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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ムツキの正体を追う。

「、、、王暦546年にリールウェインとロンドルフによるレッドローズの戦いが起こり、それに勝利したリールウェインが10年後に死に、さらに、モンスターの発生もこの頃と言われている。特に、モンスターの発生は世界的危機をもたらした。特に人型の脅威は凄まじかった。現在確認されているだけで5体の人型がいる。それぞれが牽制し合うように散り、人々を恐怖の底へと陥れた。しかし、そんな混乱する国をまとめ、現代に繋がる基盤を築いたのが名宰相、グウォールである。現代の聖令都市であるリーフ市、クノッテン市の防備を固め、また、モンスターによる被害を食い止めるため、王暦561年、有志参集の発布を行い、市民戦士を集めた。これが現在の勇者という職業の初まりとされている。また、晩年には初等学校を設立し、教育の普及に力を注いだ。さて、テストが近い。本学期の歴史学では、古代はさっと済ませ、我が国の転換期である中世を重点的に授業で取り扱った。テストの内容もそうなっている。では、本日はこれまで」


 チャイムが鳴った。つるっぱげで歯の黄色いリプカン先生が、教室を出て行く。


「歴史学は余裕だな。問題は、植物学だ。リーフ・ダニカの第二集までをほぼ丸暗記だぜ?無理だろそりゃ。あのぼいんちゃんは何を考えてんだ」


 ぼいんちゃんとポックが口悪く愚痴っているのは、植物学のケイ先生のことである。リーフ・ダニカとは、ルート連邦王国に存在する植物をまとめた、5000ページを超えるぶっとい本である。字もやたらと小さい。最初の著者は不明で、初版は約700年前に書かれたとされている。その時々の植物学者が改版し、現在第5版になる。暗記事項が多く、しかも俺は植物に興味が持てないという悲劇。たしかに世界を周るるなら知っておいた方がいいのだが。


