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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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シュナ、ゲップをする

「先生、ロゼと私を戦わせてください」


 シュナは、真剣な表情で剣を抜いた。

 おろおろとしているタケミ先生と、一方で


「ロゼがいけるならな」


 とグラス先生はにやりと笑った。

 ロゼは何も言わず、再び剣を抜いた。

 ロゼとシュナが、中央で剣を構え、にらみ合う。

 ピリピリと空気が張りつめている。


「ゲフ」


 突然、シュナがげっぷした。直前にあれだけ食べてたらそりゃあな。みるみるシュナの顔が赤くなる。しかし、それよりも顔を赤くするものがいた。恥ずかしさからではなく、怒りで。


「どいつもこいつも!学校をなんだと思ってるの!」


 と真っ赤な髪と怒りで赤らんだ顔と、とにかく真っ赤っかになって、ロゼはシュナに切り掛かった。


「ご、ごめん、今のはなし!」


 ロゼの剣を受けながら、シュナは言った。


「うるさい!」


 ロゼは、再び剣を振り上げ、シュナに切り掛かる。

 シュナはそれをいなし、後ずさる。

 おお、と周囲から声が上がる。ロゼの踏み込みの鋭さもすごいが、それをなんなくいなしたシュナもすごい。

 ロゼは距離をとり、剣を縦に構え、じっとシュナを見た。ロゼの右手中指にはめられた、赤いダイヤのリングがきらりと光る。


「火の精霊よ、私に力をーーベリサマ」


 と唱え、剣先をシュナに向ける。炎が一直線にシュナへと向かう。それはシュナの頬をかすめ、闘技場の壁を焦がした。

 シュナは、唖然と口を開けていたかとおもうと


「すごいね」


 と少年のように笑った。


「ここは遊ぶところではないの。初日から休み、休み、来たと思えば居眠り。それなのにへらへらとして。その身に焼き付けなさい」


 とロゼは俺を一度にらみ、再び剣を構えた。


「ふう、すごいね、ここは。次は、私の番」


 ロゼのおしかりもどこ吹く風、興奮気味のシュナは、大きく空気を吸い込み、姿勢を低くして地面を掴む。


「ベリサ」


 とロゼが唱え終わる寸前、シュナはものすごいスピードでロゼとの間合いを詰め、切り掛かる。

 ロゼはギリギリのところでそれを受けるが、シュナのパワーは凄まじく、そのまま吹っ飛ばされる。


「ふしゅうううううう」


 シュナは大きく息を吐き出した。


「それまで。二人とも、もういいぞ」


「ま、まってください、わ、私はまだ」


 なんとか立ち上がりながら、ロゼは言った。


「一発目、わざと外したんだよね。今日は引き分け」


 シュナがロゼに近づき、手を差し出した。ロゼはそれを拒否し、闘技場の端に座った。


「次、誰かいないか」


 グラスのことばに、誰も反応するものはいなかった。あんな戦いを見せられた後だ、そりゃそうなる。


「ったくしょうがないな。お前と、お前、はい、いってこい!」


 グラスは二人の生徒の尻を叩いた。


 シュナが戻って来た。


「強いんだな、驚いた」


「カイの敵とるつもりだったんだけど、夢中になっちゃった。あれ、カイ、もう傷治ってるんだね」


「ああ、ヒールなんだ、魔法」


 シュナの腕の擦り傷に手を当て、魔法を使う。


「本当だ。ヒールってことは聖なる魔力を持っているんだね。しかも勇者だっていうし」


「いや、勇者ってのはみんなの誤解で。しかも、勇者なのにヒールってね。それに気づいた母親が教会でいろいろと教えてくれてさ。父親はいい顔してなかったが」


「いいお母さんだと思うよ。戦士でヒーラー。じゃあ、パラディンだね」


 パラディンか。悪くないな。なんて思いながら、だらだらと試合を見ていると、途中から眠気に襲われた。虚ろのままぼんやりと試合を見ていると、ぎろりと視線を感じた。ロゼが、闘技場の反対側から俺を睨んでいた。いや、ロゼが睨んでいたのは俺だけではなかった。俺の隣でいびきをかいている、紫の髪の女が一人。まあ、シュナのことなんだが。

 ロゼは、なにやら唱えたかと思うと、剣をシュナに向けた。


「あ、あっつい!」


 とシュナが鼻頭を抑え、「な、なに!」と立ち上がった。すると、ロゼは腕を組み、闘技場に響くほど大きな声で言う。


「授業中に寝てはいけません!」


 生徒がみんな、中央で戦っていた二人までも手を止め、ロゼを見る。


「ロゼ、注意してくれるのはありがたいんだが、魔法でなく口頭でよかったのでは」


 グラス先生のことばに、「す、すみません」とロゼは真っ赤な髪の毛と同じぐらい顔を赤らめた。今度は恥ずかしさで。

 一体どういうやつなんだ。

 なんやかんやで、初めての剣技演習は終わった。

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