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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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テスト前の実践演習 シュナVSカイ

「次戦、シュナ」


 とグラス先生が名前を呼んだ。

 駆け足で、シュナが闘技場へ向かう。学校終わりに友達の家へいくかのように。


「相手は、カイ」


 俺かよ。


「カイかよ」


 とポックが肩を落とした。


「なんでお前が残念がるんだ」


「みんなシュナとリュウドウ戦が見たいに決まってんじゃねえか。ちょっとは善戦してこいよ」


「お、お前というやつは!勝ってやるよ!」


 と気勢を吐いたはいいものの、突飛な戦術は思い浮かばない。休日に一緒に特訓してるからこそ、勝てるビジョンが沸かない。


 さて、どうしよう。


 シュナと向かいあう。


「初め!」


 とグラス先生の声が響く。


「行くよ、カイ!」


 本当に、戦いになると楽しそうだなこの戦闘狂は。


「やってやるよ!」


 と気勢をあげながらも、俺は盾を構え、シュナの様子を伺う。


「ブー、ブー、向かってけこらー」

 

 観客席から声が。どこの糞野郎だそんなこというのは!ポックだ!

 まあしかし、観客には悪いが、格上と戦うには待ちだ。シュナの手の内も知っているので、守りに集中すれば、受けるだけなら難しくない。はず。

 シュナは、大剣、といっても比較的小さめのものを一振り、チャクラムを両腕に2つずつ、そして、大盾を背中にしょっている。

 俺のガン待ちの様子を見て、シュナは大盾をおもむろに持ち


「ええい!」


 とブーメランのように投げた。


「まじか!?」


 どこにそんな力があるんだ。

 なんとか右へ跳び、避ける。間髪入れず、チャクラムがとんでくる。盾で弾く。視線を戻すと、目の前にシュナがいた。はええよ。剣で切り掛かってくる。これもなんとか盾で防ぐ。


「ぐほお」


 右脇腹に衝撃が走った。軽く飛ばされる。シュナの左足に蹴られたのだ。


「もう終わりか!馬鹿!」


 ポックの声が聞こえる。うるせえやつだ。

 立ち上がり、右脇腹にヒールをかける。策は、実は全くないわけではない。シュナにも、隙はできる。その隙を作り出すためにも、再び盾を構える。

 チャクラムが飛んでくる。剣で弾く。すぐに、シュナが切り掛かってくる。二撃、三撃と、盾で受ける。


「受けが良くなったね、カイ」


「本当に、天才ってのは」


 とロゼと同じセリフになるのでやめよう。ていうか、てめえら天才が攻撃的だから、どうしても受けから考えちまうんだよ!

 先の戦いで地面にへばりついたポックの靴があった。それを中心点に、じりじりと円を描くように互いに様子を伺う。とにかく、勝つためにはシュナの特殊魔法を引き出す必要がある。

 チャクラムが飛んでくる。ぎりぎりのところで避ける。きらりと、細い線が光った。シュナの手から、今避けたチャクラムへと繋がっているーーー

 シュナは、チャクラムを放った手をくいっと手前にひいたかと思うと、すぐさま剣を構え、俺に向かってくる。

 やべえ。

 向かってくるシュナに盾を投げる。背後から戻ってくるチャクラムを、なんとか空いた左手首で受ける。手首に棒手裏剣が巻いてあるとはいえ、左腕が弾かれる。強い衝撃。痛え。

 盾を避けたシュナが、切り掛かってくる。俺は、片手剣を両手で持ち、なんとか受ける。シュナは一歩後ろへ下がると、大きく息を吸い、身を低くした。

 ぶわりと、威圧感が増す。来る。

 俺は、前に飛び、さっき投げた盾をなんとか拾う。

 シュナが、とてつもない速さで切り掛かってくる。二度、三度と、盾でなんとか受ける。さっきよりもパワーも違う。弾かれそうになるも、なんとか耐える。

 剣撃が止んだ。シュナがいない。時はだいたい。視認している時間はない。俺は、右手に持った剣を適当に上に上げた。剣がぶつかる。右手に衝撃が走る。シュナは、跳ぶのが好きなのだ。

 シュナが着地し、息を大きく吐き、膝をついた。

 ここだ!

 ポックの靴が線上にあった。最短距離で、シュナとの距離を詰める。シュナは、肩で呼吸をしている。

 勝てる。

 シュナが、過呼吸になったかのように、ハッと再び息を止めた。瞬間、ぞわりと背筋が凍る。なんだ、何かがくる。しかし、もう俺は止まんねえぞ!

 俺は剣を振り上げている。ポックの靴が見えた。その先に、シュナが、いたはずだった。一瞬の出来事。シュナが、消えた。本当に、消えたかのように見えた。


「い、いてててて」


 切り掛からんと剣を振り上げていた俺の足下で、シュナが前のめりで倒れていた。

 ポックの靴がへこんでいる。


「それまで!」


 グラス先生の声がこだました。

 おおおと歓声が上がる。下克上だ。ジャイアントキリングだ、と。

 遠目からでは見えなかったのか。シュナは、確実に消えたのである。そして、気づいたら目の前でこけていた。俺は何もしていないんだが。


「カ、カイ、ごめん、ヒールお願いしていい?」


「ああ」 


 とその場でシュナにヒールをかける。こけた傷にではない。全身の筋肉が張っている。シュナに肩をかし、階段へと向かう。


「もっと頑張らなきゃ。カイは強くなったね」


「いや、ポックの靴がなければ負けだ」


「あそこに誘導したのはカイの実力」


「たまたまだよ。てか、最後のは何だ?まだ一段階隠してる?」


「いや、隠しているわけではないんだけど、いてててて、今みたいに、本当に体の負担がきつくて」


 いやいや、まじで見えなかったぞ。そりゃあ体の負担もでかいか。


「上に上がったらもっかいヒールするよ」


「本当?カイはやっぱり優しいね」


 とシュナはにっこりと笑った。

 天才というか、化物の部類である。小さい頃に天才だと一時的にでももてはやされていた自分が恥ずかしくなる。


「なんだ、シュナが消えたように見えたが」


 席に戻ると、ポックが言った。こいつの視力なら見えてもおかしくないか。


「そうだよ。お前の靴で勝手にこけたんだ。お前のおかげだよ」


 と返した。


「まあ、よかったじゃねえか。思ったより面白かったぜ。その前の攻防はなかなか見応えがあったしな」


 俺は防御しかしていないんだがな。チャクラムを受けた左手首が、ずきりと痛んだ。ヒールかけとこ。


「リュウドウ、クルテ、最後はお前たちだ」


 グラス先生のことばに、二人が立ち上がった。

 もう一人の化物である。


「リュウドウくん、頑張って!」


 ロロの応援に「おう」と答え、リュウドウが階段を下りていく。


「クルテ、ちょっとは頑張ってよマジで」


 リオナのことばに、クルテは舌打ちすると、闘技場へと下りていった。

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