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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
28/259

ヤング先生の指令 チョウライの悩みを解決せよ。続きの続き

 カツーン、カツーン


 鬼はすぐそばである。しかしこれは、自業自得なのである。

ーーーーー


 剣技演習にはなんとか間に合った。


「カイ、頬が腫れているぞ」


 リュウドウが言った。お前のせいだよ!いや、絶対違うな。


「なんでもねえよ」


 俺は片頬だが、ポックは両頬腫れている。チョウさんはどうも、自分が騙されたことではなく、「リュウドウくんをこんなことに使って!なんのつもりネ!」と怒っていた。優しいやつなんだな、と思いながら、頬が痛んだ。むしろ殴ってくれて助かったぜ。

 そのチョウさんだが、剣技演習にも関わらず、座学中ですら肌身離さず持っているいつもの棒を持っていない。


「チョウさん」


「なにネ、カイ」


 とチョウさんはぎろりと睨んできた。さっきの今なので当然である。


「い、いやあ、いつもの武器はどうしたのかなあと」


 チョウさんの視線が落ちる。


「のんくんは今日はお休みネ」


 と暗い表情で言った。


「のんくん?」


「私の武器ネ」


 なんだその名前は、とは言わなかった。またぶたれるだろうから。

 リュウドウの方は、相変わらずでかい剣を持っている。それで素振りや型もするんだから驚きのパワーだ。


「今日もそれか」


 とリュウドウに訊ねると「ああ。チョウデッカイケンが俺の武器だ」と答えた。そういえばそんな名前だったな、その異様にでかい武器。途端、チョウさんが顔を赤らめ「と、トイレに行ってくるネ」と演習を抜けた。

 剣技演習を終える。「もう変なことには巻き込まないでよね!」なんてロゼに突つかれながら、ロロとリュウドウ、ポックと、チョウさんの悩みがわからず途方に暮れていると、アルトが颯爽と現れた。


「お困りのしょくーん。事情はわかっているよ。チョウさんの悩みについてだね?」


「なんだアルト、なんか知ってんのか?」


 ポックが訊ねた。


「ふふふ、知ってるよ。結構前からね!」


「なんで早く教えてくれなかったんだよ!」


「いや、僕はよかったんだけど、アルテがちょっと泳がせろって」


 したり顔のアルテが、アルトの後ろから現れた。


「情報は、貴重。チョウさんの悩みがしりたかったら、ポック、あなたの毒を1回ちょうだい」


「はあ!?何に使うんだよ!」


「隣の医学学校の生徒に売る」


「馬鹿か!バレたら停学もんだ!」


「なら、演習後のカイのヒール一ヶ月禁止はどう?」


 とアルテが俺を見た。演習後にヒールをかけてとよく頼まれるんだが、それをやめろというのか。


「それならいいぞ。なあ、カイ」


「え?いや」


 いつも頼まれてしているが、急に断るのも気まずいな。しかし何のために。


「ヒールなんて断りゃいいだろ。するにも魔力使っちまうんだし」


「まあ、それもそうだな」


 と俺が答えるとアルテは満足げに頷き、


「取引成立。じゃ、アルト、情報、あげて」とアルトの後ろに隠れた。


「お前はしらねえのかよ!」


「まあまあ、ポック、姉には逆らわないでくれ。これでもとても優しい一面があるんだ」


 今初めて知ったが、アルテの方が姉なんだな。なんとなくアルトが兄だと思っていた。


「で、チョウさんの悩みってのは?」


 と俺は問うた。

 うむ、とアルトはわざとらしく頷き、「あの武器のことさ」と話し始めた。

 アルトいわく、チョウさんの武器、のんくんは、チョウさんの魔力によって伸びたり太くなったりするらしい。しかし、入学してからこの1ヶ月で、時折なぜか、魔力によって操作できないことがあるという。のんくんは、チョウさんの一族に先祖代々から伝わる特殊武器で、チョウさんは自らの力不足が原因だ、と悩んでいるのだという。魔法演習で同じ訓練を行っているアルトは、それにいち早く気がついたのであった。


