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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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6番街にてシュナを探す。

 リーフ市にある我がルート王立ヴェリュデュール勇者学校は、街の西端にある。その後ろには、中庭を端とした、自然公園という名の森が広がっている。学校を出て東へ10分も歩けば、川が見えてくる。市内を流れるリーフ川である。川沿いの道が整備されており、出店が並んでいる。観光名所にもなっている石造りのアーチ橋を渡れば、そこはもう賑やかな通りである。往来激しい休日の昼間にしか来たことがなかったが、夕方は若干人通りが減ったぐらいで、依然賑やかである。ちなみに、勇者学校の生徒は、街に出るときもだいたい装備をしていく。

 探し人は、シュナである。チョウライとの接点をもつもの。選択演習の投擲が同じで、前にシュナの会話でもチョウライの名前がでてきた。少なくともここにいる俺たちよりは話をすることができるだろう。

 数刻前、学校の中庭にて。


「キャンディ?ってことは『リーフ・デ・キャンディ』のことじゃないかな。不思議な飴が売ってるとかで、6番街で流行ってるらしいけど」


 とロロは貴重な情報を残し、リュウドウとともに森に入っていった。デメガマにドロ蜜を上げにいくと。一人で心配だったが、「いや、やっぱりデメガマは僕が連れて来たんだから、僕がいかないとね!」と譲らなかった。ポックいわく、前のように誰かに付けられている感じはないので、まあ大丈夫だろうと。しかしやっぱり心配なのでリュウドウがついていくことに。これで戦闘面での心配は減ったが、しかし道に迷う不安は増えたな。


 ポックと二人で、とりあえず6番街に向かう。6番街とは、若者向けの流行の店が多い通りである。きゃぴきゃぴしているイメージがあったので、避けていた。


「この通りにあるはずなんだが」


 ヴェリュデュール勇者学校、その隣に併設されたヴェリュデュール医学学校、それ以外にも、リーフ市にはいくつか学校がある。やはりというか、6番街には学校帰りの学生が多い。


「あそこだ」


 ポックが指差した。

 看板に、『リーフ・デ・キャンディ』と斜体で書かれている。テラス席で学生がおしゃべりしている。一様に持っているコップの中に、少し大きめのキャンディのような丸い玉が入っている。そこから泡がしゅわしゅわと出ている。


「なんだよ、早く入れよ」


 前を歩いていた俺を、ポックが急かす。いや、おしゃれな店って入りづらい。女子率高そうだし。


「いくぞ、カイ」


 じれたポックが扉を開ける。

 カランコロンと小気味良い音が鳴る。最近のヒットチャートが流れている。ピンクの壁紙が目に痛い。

 右手にはテーブル席が3つ並んでいる。テラスの方が人気なのか、誰も座っていない。


「いらっしゃ〜い」


 と奥のレジカウンターからだるそうな声がした。バンダナからはみ出た茶髪、浅黒い肌、濃いアイメイク、口には棒キャンディー、ザ・ギャル店員である。


「テイクアウト?ならそっちから選ぶっしょ」


 とギャルは左手にある棚を指差した。キャンディボックスと書かれた棚には、飴の入った瓶がずらりと並んでいた。どれも種類が違うらしく、袋に入れてテイクアウトできるらしかった。


「な、なんか、買っていかないとな」


 とどぎまぎしている俺をよそに、ポックは、「へえ〜面白いじゃねえか」と瓶を物色し始めた。さすが本当は女。助かる。瓶のそばに小さなボックスがあり、そこに入ったキャンディの破片を味見できる。


「これがマジ人気。試す?」


 とまるでやばい薬を進めるように、ギャル店員はレジを出て来た。グレーのパーカーにショートパンツと、ギャルっぽいラフな格好である。キャンディを一つコップにいれ、そこに透明な液体を注ぐ。キャンディから、気泡が発生する。


「ん、なんだ、ただの炭酸じゃねえか」


 味見したポックが言った。忌憚ない。


「へへん、そうなんだよねえ、でも、この炭酸キャンディはなんと、半日もつってわけ。強炭酸を長い時間保てるマジすごいキャンディってわけ!ウチしか作れないかんね!」


「男のほうが需要ありそうだが」


 と俺は客層の違和感を覚えて言った。


「ま、たしかにい。テイクアウトの多い朝一は男の方が多かったりするしね」


 カランコロンと、扉が開いた。


「なんであんたたちここにいんのよ」


 入店早々、俺たちを見たロゼの第一声である。まあ、確かにごもっともだが。


「シュナに用があってな」


 とロゼの隣にいるシュナを見る。


「え?私?」


 きょとんとするシュナ。


「カイ、あんたにシュナに触れさせるわけにはいかないわ!」


 ロゼがシュナをかばう。先日の俺がシュナに覆い被さった(わざとではない)一件以来、ロゼがガードマンのようになっている。


「いや、あれは誤解だよ、ロゼ」とシュナが苦笑いを浮かべる。


 ロゼは、シュナを俺から守るようにして移動し、キャンディボックスの棚を物色し始める。


「マジカルキャンディ?」


 ロゼとシュナが見ている棚に、そう書かれていた。


「そうよ、カイ。この棚のキャンディは普通ではないの。なんと、魔法が込められている!」


 ロゼは、まるで自分がつくったかのように自慢げに言った。


「そうなわけ!マジ私しかつくれないかんね!試す?」


 ギャル店員が瓶からキャンディを取り出し、俺に渡す。

 舐めてみる。普通のキャンディだが、


「うげ、いってえ、なんだこれ!」


 ぱちぱちと口の中ではじける。舌がひりひりする。


「びりびりキャンディ!雷魔法を込めた新作!てか魔法をキャンディに込められるのってまじ私だけだかんね!?まじうけない!?」


「うけねえよ!」


 口の中がいてえ。なんだこの飴。


「私はひえひえキャンディにしようかな。チョウさんが結構好きで」


 とシュナが、瓶を開ける。チョウさんってのはチョウライのことだな。


「シュナ、そのチョウライのことで訊きたいことが」


 俺のことばが終わらないうちに、店の外で大きな音がした。

 悲鳴も聞こえる。

 店外へ出る。

 ポーチを持った男が猛スピードで前を駆け抜ける。常人のスピードではない。魔法か。


「その男!ひったくり!」


 取られた本人か、周りの人か、定かではないが、女の声が6番街にこだまする。


「許せない!」 


 とロゼが真っ先に走り出す。シュナが追いかける。


「早く来い、カイ!」


 とにやりと笑ったポックも駆け出す。こいつだけは野次馬精神である。

 人ごみを縫うように走る。


「って、なんであんたも!」


 俺は並走する女を見て驚いた。


「面白そうじゃン!」


 ギャル店員である。しかし、よくこのスピードに付いてこられるな。一応勇者をめざし日々訓練しているんだが。 




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