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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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見知った転校生現れ、チョウさんの悩みも解決する。

「はは、まあまあ、二人ともおつかれさん。とりあえずリュウドウが原因ってことがわかったんだから、なあカイ!」とポックは俺を見た。


「そ、そうだな。ははは」

 笑って誤摩化そう。

 爽やかな朝である。


ーーーーーー

「、、、『リビットデッド』などの、鳥型のモンスターと偶発的に相対した場合、特に遠距離への攻撃が不足しているパーティ編成であれば、無理に戦う必要はないでしょう。その場をしのぎ、勇者協会に情報詳細を伝えることが大切です。まずは、とにかく木や建物を遮蔽にして逃げること。鳥型は他のモンスターと違って、人型モンスターに仕えるようなことはないため、大きな危機に陥るということはないだろうと考えられます。しかし、他のモンスターと違い、群れで行動することが多いのが注意点です。おっと、チャイムですね。では今日はこれまで」 


 トーリ先生は、白い歯をみせにっこりと笑い、教室を出て行った。

 あくびがでる。今日は早起きしたので眠い。


「おい、大変だぞ、カイ!」


 こいつも早起きだったんだが、元気だな。


「なんだよ、ポック」


「隣のクラスに転入生だと」


 また俗なことでテンションがあがってるな。このタイミングで転入生は不思議ではあるが。


「動物園みたいに見に行っても失礼だろうよ」 


 と俺が言うと、ポックは「ちげえよ、俺もただの転入生なら別に騒がねえ。あいつだ、あいつ!あの飴屋の店員だよ!」


 よし、見に行こう。


 短いスカート。バンダナから覗く茶髪。褐色のギャル。紛れもない、ギャル店員である。転入生という目立つポジションで、そもそもが目立つスタイルということもあってクラスであきらかに際立っている。


「あんたたち隣のクラス?てか2クラスあんだね」


 と店員さんは俺とポックのもとにやってきた。生徒たちは、いつもよりボリュームを落とし、この目立つ転入生の様子を伺っている。


「リオナ、お前、初日から目立ち過ぎだろ」


 ポックが言った。そういえばリオナって名乗ってたな。


「ん?そう?あ、そうだ、クルテ負かしたっての誰?あいつ自分から言わないんだよね」


 と特に小声にすることなく、リオナがクラスを見渡す。ギャルってなんで周りを気にしないのだろう。クラス全体にびりっとした空気が流れる。当のクルテは、窓際の席にいたのだが、どこ吹く風で外を見ている。


「そこにいるでっかいやつだ」


 とポックは、隅っこでロロといるリュウドウを指差した。ロロのノートをリュウドウが写しているようである。


「へー、なるほどねえ」


 にやにや笑いながら、リオナがリュウドウに近づいていく。


「あんたがクルテをやったんだって?」


 ギャル特有の距離感の近さである。

 リュウドウは、そこでやっとノートから視線を移し


「やったとはいえない。魔法なしだったからな」


 といつもの調子で答えた。


「どうだった?」


「一戦のみではわからない。しかし、普段の演習を見ているとバランスがいい。強くなる」 


 剣の話になると口数がいつもより多くなる。リュウドウを擁護するわけではないが、こと戦闘のこととなると、先生なの?とも感じられる上からの物言いになるのだが、これは本人に嫌味があるわけではない。だからこそたちが悪かったりもするが、ただ思ったことを言っているだけなのである。しかし幼いときから一番だったので、謙虚さなどは微塵もない。戦闘に関しては。つまり、まあ上から口調なのである。


「ふーん、でも、クルテ倒したってのも納得じゃん」


 とリオナがリュウドウの上腕から肩にかけてぺたぺたと触れる。エロい手つきというより触診のように、だが、にしてもリオナがやるとエロく見える。

 いつの間にか、リオナの背後に、見覚えのある影があった。じっとリオナを睨んでいる。教室のなかでさえ、先祖代々伝わるという愛用武器『のんくん』を携えているツインお団子ヘアーの女。

