テスト前の実践演習 ロロの戦い
テストが近くても演習はある。生徒たちは観客席に集合している。演習の先生方、グラス先生、レイ先生、タケミ先生、ケントさんが揃っている。それだけではなかった。扉が開くと、ヤング先生を始め、ケイ先生やリプキン先生、リプカン先生、トーリ先生までも現れた。
グラス先生が一歩前に出て、話し始める。
「入学してから約3ヶ月がたった。基礎をメインに訓練してきたが、戦闘の幅を広げる選択肢も提示して来たつもりだ。現に、戦闘スタイルを変えたものもいるだろう。今回は、剣、魔法、投擲なんでもあり、1対1形式で戦ってもらう。武器は魔造剣を使ってもらう。それぞれのオリジナル武器に合わせて用意した。また、今回は魔造剣の素材を投擲武器にも応用した。大いに投擲も使用してよい。医療班も準備している。ガチンコだ。闘技場内の階段、障害物、石像、なんでも利用して構わん。対戦相手はあらかじめこちらで決めてある。早速だが、始める」
空気が引き締まる。全員が、グラス先生の次のことばを待つ。
「ロロ、シャム、二人は闘技場へ」
グラス先生に名前を呼ばれ、シャムはにやりと笑って階段を下りる。弓矢が得意な隣のクラスの男である。長髪を後ろでくくっている。ロロとは、微妙に因縁がある。シャムは、クルテの元取り巻きの一人だ。
「大丈夫か、ロロ」
なかなか出て行かないロロに、俺は声をかけた。
「う、うん。大丈夫」
ロロの手が震えている。
俺は知っている。ロロが努力をしてきたことを。それを伝えようと口を開こうとしたそのとき、キャラに似合わず、あの男がロロに声をかけた。
「屋上で毎日剣を振った。大丈夫だロロ。強くなっている」
リュウドウのことばに、ロロは顔を上げ
「ありがとう、リュウドウくん。行ってくるよ!」
と闘技場へと向かった。
最初は俺とリュウドウだけであったが、ロロもポックも、屋上での素振り、打込みが日課になっていた。入学当初よりも格段に強くなっているはずだ。しかし、やばいな、めちゃくちゃ緊張する。自分が戦うよりもやばいぞ。頑張れ、ロロ。
「初め!」
グラス先生の声が闘技場内に響いた。
ロロは、ショートソードを構え、シャムの出方をうかがっている。というより、緊張から体が硬直しているようにも見える。
シャムのメイン武器は大弓である。距離を置くとやりづらいが。
「さて、どうすっかなあ」
とシャムは、ロロをなめた目で見た。そして、やはり距離を取り、闘技場の端にある大きな岩に身軽に登ると、大弓を構えた。高所を取られたとなるとなおやばいぞ。
余裕の笑みを浮かべ、シャムが弓を射る。
「わ、わあ」
とロロが、足下に刺さった弓にあたふたする。
「ははは、こりゃおもしれえ」
シャムがゆっくりと二矢目をつがえる。こいつ、一矢目わざと外したな。
「ロロ、何してんだてめえ!茸くわすぞ!」
とふがいないロロに、ポックが叫んだ。
「き、茸は嫌いだ!」
ロロが、大声で叫び返した。
シャムの矢が再びロロを襲う。ロロは、それを剣で弾く。
よし、とりあえず落ち着いたな。
弓矢は、出所さえわかっていればそんなに怖くない。しかし、シャムにはあれがある。
「終わりだ」
とシャムは、弓に複数の矢をつがえ上に向かって射た。シャムの得意技の矢の雨である。
そのとき、ロロは髪の毛を一本ぷつりと抜いた。
矢の雨がロロに降り注ぐ。ロロは、寸でのところで転がりながらなんとかかわす。シャムは、すかさず矢をつがえ、転がるロロを直接狙った。
「ネギリネ、助けて!」
とロロは、髪の毛を持った手を地面につき叫んだ。
なにもなかった地面から、見覚えのある根っこがにょきりと現れる。シャムの放った矢はその根に阻まれた。ロロの召還術だ。廃墟で見たときよりも随分小さいが、ネギリネの一部だろう。初めて召還術を見たけど本当に何もないところから、いや、そんなことより、ネギリネじゃねえか!なんちゅうもん召還してんだロロ。
ロロは、ネギリネを壁にしてなにやら考えている。シャムの方も、ネギリネがあったとなると何もできない。膠着状態のなか、ロロは再び髪の毛をぷつりと抜いた。その毛を地面につけ、「クリ!」と叫んだ。ネギリネが消え、名前通り栗色の、大きな鳥が現れた。召喚士めっちゃかっこいい。
「クリ、行け!」
クリは、右へ左へ不規則に飛びながら、シャムのいる岩へと向かう。
シャムは、それを射ようと弓をつがえる。すかさず、ロロがシャムに向かって棒手裏剣を放る。全くシャムには当たらなかったが、それでもゆさぶりにはなったようで、シャムの矢はクリに当たることなく空を切った。クリは、シャムをその長い爪で追いやる。
「くそっ」
とシャムは逃げるように岩から下りた。
そこに、ショートソードを持ったロロが斬りつける。
シャムも短剣で応戦する。しかし
「やあ!」
とロロの鋭い一振りがシャムの肩を打った。
「それまで!」
グラス先生の声が闘技場に響いた。
あああ、手に汗握った。
悔しそうなシャム。ロロは、なんというか、きょろきょろとしている。勝ったことに自分が一番驚いているんじゃないか。まだ実感が沸いていないのか、表情の乏しいロロが戻って来た。
「やったじゃねえか、ロロ!特訓の成果もでてたし、ネギリネなんて隠してたとはな!」
ポックが笑顔で肩を叩いた。
「強くなったぞ、ロロ」
とリュウドウは小さく頷いた。
ようやくロロは顔を上げ、「よかった」と息をついた。喜んでいるというよりは、ほっとしている感じである。
「召還士の戦い初めて見たよ。すげえなロロ」
「ありがとう、カイくん。僕なんてまだまだだよ。お姉ちゃんなんて、もっと」
と言いかけ、ロロは口を閉じた。
「姉ちゃんがいるのか」
ロロはあまり身の内話をしないので、初耳であった。
「うん」とロロは俯きながら答えた。なにか訳がありそうである。
しかし、ロロの動き、召還魔法ともに、本当に強かったな。
「ろ、ロロくん。あとで少しお話があるわ」
とよろよろと現れたケイ先生が、ロロの肩を叩いた。ネギリネがでてきて一番ヒヤヒヤしていたのはケイ先生であろう。
次の対戦が始まっている。みんな3ヶ月でこんなにも変わるのかというくらい、最初のころよりも動きがいい。次々と戦いが行われていく。今か今かと待っていたが、しかし半数を超えても呼ばれない。しかしそろそろだと思うんだが。緊張するので、早く終わらせたい。
「次戦、ポック、リオナ」
グラス先生に名前を呼ばれ、ポックは「ようやくか」と立ち上がった。




