テスト前の実践演習 リュウドウVSクルテ
「リュウドウ、クルテ、最後はお前たちだ」
グラス先生のことばに、二人が立ち上がった。
もう一人の化物である。
「リュウドウくん、頑張って!」
ロロの応援に「おう」と答え、リュウドウが階段を下りていく。
「クルテ、ちょっとは頑張ってよマジで」
リオナのことばに、クルテは舌打ちすると、闘技場へと下りていった。
向かい合う二人。最初の剣技演習以来なので約3ヶ月ぶりか。あのときはクルテがリュウドウの威圧感に押され、何もできずに終わったが。リュウドウの武器は、チョウデッカイケン一振りである。プラス、俺と同じように、棒手裏剣を両手首に巻いている。大盾も使ったりしていたが、今日はもってきていないな。戦闘スタイル自体はさほど変わっていないが、明らかに魔力コントロールが上手になり、以前よりもスピード、パワーが各段に上がっている。対してクルテは、全く俺と同じ変遷を辿っている。もとは大剣一本であったが、片手剣と中盾になった。3ヶ月同じ演習を受けて思うが、クルテはオールラウンドに優秀で、基本に忠実な優等生といった感じである。性格とは正反対であるが。
「初め」
グラス先生の声とともに、二人が構える。
クルテは、やはりがんまちだ。生徒たちはしらけているが、わかるぞクルテ。これしかないんだよ強者相手には。
リュウドウは、いつもと変わらずというか、じりじりと距離を詰めていく。こいつクラスになると、がんまちとの戦いにも慣れているだろう。
リュウドウが、踏み込む。その直前に、クルテが盾を構え、体ごと突っ込んだ。剣と盾のつばぜり合いのようになる。「おりゃあ!」と珍しく感情むき出しのクルテが、右手に持った剣でリュウドウの腕を狙う。リュウドウは、無理矢理盾を払いのけ、後ろへ下がる。珍しい。というか、リュウドウが後ろへ下がったのを初めて見た。
リュウドウは、息つく前に、棒手裏剣を投げた。クルテは、盾でそれを受ける。リュウドウが間合いを詰め、「ふんっ!」と上段からチョウデッカイケンを振り下ろす。クルテは剣で受けるが、力で圧され、腕ごと弾かれる。剣が、クルテの手から離れ、地面に落ちる。間髪入れず、さらにリュドウが打込んでくる。クルテの盾とリュウドウの剣がぶつかる。いや、クルテが盾の角度をずらし、うまくリュウドウの剣をいなした。クルテは腰に差していたナイフを抜き、やや体勢の崩れたリュウドウに切り掛かる。リュウドウはそれを棒手裏剣の巻かれた左手首で受ける。クルテは距離を取ると、ナイフを投げた。リュウドウの頬をかすめる。
「くそっ」
とクルテはさきほど弾かれた片手剣を拾う。
仕切り直しだが、生徒たちは「おおお」と息をついた。クルテ、三ヶ月前とはまるで別人である。盾の扱いも、俺より格段にうまい。そして、なにより、気迫が違う。
「強くなったな」
リュウドウがぽつりと言った。
クルテは、舌打ちで返した。
じりじりと、互いが様子を見る。
リュウドウは、一度息をつくと、チョウデッカイケンを地面に向けた。空気がぴりつく。さっきまでとは、明らかに威圧感が違う。こいつ、身体強化魔法使わずに戦っていたのか。
クルテは盾を構えている。まだ二人の間に距離がある。
「はっ!」
リュウドウは、かけ声とともに、チョウデッカイケンを思いっきり振り上げ、地面に突刺した。石畳がまるで薄い氷のごとく、クルテに向かって割れていく。クルテはとっさに左へ避ける。
「上!」
とリオナが叫んだ。
クルテが、その大きな陰を見上げる。
リュウドウが、あの巨体が、シュナやチョウさんほどではないが、高く跳んでいた。その落下の衝撃を乗せて、クルテのすぐ手前の地面に、チョウデッカイケンをそのまま突刺した。再び地面が割れると、クルテはその反動で吹っ飛ばされる。
「それまで!」
とグラス先生が戦いの終わりを告げた。
はあああ、と生徒たちが息を吐いた。クルテも強かった。が、やはりリュウドウは化物である。
「演習はこれまでとする。各自散開。しっかり勉学に励み、明後日より始まるテストに備えよ」
グラス先生が言い終わると、タイミングを見計らったかのように、チャイムが鳴った。
興奮覚め止まぬ生徒たちも、散り散りに去っていく。
「リュウドウ、お前壊し過ぎだろう」
一番の被害者は闘技場である。石畳がめちゃくちゃに割れ、地面がぼこぼこだ。
「うむ。手強かったからな」
とリュウドウは答えた。
「やめろ、いらねえ」
とヒールをかけようとしたリオナを、クルテが払いのけ、闘技場をでていく。
「なんなのあいつ」
とリオナは悪態をついた。
「そういえば、クルテってダブルだって聞いたが。魔法はなんなんだ?」
ポックがリオナに訊ねた。
「身体強化と、もう一つはテレパス。あと、特殊魔法で五感共有みたいなことできんだよね。まあ戦闘に関係ないもんだから本人は嫌がんだよね、知られるの」
「テレパスか。思念を飛ばせる、的な感じか。五感共有ってのはなんだ?」
俺は、リオナに訊ねた。五感共有。初めて聞く魔法である。
「そっちはね、あいつの視覚聴覚嗅覚を他の人と共有できんのよ。あんま距離あると無理だけどね」
使い用によっては便利な気がするな。しかし、本人の性格と相反してか、補助的な能力である。にしても。
「クルテのことよく知ってるな、リオナ」
「え、ああ。親戚だしね。それに、あいつも魔法のせいでかなり苦労したかんね」
とリオナは遠い目をした。
テレパスは、制御するまでに時間がかかると聞く。うまくコントロールしないと、思念が勝手に他人に飛んでしまうのだという。身近にはいなかったが、その手の苦労話は聞いたことがある。
空腹を叫ぶお腹の音がした。リュウドウの。
「飯食いにいくか」
とポックが、リュウドウの肩をぽんと叩いた。
リュウドウは、無言で頷いた。
「試験勉強もしなきゃだね」
ロロはにっこり笑った。
試験は明後日から二日間ある。なんでも、点数の悪いものは補習があるらしい。そりゃそうか。