 そのとき、のんくんがにょきりと伸び、リオナのほっぺにむにゅりとささった。


「ちょ、な、なにこれ!?」


「あ、ご、ごめんネ。ほ、ほんとうに、わ、わざとじゃないネ」


 とチョウさんは平謝りし、教室を出て行った。

 リオナは、チョウさんが出て行ったドアを見ながら、「あれ武器だよね?ちょー面白いじゃん」と言い、チョウさんを追うように教室を出た。忙しないやつだな。しかしそんなことよりも、だ。


「伸びたな、今」


 俺はポックを見た。


「ああ、伸びた」


 ポックは頷いた。

 リュウドウのそばで、棒が伸びた。うーむ。


「たぶんだけど、チョウさんじゃなくて、のんくんの方が原因じゃないかなあ」


「どういうこった、ロロ?」


 ポックが訊ねた。


「検証してみないとわからないけど、のんくん、リュウドウくんのチョウデッカイケンが近くにあるときは、なんだか様子がおかしいというか」


「様子って、武器に様子があるのか」


 と俺は問うた。


「うーん、明確にこれってわからないけど、いつもとのちょっとした違いを感じるっていうか」


 とロロは頭を掻いた。

 ロロはときどき不思議なことを言う。ネギリネのときも、不安がってるとか言ってたが、召喚士ってのはそういう人以外の心を感じることができるのか。そもそもデメガマを飼っているやつがまともなわけないか。


「善は急げだ、リュウドウ、チョウデッカイケンもってこい、チョウライを追うぞ!」


「おう」とリュウドウは立ち上がった。拒否を示せ時には。


「チョウさん俺らに怒ってるだろう、どうやって検証する?」


「ここまできたらまどろっこしいことしねえで正攻法だ。悩み解決してやんだ、応じるだろう!」 


 杜撰な作戦を立てられるよりは正面突破の方がいいか。

 教室の後ろにロッカーが並んでいる。規格外の大きさを誇るリュウドウのチョウデッカイケンだけ、特注のロッカーになっていた。リュウドウが、そこからチョウデッカイケンを取り出す。

 廊下に出る。さて、どっちへ行ったんだと悩んでいると、トイレの方から、チョウさんが現れた。リオナと談笑しながら。

 リュウドウに気づき、チョウさんはリオナの背後にすっと隠れる。


「おっす、あんたたち。あ、チョウ、隠れんなってすぐに」


 この数分で何があった。ギャルのコミュ力はどうなってんだ。


「店員さん!なんで!?」


 一組の教室から出て来たロゼが、目を丸くした。シュナも続いて出てくる。


「リオナってよんでね。ロゼにシュナだったよね?今日からよろしくう」とリオナは軽い口調で答えた。


「スカートが短すぎるわ!それじゃあ学校の風紀が」


 久しぶりに室長モードを出すロゼ。


「はい、スペシャルキャンディ、新作だよ♩」とリオナは飴を取り出し、ロゼの口に入れた。


「お、おいひいい」


「スカート短くないとキャンディ作れないの。だからしょうがなくない?」


 いや、しょうがなくはないが。

「それは、しょうがないわ!特例よ!」


 ロゼよ。上に立ったら賄賂とか普通に受け取りそうだな。というかそもそもスカートの短さは学校の規定はなかったはず。そこそこ短い生徒いるし。にしてもリオナは短すぎる気もするが。


「あ、チョウさん、この前はごめんね」


 シュナは、恐る恐る言った。昨日のチョウさんを呼び出した一件のことだろう。


「シュナは悪くないネ。どうせポックとカイがすべて仕組んだネ」


 俺もか。


「切り替えてこうぜ切り替えて。なあカイ」


「そ、そうだなポック」


 ああ、ポックと一緒にいる厄介なやつという立ち位置になっている。


「私も、ごめんね」


 ロゼが謝ると「ん?なんでロゼも謝るネ?」とチョウさんは不思議がった。ロゼがあのとき掃除用具棚に隠れていたことを知らないのだ。ロゼは、苦笑いで「ははは、いいのよ、まあ」と誤摩化し、シュナとともに購買へ行くと去っていった。


