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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ヤング先生を探る。

 朝はやはりだるいものがある。しかし、このだるさには他にも理由があると思う。朝一のホームルーム、白髪まじりの髪の毛、眠そうな目、ややずれた丸めがね。我がクラスの担任である初老のヤング先生が、プリントの連絡事項をだらだらと読んでいる。こちらまでだるくなる。話し終えると、ヤング先生は、まるで家の中を歩くようなだらけ具合で教室を出て行く。

 かと思えば、チャイムとともにやって来たのはモンスター学の爽やかなイケメン、トーリ先生である。今日も白い歯が光っている。ようやく、集中しなければと、体が起きだす。ヤング先生の時とは違い、特に女生徒の背筋が伸びている。トーリ先生の一番のファンは隣のクラスのロロだろうけど。


「、、、など、人型のモンスターは、現在5体確認されています。グリムヒルデはすでに取り上げましたが、今回は、『マリシ』というモンスターです。情報が少ないので、さっとしかできませんね、このモンスターについては。魔法は実のところわかっていません。目撃したものはわずかで、しかも見たのも一瞬であり、なんの前触れもなく現れてはその地を荒らしていくというやっかいなモンスターです。多彩な武器を使う、見えないところから矢や剣で襲われた、という情報もあります。特徴としては、両耳の裏側に大きなこぶのようなものがあるということ。実際それしかわかっていないのが現状です。他の人型同様、もしそれらしきものに遭遇したら、とにかく逃げることを考えでください。チャイムですね。では今日はこれまで」


 そろそろ試験を見据えて勉学にも集中しなければいけない時期になってきた。しかし、朝の一発目はやはり眠く、途中の記憶がない。後でシュナにノート見せてもらおう。

 2限目は魔法学である。

 グラス先生が、チャイムとともに教室に入ってきた。

 生徒の背筋が伸びる。


「、、、、武器に魔力を纏わせることは、だれでもできる。アルトやチョウライのように、特殊武器に魔法を込めるのと近い。しかし、特殊武器ほど個性や変化はでない。ことば通り、纏わせるのみだ。剣に火を、弓に毒を、といった感じだな。それでもかなり戦闘に広がりがでるし、必ず通るべきステップの一つだ。そろそろ演習でも行っていく」


「あの、身体強化でも剣に魔法を纏わせたりはできるのでしょうか?」


「シュナ、残念ながら、身体強化魔法にはこれはない。もしできれば、剣をマッチョにすることができるかもしれないな」


 グラス先生の珍しい冗談に、教室に笑いが起こる。

 照れ気味のシュナである。まてよ、ヒールはどうだ。


「ヒールはどうなるのでしょうか」


「カイ、ふむ、難しい質問だ。答えは、すまないがわからない。打ち消し合うと考えた方がいいのか。剣に聖なる魔力を纏わせ、刺す。これは可能だが、魔法の力と剣によるダメージのバランスによっては回復にもダメージにも振れると考えられている。が、試す場面がないというか、試したものがいない。わざわざ剣にヒールを纏わせて刺すなら、直接ヒールした方がいいからな。投擲武器ならどうか。聖なる魔法は本当に特殊で、その身体から離れた瞬間に効果がなくなってしまう。つまり、火や氷、毒のように、飛び道具に付加させるということができないんだ」


「なるほど」


 投擲にも使えないなら意味はないか。


「聖なる魔力は本当に未知なところが多い。負のエネルギーを除去するような働きがある、と考えられている。怒りや苛立、錯乱さえも治める効果がある、という実験結果もある。それを利用して、最近ではヒール魔法配合の香水やアロマなどが売っていたりするが、それはまやかしだ。先ほど述べたように、ヒールは術者と繋がっていないと効果が切れるからだ。騙されて買わないように」


 ふーん。いろいろ考える商売人がいるんだな。

 午前の座学の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 ふと疑問が浮かんだ。

 ヤング先生はなんなんだ?


「ヤング先生ってなんでいるんだ?」


 昼休憩、いつものごとくリュウドウ、ロロ、ポックと昼飯を食べながら、俺は沸いた疑問を誰となしにぶつけた。


「確かにそうだな。授業も担当してねえし、朝のホームルームだけ。お前らのとこはタケミが担任だよな?」


 ポックの問いに、「うん。そうだよ」とロロが答えた。甲冑姿で素顔がわからない且つ喋らないタケミ先生に、連絡事項を伝えるという高難易度の任務がクリアできるのか。


「プリントだらけで困っちゃうんだ」


 ロロのことばに、納得がいった。タケミ先生、剣技演習のときと同じように、プリントと身振り手振りで乗り切っているのか。ケントさんがいれば何の問題もないのだが。いや、そもそもタケミ先生を担任にするって、かなり間違った人員配置である。


「ヤング先生は、最後の見回りもしているな」


 リュウドウがぼそりと呟いた。

 そういえばそうだな。だらだらと遅くまで学校に残っていると、ヤング先生に声をかけられることが多い。いつも寝起きのような感じで。


「中庭のガーデニングをよくしているよ。水をあげているところを見るし、そのそばの小屋から出てくるところを何度も見た」


「ロロ、それって、渡り廊下から見えるあの小屋か?」


 俺の問いに、「うん」とロロは頷く。

 ポックが、教室の壁にかけられた時計を見て「行ってみるか!?」と嬉しそうに立ちあがった。

 さっさと昼飯を切り上げ、中庭へと向かう。


 日差しが強い。

 中庭にはひと際大きな木がある。その木を中心にして飾り気のない庭木が規則的に並んでいる。ヤング先生の趣味が伺える。そこから右奥に向かうと、畝が並んでおり、そばに小屋があった。ぼろ小屋である。


「いねえな。ただのガーデニング用の物置だ」


 ポックが、小屋の小窓を覗きながら言った。


「まあ、こんな昼間から土いじりはしないか」


 と俺は、額の汗を拭う。


「そういえば、前にどっかの部屋から出てくるのを見たな」


「どこだそれ、ポック」


「教科ごとの準備室あるだろ?あの手前らへんだったな」


 ポックを先頭に、足早に向かう。午後の魔法演習が近い。

 数日前にネギリネのことで植物学準備室を訪ねたが、その廊下沿いには魔法学準備室、地理学準備室、モンスター学準備室など、教科ごとの準備室が並んでいる。授業でいくことはないので、殆ど足を運ぶこともない。その教科準備室に向かう手前の廊下で、女生徒が一人、立っていた。ツインのお団子ヘアー。肌身離さず持っている、変わった棒。隣のクラスの。


「チョウライさん」


 と同じクラスのロロが声をかけた。

 チョウライの大きく少し吊った瞳が、こちらを見た。すぐ目を伏せ、そのままその場を去っていった。うっすら涙が浮かんでいた。ように見えた。


「あそこだ、あそこから出て来たんだ」


 ポックが、チョウライの立っていたところへ向かう。

 廊下の真ん中に、小さな部屋があった。扉には、「カウンセリングルーム」と書かれた札がかけられている。

 そのとき、予鈴がなった。


「やべえ、急ぐぞ!」


 ポックが走り出した。ポックにも、グラス先生の演習に遅刻してはいけない、という常識が身に付いたようである。

 途中でリュウドウと合流した。


「お前どこいってたの?」


「トイレだ」


 と朴訥と答えた。いなくなってたの気づかなかった。

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