「入学するまでは問題なかったんなら、原因はやっぱりリュウドウか?」


 と俺はポックを見た。


「そうだな。リュウドウがいると魔力がうまく発揮できないんだろ」


 とポックは頷いた。


「うーん、そうかなあ」


 ロロ一人が首を傾げた。


「なんだロロ、なんか予想がつくのか?」


 ポックが問うた。


「チョウさんじゃなくて、なんだろう、のんくんの方に原因があるような。うーん」


 確かに。特殊武器に、微細な魔力コントロールは必要ないと聞く。いくらどきどきしていても、武器の変形に支障をきたすほどのことになるだろうか。しかし、リュウドウの線も捨てきれない。


「ともかく一度リュウドウがいるときに探ってみるか。それでリュウドウが原因かどうかは判断できる。そのあとで他の原因を探ろう」


「それなら、いい案があるぜ。ロロ、リュウドウ、協力してもらうぜ」


 とポックは胸を叩いた。


「え、ええ」


 と露骨に嫌そうなのはロロである。

 大丈夫かな。


ーーーーー 

 翌朝、通学路にある大きな木の下に、ロロとリュウドウが立たされた。俺とポックは、近くの塀に隠れて様子を伺う。ロロは見るからに不安そうである。


 昨日のポックによる作戦説明。


「作戦はこうだ。校門手前にでっかい木があるだろ。あの木に、ロロの帽子をひっかけるんだ」


「僕、普段帽子かぶらないけど」


「こまけえことはいいんだよ。あ、ひっかける場所は高い位置にな。リュウドウの剣でも届かない位置。そこにチョウが通りかかる。ロロが、取れないんですとってくれませんか、と頼むってわけだ。ちゃんとリュウドウも念押ししろよ。お前が言わないとロロだけじゃチョウは素通りするだけだ」


 「おお」と返事をするリュウドウに対して、ロロは「大丈夫かなあ」とやはり不安そうであった。まあ、この作戦に「おお」と二つ返事をするリュウドウのほうがおかしいと思うが。


 さて、朝の優しい陽光のなか、チョウさんがやって来た。のんくんを携えて。


「ロロに、りゅ、リュウドウくん。なんでこんなに早く」


 チョウさんは、少し驚いた様子である。それもそのはず、まだ生徒の一人も通学していないかなり早い時間帯である。チョウさんはいつも一番に学校に来ているのだ。


「チョウさん、えっと、僕の帽子があんなところに引っかかってしまって」


 ロロのことばを受けて、チョウさんは、木を見上げる。


「ロロ、あなたいつも帽子被ってないネ」


 やっぱり突かれたか。


「きょ、今日はちょっと気分転換に」


「なんであんな高くにひっかかるネ」


 とチョウさんはロロを訝しげに見た。


「ちょ、ちょっと風に乗ってしまって」


 ロロのぎこちない反応を見て、チョウさんはきょろきょろと辺りを見渡しはじめた。ポックと俺は急いで塀から顔を引っ込める。さすがに杜撰すぎる作戦であったか。


「チョウ、取ってくれないか」


 リュウドウの声である。


「りゅ、リュウドウくんが言うなら」


 結局あっさりするのかい。俺とポックは、再び顔を出し、様子を伺う。

 チョウさんは、のんくんを上へ向ける。

 しかし、伸びない。

 チョウさんの背中に、緊張が走っているのがわかった。それは好きな男子が近くにいるからではない。その手に、魔力を込める以上の力が入っている。微かに震えているようにも見える。

 いやな沈黙を断ち切ったのは、強い風だった。木がわさわさと動くと、帽子がひらりと落ちてきた。


「よ、よかったネ」


 とチョウさんは逃げるように学校へと入っていった。

 いなくなったのを見て、


「重症だな」


 とポックが腰を上げた。


「気まずいな」


 リュウドウは呟いた。


「お前にそんな感覚あったんだな」 


 と俺はリュウドウの肩を叩いた。

 ロロはじろりとポックを見ている。


「はは、まあまあ、二人ともおつかれさん。とりあえずリュウドウが原因ってことがわかったんだから、なあカイ!」


 とポックは俺を見た。


「そ、そうだな。ははは」


 笑って誤摩化そう。

 爽やかな朝である。


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