「武器が言うこと聞いてくれねえときがあるんだろ?」


 ポックが何の前触れもなく、まじめな表情で言った。

 ぱっと空気が止まる。意外にも、突然言われるとまじめな話になるものである。一瞬はっとした表情をしたチョウさんだが、観念したようにうなだれ、「あなたたち、しってたネ。そう。のんくんが、時々、言うことをきいてくれないネ」と答えた。


「今、伸ばしてみてくれないか」


 と俺は頼んだ。チョウさんは、頷くと、のんくんを持って魔力を込めた。しかし、うんともすんとも言わない。リオナが、落ち込むチョウさんの肩を抱いた。


「リュウドウ、チョウデッカイケンをロッカーに置いて来てくれねえか」


 ポックの指示に、「おう」と二つ返事で返すと、リュウドウは剣を置きにいった。リュウドウが戻ってくると、「もう一度、伸ばしてみてくれ」とポックがチョウさんに言った。


「う、うん」


 チョウさんは、再びのんくんに魔力を込める。すると、次は伸びた。


「な、なんで、どういうことネ」


「のんくんはなあ、チョウデッカイケンがそばにあると、力を発揮できないんだ」


 ポックのことばに、「なんで、そんなことが起きるネ。のんくん、なんでネ」とチョウさんはのんくんを見た。

 なんでだろう。でかすぎる武器に萎縮しているからとか?先祖代々の武器がそんなことにはならないか。


「たぶん、のんくんって、のんさんなんだとおもんだけど」


「え?どういうことネ、ロロ」


「男の子じゃなくて、女の子なのかなあと」


「そんなことはないネ!私はずっと一緒にいて、のんくんはのんくんだと」


「ロロは人間以外なら心を汲み取るのがすげえ上手だぜ」


 褒めてるのかけなしているのかわからないが、ポックが言った。


「でも、だって、棒だったから、てっきり男の子かと思ったネ。ずっと一緒にいたのに、のんくんのことわかっていなかったネ、私」


「そうだよね。棒なんだから、勘違いしても仕方ないよね」


 とよくわからない慰めことばとともに、リオナは涙目のチョウさんの頭を抱いた。いや、なんだろう、俺はそもそも武器に性別があることに驚いているんだが。


「何言ってんだ、ことばの通う人間同士だって新たな発見なんて何年経ってもあるだろう。知った気でいるほうがおかしいってもんだ」


「ポック、その通りネ。でも、そんな、なんで今まではのびてたのにネ」


「力が発揮できない理由は、チョウさんが一番わかるんじゃないかな。チョウデッカイケンが近くにいる。そのときにだけ、のんさんは伸びない。チョウデッカイケンは、たぶん、大きくて口数の少ない男の子だと思うよ。ね、リュウドウくん」


 とロロはリュウドウを見た。 


「ああ、そうか。そうだな」


 とリュウドウは答えた。


「のんくん、ううん、のんちゃんと一緒に、私も、純粋に、強さを求めるよう精神を高めるネ。りゅ、リュウドウくん、そのとき、て、手合わせをお願いするネ」


 恥ずかしげに、チョウさんはリュウドウを見た。


「望むところだな」


 とリュウドウはふっと笑った。チョウさんには残念なことかもしれないが、この笑いは恋とかどうこうではなく、単に好敵手がいることへの喜びである。

 お腹が鳴った。リュウドウの腹からである。


「はあ、とにかく良かったぜ解決して。購買行こうぜ、時間なくなっちまう」


 とポックが歩き始めた。

 めでたしめでたし。

 あれ、なんでこんなことしてるんだっけか。


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