表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
257/259

ルイ、邂逅

 茂みを抜けたところに、古い船着場があった。小舟が一艘波に揺れている。その手前に、ぼろ小屋がある。ここから、子供たちを対岸のビルシュへ送り届けなければならない。


「ここまででいい。夜を待って、あとは俺たちだけで行く」


 ヴィゴが、語気を強め言った。割れたメガネの奥にある視線は、強い。


「いや、君達だけでは」


「あんたは、船に乗ったことがあるのか?」


 ヴィゴの問いに、たじろぎながらルイは答える。


「いや、ないが」


「なら一緒に行く意味がないだろう。それに、あんた、ビルシュの方に着いてから、どうやってまたこっちに戻ってくる気だ?」


「ふ、船で」


「帰りにバレる可能性だってある。俺たちがビルシュに行くだけなら片道だけど、あんたが戻ってくるのも含めたら往復になってしまう。1回より2回の方が、誰かにバレるリスクが上がるだろう?」


ーーー本当に8歳かこいつ?と思いながらも


「やはり、君たちを送るのを第一線に考えないと」


「俺も理由なく行けると言ってるんじゃない。ブラズ、見せてやれ」


 ヴィゴに言われ、一番のっぽの男の子が「うい」と頷き、おもむろに手を前に出す。

 風が周囲に集まり、小さな竜巻のようなものができる。


「ブラズは風魔法を使える。飯ももらえたし、小屋で夜まで休憩したら、体力も魔力も回復する。対岸までなら余裕だ。なんならあんたの体重分重くなるから迷惑なぐらいだ」


 ルイは、ヴィゴの歯に衣着せぬ言い方に苦笑いする。しかし、全国から選ばれた子供たちだけなあって、ブラズの風魔法も力強いものがある。およそ子供の魔法とは思えない。

 死地を乗り越えた彼らの目はやはり力強い。

 唯一の女の子の、スヴィが言う。


「あ、あの、お兄さん、ありがとう。本当に。お兄さんも、行かないといけないとこ、ある?私たちは、お兄さんの足を引っ張りたくない」


ーーー自分が、行かないと行けない場所。


「国が危ないんだろう?俺たちは本当に大丈夫だ。あんたはもっと多くの人を守るために、ここで俺たちと別れるべきだ」


 ヴィゴが、淡々と言った。

 自分が駄々をこねているような気持ちになった。しかし、本当に彼らは大丈夫そうである。ルイは、所在のなさを隠すようにヘラヘラと口角を小さく上げながら、「ま、まあそうか。そうだよな」とわざとらしく頭を掻き、食料の入った袋をヴィゴに渡した。


「ありがとう。今俺たちが生きているのも、あんたのおかげだ」


 ヴィゴは、袋を受け取りながら、恥ずかしげもなく言った。後ろの3人も、口々に礼を言った。

 口は悪いが、思ったことをそのまま言うやつらしい。しかし、できたやつってのは、小さい時からできてるんだな。

 なんて呑気に思いながら、「ああ。また、生きて会おう」とルイは子供達と別れた。

 船着場を後にし、キャトルの方に戻ってきていた。母親とアルテ、アルトはカギロイに任せた。首尾良く国を脱出してくれるだろう。俺は、俺も国を脱出するのか?ノエルは再び城の方に行ったに違いない。城内で何かが起きているのは間違いない。シュウが気がかりだ。もし何かとてつもない危機が起きたならーーー城から近いキャトルの街が真っ先に危機に晒されるだろう。

 頭に浮かんだのは、アリナの屈託のない笑顔だった。その後で、ファロン夫人の顔も浮かんだ。もうあれから3年以上が経つのか。遠い過去のような、最近起きたことのようにも思える。

 人の賑わいが戻ってくる。家族連れ、若者グループ、カップル、皆がランランと歩くメインストリートに来た。おじさん一人で歩いているのは、俺ぐらいか?となんとなく背中を丸くしながら、視線を地面に表情がこわばりながら、城の方へと歩いていく。


 奇跡的な邂逅だと思った。


「オルソンさん!」


 懐かしい声に、はっとルイは顔をあげた。

 元も高かったが、さらに幾らか身長が伸びている。少し太ったのか、女性らしくなったというのか、体全体が少し丸みを帯びている。屈託のないチャーミングな笑顔は相変わらずで、アリナのその笑顔にルイもまた、つられるように表情がほぐれた。幸福感が、胸の高鳴りがあった。


「あ、アリナさん、久しぶり」


 と高鳴る心拍を隠すように、落ち着きを装い言った。それでも声は、うわずっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