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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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見覚えのある、ちりちり頭の男に声をかける。

「事情を、聞かせてほしい」


 ロロが、神妙な面持ちで訊ねた。

 うん、とリオナは、クルテの過去から話し始めた。

 意外にも、小さい頃いじめられていたクルテ。その原因は同級生より小さかった体と、その魔法のせいであった。テレパス、つまり、思念をとばせる、というのがクルテの魔法である。しっかりコントロールできるようになるまで時間がかかったらしく、クルテの思念が勝手に漏れ出てしまうことがあったという。心を閉ざしていた少年期であったが、そんなクルテにも、リオナ以外に仲良しの子がいたという。


「小さい頃のクルテにも一人だけ仲良しの子がいた。テレパスのことも気にしない、とっても優しくて明るい子。私も大好きだった。あるとき、色々あってその子がいなくなっちゃって。それから何年かして、クルテはバゴンバリオの中区に住むルゴスってやつとつるみだした。盗みだのいじめだの、いろいろしてた。その頃にはテレパスもコントロールできるようになってたし、体もでかくなって、剣も魔法もリーフ市では一番だった。あいつ、まじで調子に乗ってたね、あんときは。でも、勇者学校に入学するために、バゴンバリオの連中と縁を切った」


「そんなにやべえのか、バゴンバリオのやつらは」


 ポックが訊ねた。


「まあね。まだつるんでるってなると、最悪退学させられるかもね。それでまあクルテからはバゴンバリオのやつらとつるむことはなくなったんだけど、最近になって向こうがアプローチしてきた。あの黒いパーカーのやつもたぶんそう。遂にはウチまで狙われて、クルテもかなり焦ってた。それで、あいつの様子が今日おかしかったから、ちょっとつけてたわけ。じゃあ案の定バゴンバリオのほうに行くから、やっべまじかよと思って、親に言うか先生にちくるかなんてウチに似合わずあたふた考えてたけど、それしちゃうと」


「退学の可能性もあるってわけか」


「そうなの、ポック。あいつにも、あんないじめっ子にも、果たさなきゃいけないものみたなんがあって、退学だけは避けてあげたい。さすがにウチ一人でバゴンバリオに向かうのはやべえって思ってたんだけど、あんたら助けてくれるならまじ感謝」


「俺らはいいけどよ」


 とポックは俺を見た。うむと俺は頷く。


「私も、リオナの力になれるなら」


「シュナ、ちょー好き!」


 とリオナがシュナに抱きつく。

 ロロは、俯いている。表情が読み取れない。


「ぼ、僕も、うん、行く」


 とやや振り絞ったように、ロロが言った。ロロはクルテにいじめられていたわけだから、なかなか複雑である。


「ロロ、色々あったし、無理をしなくてもいい」


 俺が声をかけると、ロロはぎゅっと拳を握った。


「ごめんね、ロロっち」


 リオナが謝る。ロロっちって呼んでるのはこいつだけだ。


「どっちにしろ何かあったときに一人は残らなきゃやべえだろ。ロロはここで待機でいいじゃねえか。門限までに戻れなければ、学校に連絡してくれ」


「ポックくん、そ、そうだよね、僕じゃ行っても力になれないし」


「うじうじと馬鹿かお前。この前の試合見てんだよ俺らは。お前が戦力外なわけねえだろ」


 ポックが厳しくも優しい言葉をかけると、「ほ、本当に?」とロロが俺を見た。


「ああ、そもそもポックはお世辞を言えるようなやつじゃないしな」


「言えるわ馬鹿。とにかく、ロロは残れ。それが最善だ。八時になっても俺たちが戻らなかったら、学校に報告。オーケー?」


「オーケー!」


 とロロが答えた。


「出発前に、ルゴスとその周辺のやつらについてなんかしってることはないのか?魔法とか」


 俺は問うた。


「あの黒いパーカーは、クルテがルゴスたちと距離を開け始めたときに、バゴンバリオに現れた。だからよく知らないんだ。でも、ルゴスの魔法はなんとなくなら知ってる。あいつは、洗脳みたいなことができる。人の心を操る。人の悪い部分を表に出すっていうのかな。詳しくは、わかんないんだけど」


 面識があるんだな。しかし、珍しくリオナが暗いトーンで言ったので、あまり詳しく聞かない方がよさそうだ。洗脳、人の悪い部分を表に出す、か。かなり強力な魔法だが、簡単にかけられるようなものではないはずだ。とにかく近づきすぎるのはよくなさそうだな。


「タイムリミットは、5時間弱だね」


 とシュナは立ち上がった。

 バゴンバリオ。鉄の壁。大きな牛のような生き物。そのそばにいた男、ルゴス。そうだ、再びあそこへ向かうんだ。途端に、不安感がこみ上げてくる。このまま、ぽんぽんと話を進めて大丈夫か。だれか、ストップをかけた方が、いいんではないか。


