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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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シュウ、エリックと走る。

 城門を抜ける。人々が騒いでいる様子はない。灰色病は広がっていない。

エリックも、シュウの後を黙ってついてきている。

 白と紫の花が庭園に広がっていた。真ん中にオロフが倒れている。少し離れて、庭師の男が倒れている。普通の死体ではない。二つとも、灰色に変色している。


「気をつけろ。特に血に触れると感染する可能性もある」


 とシュウは死体を検分するエリックに言った。灰色病の感染原因は分かっていない。

 うむ、と落ち着いてエリックは返事をした。


「明確ではないが、オロフは王族のものが持っている黒い石を体に入れたに違いない。適合することはなく、結果灰色のものになった。そしてオロフになんらかの攻撃を受けて、庭師もまた灰色のものになった。俺の傷も、末は俺の身体を灰色に蝕んでいくだろう。これは、王族の一人、ルイーズの攻撃を受けたものだ」


 と早口でシュウはエリックに言い、「城の中へ」とエリックを促した。

 城の扉が開きっぱなしになっていた。エントランスホールは、しんと冷えていた。階下の台座のそばに、ジョージ王と執事のノーブルが倒れている。ノーブルはシュウが斬った。ジョージ王は誰に殺されたのか分かっていない。あるいはルイーズが直接手を下したのかもしれない、とシュウは思った。ノーブルの体の斬り口を見れば、エリックならまず俺が犯人だと気づくに違いない。シュウは隠さずに伝える。


「ジョージ王の死因はわからない。ルイーズが関係していると思う。ノーブルの方は、俺が斬った」


 死体を見ていたエリックの体が、ピクリと反応したかと思うと、シュウの方を見た。手は左の腰にあった。その表情はいつもの無表情ではあるが、すぐにでも剣を抜けるぞと言わんばかりの圧があった。


「護衛兵は、ノーブルの魔法によって行動も言動も縛られていた。王族の、ルイーズの蛮行を知った俺は、致し方なくノーブルを斬った。それ以外に解放はあり得なかった。エリック、俺の審判は後で下してくれ。庭園の異常な死体を見ただろう。国難を避けるのが先だ」


「もっともだ。お前に私への敵意がないのは分かっている」


 と淡々と機械のようにエリックは答えた。つまり、剣を抜くぞという動作自体がシュウからの情報入手へのスムーズ且つ必要な動作だとエリック自身も考えたのかもしれない。役割を演じているのはエリックもまたそうなのかもしれない、とこの冷静な機械に見える元同僚に妙なおかしみを覚えた。

 今度は西塔へと向かう。イザベルの自室で、イザベルとマリーが倒れている。

 そこでようやく、シュウは自身のポケットから黒い石を取り出した。


「これはそこに倒れているイザベル嬢の体から出てきたものだ。もちろん俺が来た時にはすでに二人は死んでいた。多分、オロフがマリーを殺し、不死であるはずのイザベル嬢もそれを機に死んだと見える。イザベル嬢もジョージ王も、何百年と生きた不死とも思われていた存在だ。原因はわからないが、二人の死に際してこの黒い石が腹を突き破るように出てきていると思う。証拠に、イザベル嬢もジョージ王も、腹に同じような傷がある」


「ジョージ王の方の黒い石はどこに?」


「多分、ルイーズが持っていると思うが」


「オロフはどうやって灰色病にかかったと思う?」


「イザベル嬢の指が斬り落とされているのを見ると、オロフはイザベル嬢の持っていた石を飲んだのだろう。王族3人は、それぞれが黒い石を所持していた。体内にあるのとは別にだ。つまり、体内のものも含めると少なくとも計6つの石が存在することになる。


 ある程度説明したいことは終えたとシュウは思った。堅物のエリックを納得させるだけの手順は踏んだ。これでルイーズが封印されている穴を見れば、戦力の必要性を感じてくれるだろう。


「急ぐぞエリック」


 とシュウはエリックを伴いイザベル嬢の部屋を出た。二人の足音が大きくある。城の中は、不自然なほど静かだった。まるでシュウとエリックしかいないように。

 裏門を出た。風は小さな暖かさがあった。太陽はゆっくりと傾きを見せていた。光は柔らかであった。森のどこかで鳥がのどかに鳴き声を上げた。

 シュウのそぞろな気持ちは、それでも変わらなかった。


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