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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ヤング先生の正体 

「今日からは、いつもより重い武器を使って、型の素振り、打込みを行ってもらう。ただ、今までは基礎体力を上げるためにも魔力なしでしてもらってたけど、今日は魔力を込めてもいい。身体強化魔法で、魔力と身体の動きを意識しながら型の素振りをしよう。魔力コントロールアップにも繋がる。とのこと。では、始め!」


 タケミ先生の作ったプリントを見ながら、ケントさんが言った。甲冑姿のタケミ先生は、隣でうんうんと頷いている。お風呂のときはどうしているんだろう。

 さて、型の素振りを魔力を込めて行う。少し前の休みに、グラス先生に教えてもらった訓練方法まんまである。


「カイ、なかなかいいね」


 ケントさんがうんうんと頷いている。タケミ先生と仕草が似てきたな。

 実は毎日屋上でこの訓練を行っており、周りのみんなほど苦戦しない。どこの身体を強化させればいいか理解し、そしてスムーズに魔力をコントロールし流し込む。結局反復の先に成長があるんだなあと、勝手に達観してみたり。盾を使った打込みにも、ようやく慣れてきた気がする。まだまだ実践はしていないが。

 魔力もそこそこ使ったところで、剣技演習が終わり、次は魔法演習である。こっちは毎度のごとくアルテとのランを繰り返すのだが。


「へー、カイってヒーラーなんだ」


 褐色の茶髪がよく目立つ。


「こっちのセリフだ。リオナもヒールか」


「誰?」


 アルテがリオナに言った。


「うち?今日から転入して来たリオナ。うちもヒールだからよろぴくね」


「そう」


 とアルテはなにやら落ちこんだ様子で、走り出した。


「どうしたんだろう」


「マイペースなやつだから気にするな」


「さ、二人もスタートスタート!」


 ケントさんに言われ、俺たちも走り始めた。

 長い魔法演習が終わる頃、「カイ、落ち込むな、天才ってのはいるもんだ」とケントさんに慰められる。「わかってます」と答える。久しぶりに思い出す。そうだ、俺は勇者じゃないんだ。この走ってはヒールを繰り返す訓練を初めて二ヶ月以上たったが、まさか初日のやつに軽々ついてこられるとは。


「リオナは、魔力コントロールが絶妙にうまい。ああいう天才ってのは、たまにいる。が、比べてはいけない。地道に、地道に、昨日の自分より、今日の自分。そして、明日の自分だ!」


 どS疑惑のあるケントさんであるが、こういうときは本当に優しく熱い人である。ぶっちゃけちょっとしょげていたので嬉しい。


「カイ、擦りむいちゃったのです!ヒールしてください!」


 奇麗な白い髪を揺らして、ユキがとことこと現れた。「毎度すみません」と腰低くムツキが謝る。ユキはどじなのでいつも擦り傷を作る。そしてヒールを頼んでくるのだ。


「ああ、ユキ、いいぞ、ちょっとぐらいなら魔力も」


 俺は、ことばを止めた。アルテと目があったのである。


「どうしたのです、カイ」


「だめだ、すまんユキ、一ヶ月ヒール禁止なんだった」


 アルテがにやりと笑い、ユキに言う。


「私が、20ルコでなおしてあげる」


 これが狙いか。


「アルテ!カイはいつもお金をとらなかったのです!」


「ヒールは普通そんぐらいする。友達価格で10ルコにまけてやる」


「おいカイ、さっき肘を打っちまってよ、たいしたことねーんだが、ヒールかけてくんね」


 とポックが現れた。

 アルテが俺の方をじっと見る。


「す、すまんポック、演習後は一ヶ月ヒール禁止なんだ」


 俺のことばを聞いて、アルテは満足げに頷き


「ポック、友達価格、10ルコで治してあげる」


 と言った。


「は?お前、これが狙いであんな約束を」


「何してんのみんな。ウチもまーぜて」


 リオナが現れる。


「おお、リオナ!お前ヒールだよな、ちょっと傷治してくれよ」


「あ、ユキもです!」


「いいよ〜」


 ポックとユキに、さらっとヒールをかけるリオナ。を、アルテが目を細めて見ている。今度は、ポックが

「ざまあ」とアルテを見てにやにやと笑った。すると、アルテがポックの頬をつねった。


「い、いててて、お前、なにすんだ」


「痛い?ヒールかけてあげる。10ルコで」


「誰が頼むか!」


 ポックの反応に満足したのか、アルテはにひひと笑い去っていった。この二人、よく言い合ってるのを見るが、精神年齢が近いんだろうな。いや、ポックはだいたいのやつと言い合っているか。