「僕は歴史学よりも、植物学やモンスター学の方が覚えやすいや」


 と隣のクラスから昼飯を持ってやってきたロロが言った。


「そりゃあロロは愛しのトーリ先生がいればなんでもありだろ」


「ポックくん、君でもトーリ先生を悪くいうことは」


「わかった、わかってるよ。問題だしてやるよ。ルート連邦王国の創建時に活躍した神出鬼没の大将軍とは」


 これはさすがに俺でもわかる。


「カギロイ」


 ロロが答えた。


「人型の魔物アーズの特徴を答えよ」


 とポックはなおも続ける。


「右目に傷がある。他の人型と違い拠点を持たない。心を操り、ダマスケナを初めいくつかの国の崩壊に関わっているとされている」


「やるじゃねえか。聖女伝説で有名な、いまだ発見されていない『聖女の小島』は、どこにあると考えられている」


「クノッテンの東」とロロは、得意げに鼻を膨らまし、「今度は僕の番。その聖女伝説を広めた詩人の名前は」とポックを挑発的に見た。


「ヨハネス・ヤコブセン」


「やるね。では、名宰相と言われたグウォールだが、その最初の職は」


「占星術師だ」


「王暦200年頃に起きた地方都市ヘッセンの人々の大量死は、何が原因と考えられている」


「へ?ああ、あれだ、あの、大火災だっけか」


「残念ポックくん。ベルク山の噴火による有毒ガスでした」


「まあまてロロ、今のは凡ミスだ」


 全くわからん。リュウドウに、小声で訊ねる。


「おい、わかったか?」


「わからん」


 よかった。こいつ勉強はいまいちだったから。しかし同郷のものが一緒にアホだと、故郷のイメージが悪くなるな。さっさと飯を食ってテス勉するか。


「ロロ、うまそうなの食ってるな」


 ロロの食べている白いふわふわした饅頭が気になった。


「カイくん、これはノーエの白雪饅頭だよ。昨日物産展をしてて買ったんだ。すぐ売り切れるらしくて、ラッキーだったよ。一つ食べる?」


「いただこうかな」


 白雪饅頭を口に入れる。ふわりとした食感、甘い蜜がとろりと出てくる。


「うまいな」


「あ、俺もくれ」


 とポックも手を伸ばす。

 ロロの隣で、リュウドウがじっと饅頭を見ている。


「リュウドウくんもいいよ」


「すまないな」


 とリュウドウが饅頭をほおばる。


「まつネ、ユキ!私のマーカーラオ返すネ!」


 廊下が騒がしい。


「ゆ、ユキじゃないのです、チョウちゃん。あ、助けてカイ!」


 ユキとチョウさんが教室に入ってくる。例によって、ユキのそばにはムツキもいる。


「カイは勇者なのでユキを守ってくれるのです!」


「カイ、ユキの肩をもつネ!?」


「いや、状況が読めないんだが」


「マーカーラオ、一口だけあげるって言ったネ私!それなのに、ユキの一口は一口じゃなかったネ!」


 マーカーラオとは、チョウさんの故郷であるリョザンの蒸しパンである。一度もらったことがある。これが結構癖になる食感で、何個も食べたくなる。


「ち、ちがうのです!ムツキの分も食べなくてはと」


「え、ぼ、僕!?」


「なんでユキがムツキのぶんも食べるネ!」


 なんとかなだめなくては。安息の昼休みを取り戻すために。


「まあまあチョウさん。ユキのやることに怒っても仕方がないでしょう。って、ポックとユキが並ぶと姉妹だなまるで、はっはっは」


 背が同じである。言っといてなんだが、周りにはポックは男と認識されているんだった。


「誰がこんなバカと姉妹だ!」


「ポック、ひどいのです!あ、こ、これは、白雪饅頭なのです!?」


 ユキに見つかったか。ロロは、


「い、いいよ」


 とユキに一個差し出した。「わ、私もネ、ロロ!」とチョウさんもロロを見る。引きつった笑顔で「ど、どうぞ」とロロは最後の一つをチョウさんに差し出した。そのとき、いつもは控えめなムツキが、「待って!」と白雪饅頭に手を伸ばした。


「だめネ、私が先ネ!」


 チョウさんは最後の白雪饅頭を口に入れ、


「おいしいネ!初めてたべたネ!」


 と言った。


「ユキの故郷の食べ物なのです。すぐ売り切れるから滅多に買えませんが、お母さんに頼んでみるのです!」


「それはありがたいネ、ユキ。私もマーカーラオ、たくさんもってくるネ!」


 と切り替えの早い二人は、仲良く自分の教室へ戻っていった。

 しかし、ポックと俺、ロロは、口をあんぐりとムツキを見ていた。ユキとチョウさんは見ていなかったが、確かに、ムツキの手が白雪饅頭の入った箱をすり抜けたのである。ちなみに、リュウドウは白雪饅頭によほど感動しているのか、口のなかに残るその余韻を楽しんでいた。


「あ、ははは、僕もいかないと」


 とムツキは逃げるようにユキの後を追った。


「チョウとユキは、いつも喧嘩してるわね」


 いつのまにかいたロゼが、ため息をついた。


「寮でもね、よく言い合ってるよね。すぐ仲直りするんだけどね」


 とシュナは笑みを絶やさずに言った。待てよ。おかしいな。


「ムツキはどうしているんだ?男子寮にいないぞ」


「いつもユキのそばにいるけど」


 シュナは当然のように答えた。


「風呂のときはどうしているんだ?」


「風呂?そういえば、ムツキが入っているの見たことないわね」


 ロゼが答えた。


「ムツキって、女なのか?」


 と俺はちらりとポックを見た。こいつの逆バージョンか?


「いや、男でしょ」


「ロゼよ、じゃあなんでムツキは女子寮にいる」


「それもそうね。なんか中性的だし、ユキの保護者みたいな感じだからなにも思わなかったわ」


 いや、何か思えよ、室長。


「これは、調査のしがいがありそうだぜ」


 とポックはにやりと笑った。

 ヤング先生の正体よりは、俺も気になる。


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