だ」
ややだらだらモードだった生徒たちの顔が、引き締まる。そうだ。学校を出るまでに、モンスターを倒せるレベルまで自身を高めなくてはいけない。ガルイーガは単体で見た時、モンスターのなかでも一番戦いやすい相手だ。そのガルイーガにさえ、俺は恐怖で動けなくなっていた。もっと強い、さらに上、そして、魔王がいる。10年前、光の先にいたはずの真の勇者を探すためにも、強くならないと。
汗を拭い、虫の音の五月蝿い木陰を出る。
虫取りは、もうとっくのまに卒業した。