「ありがとうです、リオナちゃん!」


「すみません、うちのユキが本当に」


 とユキとムツキが闘技場の扉を出て行く。俺は、ムツキの足をじっと見ていた。この間、扉をすり抜けたように見えたからだ。ん?いや、勘違いか、何かおかしいぞ。目を擦る。ムツキの足が地面についていないような。


「おいカイ、何してんだ、ヤングのとこいくぞ」


「ああ、おう」


 そうだ、チョウさんの悩みを解決したのは、ヤング先生の素性をしるためだった。いまやどうでもよくて、ムツキの足が気になって仕方がないのだが。


ーーーーー

「今朝ヤング先生を見た?」


「ああ、ちらっとだが、たぶんあれはヤングだ。校舎の裏側だ」


 とポックが人気のない校舎裏へと歩みを進める。

 今朝はチョウさんの時間に合わせて随分早く登校したが、すでにヤング先生は学校にいたというのか。ちなみにロロとリュウドウはデメガマにドロ蜜をやりにいった。というか、二人はすでにヤング先生の素性など(そもそも初めからかもしれないが)興味を失っているようであった。かくいう俺も、最初ほどの熱意はもうないが。

 校舎の端、闘技場の裏へと向かう。


「もう森に入ってくぞ」


「いや、まてよカイ。なんか小道がある」


「おいお前たち、どこへいく」


 呼び止められ、俺たちは立ち止まった。恐る恐る振り返る。


「ああ、これはグラス先生。どうもどうも。帽子が飛んでいってしまって」


 とポックが答えた。その、帽子への絶対的な信頼感はなんなんだ。


「帽子がそんなに飛ぶはずないだろう。にしてもお前がそんなに丁寧な言葉遣いだと、気持ちが悪いな」


「ああ、なんだあグラス、下手にでてりゃあ調子に乗りやがって!」


「いや、グラス先生相手だぞ。下手が普通だ」


 と俺はポックを制した。


「ははは、まあいい」


「グラス先生は何処へ?」


 と訊ねる。


「私か?校長先生に用事があってな」


 はて。校長とは。そんな人いたんだな。そもそも俺は入学式に出ていないので知らないだけか。


「俺たちはこっちに用事があるんだ!文句あるか!?」


 ポックがなぜか喰ってかかる。


「なら一緒にいくか」


 とグラス先生は森の中の小道へ歩を進める。

 俺たちはとぼとぼとついていく。

 木々が開けると、木造建ての一軒家が現れた。見覚えのある白髪頭が長椅子に座ってぼけっと座っている。丸めがねがずれている。寝てるなあれは。


「校長先生」


「ん、お、グラスか。っと、我が生徒も。わざわざどうしたんじゃ」


 とヤング先生は答えた。


「あの、グラス先生。あれは担任のヤング先生では」


「そうだ、カイ。あれは、お前らの担任で、校長のヤング先生だ」


「カウンセラーも庭師もしてたぞ!役職つけすぎだろ!」


「いや、待てよ二人とも。校長先生は、大家さんでもあるな。担任で庭師でカウンセラーで大家さん」


 とグラス先生が言うと、「はっはっは、そうじゃな」とヤング先生は笑った。役職の数の割には暇そうである。いや、庭師とカウンセラーに関しては暇だからやってるのか。


「チョウの悩みは解決したぜ。で、その正体を教えてもらおうか、ヤング」


 ポックがヤング先生に詰めよった。


「大家で、庭師で、カウンセラーで、校長で、そして君たちの担任じゃ」


「わかんねえよ!」


「嘘はいってないも〜ん」


 ヤング先生がおちゃらける。おっさん、いや、おじいさんに片足突っ込んだ男がおちゃらけているのは、なんというか、悩みなさそうでいいな。


「校長先生は嘘をついていないぞ」


 とグラス先生までもいたずらっぽく言った。

 ポックは肩を落とし、


「帰ろうぜ、カイ」


 と言った。


「お、おお」


「気をつけてなあ、流星群よ」


 とヤング先生は笑った。

 一人で住むには大きな家であった。夕日に落ちたその家は、何かもの寂しさがあった。

 結局、ヤング先生は何者であったのか。


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