「カイ」


「え、ああ、なんだ、シュナ」


「今度は対戦相手じゃない。仲間だね」


 シュナがにっこりと笑った。

 ほっと息をつく。シュナが味方か。こんなにも心強いことはないな。


「急ぐぜ、お前ら」


 ポックを先頭に、店を出る。

 相変わらずの6番街の喧噪に、初めて安心感を覚えた。


ーーーー

「この前よりも人多いね」


 どぶ川にかかる橋を渡りながら、シュナが言った。


「バゴンバリオのやつらも商売があるから、日中の行き来は結構あるね。でも、夜が近づくと一般の人は近づかないよ」


 とリオナが答えた。

 しかし、相変わらず臭いし道が汚い。裸足で子どもたちがかけていく。着ているシャツは、どれも薄汚れている。橋を渡り、バゴンバリオに入った。ぼろい家がぎゅっと詰まったように並んでいる。明らかに病気を持っているだろう犬が、舌をだしてだるそうに歩いている。大きな黒い鳥が、上空に飛んでいた。空は変わらず奇麗である。


「見られてんな」


 ポックは、歩を緩ませずに言った。

 小さな子どもをだっこしているおばさん、半裸でじっと座ってるおっさん、道行く若いにいちゃん。みんな、じっと見ることはないが、明らかに俺たちを警戒していた。


「まあ、とけ込むのは無理っしょ。クルテはたぶん中区にいるんだけど、さて、実はこっから無策だったりして」


「って、まじかよ!」


 とポックが驚いた顔でリオナを見た。「てへてへ」とリオナはわざとらしく頭を掻いた。

 数人のおっさんたちが、道路の向こうでたむろしている。その中に、見覚えのある、頭がちりちりの男がいた。


「あいつって、たしか」


 と俺が指差すと、ポックが反応し、「おお、そうだ、ロゼの魔法でやられてたちりちりだ。おーいおっさん」と知り合いのごとく、おっさんグループに向かって手を振る。しかし、向こうはまだ気づいていない。


「おい、大丈夫か」


「お前は心配性だな、カイ。どっちにしろ策がねえんだ。おーい、おっさん、覚えてんだろ!?」 


 とさらにおっさんたちに声をかけ、近づいていく。

 ちりちりの男は、俺たちに気づき、ぎょっと目を見開く。


「おい、覚えてんだろ!」


 なおもポックが声をかける。

 おっさんたちは、俺たちを睨んでいる。ちりちりの男は、一人目を逸らす。


「無視かよ!下の毛もちりちりにすんぞ!」


 おっさんたちが、「なんだこの糞ガキども」と立ち上がる。が、ちりちり男が、「まあ、待て、やめとけ」と制し、渋々俺たちの方によってくる。


「なんだよ、もうこんなとこにくんじゃねよ坊ちゃんたちがよ」


 と小声で悪態をついた。


「まあ、いいじゃねえか。で、バゴンバリオの中区にはどうやって入るんだ?」


「ば、馬鹿かお前ら?中区でなにしようってんだ」


「ちりちりには関係ねえよ。俺たちを案内すりゃあいいんだ」


「中区なんざいくもんじゃねえよ。闇だぞありゃあ。お前は見たところリール市うまれだろ。ちゃんとこいつらに教えてやれ」


 とちりちりはリオナを見た。


「わあってるっての、やばいのは。でも知り合いが中区にはいっちゃったからしょうがないじゃん」


 とリオナはだるそうに答えた。


「なんなんだよ年下のくせに!」


「バゴンバリオみたいな街でも年齢きにすんのか?」


「気にしねえよ、うっせえちび!」


「ちびは余計だ、ちりちり」


 とポックはちりちりを蹴った。


「俺はスチュアートだ!名前で呼べ」


 ちりちりも、立派な名前を持っていた。

 ちりちりスチュアートの背後から、柄の悪いむきむきのおっさんが現れる。


「おいスチュアート、どうした?手伝うか?」


「な、なんでもねえよ、マイケル」


「ちりちり、早く教えろ」


 ポックのことばに、むきむきのおっさん、マイケルが「ちりちり?」と反応する。

「なんだ、知らねえのか、こいつの髪の毛、この前ロゼってやつの魔法で」

「あああ、なんでもねえ、とにかく、俺はこいつらに話があるんだ。またな、マイケル。おい、行くぞお前ら」

 慌てたちりちりが、俺たちをせき立て、歩き出した。


「頭が燃えたこと、黙ってた方が良かったのか?」


 とポックが小声で訊ねた。


「うるせえ!黙って歩け!」


 ちりちりは、怒りながらも、俺たちを家に連れて行ってくれた。川沿いの、そこそこ大きな家であった。


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